「あと10年持つか」 長崎・五島の限界集落 移動スーパーも来ず…子らの手助け欠かせぬ生活

かつては田んぼだった休耕地を示す地元の男性=五島市岐宿町戸岐ノ首

 長崎県五島市中心部から車で約20分の岐宿町戸岐(とぎ)ノ首地区。見渡す限り山林と原っぱが広がっている。「ここは田んぼだったが、もう作物を作る人はいない」。地元住民の男性(68)が休耕地となった一帯を示しながら、つぶやいた。現在暮らすのは高齢者ばかりの2世帯だ。
 男性が子どものころ地元に小中併設校があり、同級生は11人いた。だが中学校は生徒が少なくなって廃止され、隣の唐船ノ浦地区から湾を挟んだ地域にある岐宿中に渡海船で通った。地元の高校を卒業後、県外の自動車メーカーに就職。6年前、高齢の両親の世話をするため帰郷した。
 渡海船は約15年前に廃止され、移動スーパーも来なくなった。路線バスも走っていない。「マイカーがなければ、ここには住めない」と男性。3年前に父を亡くし、母は市内の福祉施設に入所している。「集落はあと10年持つかどうか」。近くには人が住まなくなった漁村も少なくとも2カ所あるという。
 ここのように過疎化などで働き盛りの人口が減り、65歳以上の住民が半数を超える地区は、いわゆる「限界集落」と呼ばれる。4世帯が暮らす唐船ノ浦地区もその一つだ。結婚を機に戸岐ノ首から移り住んで60年以上となる中村カメさん(86)は車を持っていない。このため買い物は、離れて生活する長男一郎さん(59)の車で週2回ほど、市街地のスーパーなどに送迎してもらっている。
 同地区から約10キロの岐宿支所などがある地域までは乗り合いタクシーが運行しており、市も補助金を出して片道500円で利用できる。だが多くの病院やスーパーなどが集まる市街地までのルートはなく、中村さんは昨年使うことはなかった。
 五島市の昨年11月の人口は約3万5千人で、約20年前から1万3千人ほど減少した。同1月の高齢化率も県平均を約8ポイント上回る41.5%。県内市町で3番目に高い。市中心部の福江港から船で20分の二次離島の椛島(84人)は65歳以上が半数超を占める。奈留町(1845人)は21町内会のうち19で、玉之浦町(1169人)は25町内会のうち20で同様の状況だ。市政策企画課は「二次離島や、市街地から離れた地域で、限界集落になる傾向にある」とみる。
 限界集落では公共サービスの維持が困難になり、生活は唐船ノ浦の中村さんのように子どもや親戚の手助けが欠かせない。長男一郎さんは「人口が減りどんどん不便になる。ますます人は増えないだろうね」と苦笑いする。

五島市の地図

© 株式会社長崎新聞社