日本国内における水素エネルギー供給事業に関する調査を実施(2023年)~国内における水素エネルギー供給量(国産水素+輸入水素)は2028年度には100万tに達すると予測、国産水素は再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域を中心に、水電解による水素製造・供給事業の展開が進む見通し~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、国内の水素エネルギー供給事業を調査し、市場動向や有力プレイヤーの動向、将来展望について明らかにした。ここでは、日本国内における水素エネルギー供給量(国産水素+輸入水素)の2050年度までの予測について、公表する。

1.市場概況

水素は、燃焼時にCO2を排出せず、さらに水やバイオマス資源(下水汚泥、家畜排せつ物等)、化石資源といった多様な資源から製造することが出来る。また、エネルギーに起因したCO2排出量の削減や、政治や経済、国際情勢の変化に左右されずにエネルギーを安定的に供給するエネルギーセキュリティの強化に寄与するエネルギーである。

日本国内では、産業部門や運輸部門などにおけるカーボンニュートラル実現のキーテクノロジーとして水素が位置付けられており、水素利活用の促進や水素供給量の拡大につながる技術開発及び実証事業の取り組みが広がっている。また、地方自治体などでは、地域資源を活用した水素エネルギーの製造モデルを構築して、エネルギーの地産地消や災害時のBCP(事業継続計画)対策を目指す動きがみられる。
将来的には、発電や機器の動力源、工場の熱供給など様々なエネルギーの用途を、メインの水素供給先とする水素製造プラント数の増加とともに、水素の輸入量も増加する見通しである。日本政府や地方自治体、民間企業など水素エネルギー市場に関わるプレイヤーの取り組みが概ね計画通りに進んだ場合、日本国内における水素エネルギー供給量は2028年度に100万t、2029年度に200万t、2030年度には300万tになると予測する。

2.注目トピック~グリーン水素製造・供給の事業モデル

製造時にCO2の排出が無い水素は「グリーン水素」と呼ばれている。このグリーン水素の代表的な製造方法となるのが「再生可能エネルギー由来の電力を使った水の電気分解(水電解)」である。日本国内では、北海道や福島県、山梨県など再生可能エネルギーのポテンシャルの高い地域を中心に水電解によるグリーン水素製造・供給事業が検討、実施されている。

水電解によるグリーン水素製造・供給事業が既に始まっている地域では、民間企業や、地方自治体、公的機関などが連携しながら水素供給サプライチェーンの構築や水素供給先の拡大の取り組みを進めている。
各種取り組みを通じて、新たな水素供給先の開拓のような事例が出てくる一方で、水素製造プラントの安定稼働や水素供給コストの低減といった課題が指摘されている。今後、日本国内においてグリーン水素の供給量を増やしていく上で、先行する事業のモデルケースを水平展開するとともに、課題解決につながる技術開発などの取り組みが重要になると考えられる。

3.将来展望

関東や東海地方など沿岸部に大規模な工業地帯を抱える地域では、基幹電源や工場において大量の水素エネルギーの需要が見込まれる。このような地域では低コストの水素エネルギーを大量かつ安定的に調達する必要があるため、まずは輸入水素の活用を基軸とする取り組みが進む見込みである。一方、北海道や東北地方など再生可能エネルギーのポテンシャルの高い地域では、水電解で製造したグリーン水素を活用した地産地消型の水素エネルギーの利用が中心になる可能性がある。

2030年代から2040年代には、国内外で水素製造プラントの新増設が続き、かつ日本国内で再生可能エネルギーのコスト低減が進み、水電解によるグリーン水素製造が普及すると想定すると、日本国内における水素エネルギー供給量は2035年度に700万t、2040年度に1,200万t、2050年度には2,000万tになると予測する。

© 矢野経済研究所