アイロボット、アマゾンの買収が「白紙」に戻ったらどうなる?

アマゾンの子会社となることで販売のテコ入れを図りたいアイロボット(Photo By Reuters)

米アマゾンが進めている米家庭用掃除ロボット大手・アイロボットの買収が、EU(欧州連合)によって「待った」がかかりそうな状況になっている。EUの競争監視機関がアマゾン側に同買収を阻止する可能性が高いと伝えたという。すでに英国の規制当局には合併を認められているが、市場規模がはるかに大きいEUでの判断だけに影響は大きい。

赤字転落したアイロボット

仮にアマゾンが買収を断念した場合、アイロボットの経営状況はさらに厳しくなりそうだ。「ルンバ」で家庭用掃除ロボットの市場開拓に成功し、一時は同社の独壇場だったが追随するメーカーが続出。価格競争が厳しくなり、2022年12月期は売上高が前期比24.4%減の11億8300万ドル(約1752億円)と大幅減収、営業損益は△2億4000万ドル(約355億円)と赤字に転落した。2023年に入ってからも1〜9月までは赤字が続いている。

アイロボットの時価総額は2021年2月12日につけた37億5000万ドル(約5554億円)から、2024年1月24日には約5億2000万ドル(770億円)と7分の1以下に暴落している。アイロボットは、ネット通販世界最大手のアマゾンの子会社となることで、販売力を強化して巻き返しを図ろうとしている。しかし、まさにそれが買収の障壁になった。

EUの執行機関である欧州委員会は「アマゾンはアイロボットの競合他社が自社のマーケットプレイスで製品を販売できないようにしたり、アクセスを制限したりすることで、競合他社を排除する能力とインセンティブを持っている可能性がある」と指摘し、ロボット掃除機市場における競争を阻害しかねないとの懸念を表明している。


すでに足元の株価は買収価格の3分の1以下に下落

アイロボットの株価は24日時点で18ドル48セント(約2737円)と買収同意価格の61ドル(約9035円)を大きく下回り、予定通り買収を進めれば、330%ものプレミアムになる。成長著しいスタートアップならともかく、アイロボットは「成長期を過ぎ、停滞期に入ったベンチャー」との見方がもっぱら。アップルの株主からは「買収額が高すぎる」との反発は避けられないだろう。

同様の事態は仏LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンによる米ティファニーの買収で起こった。2019年11月に約162億ドル(約2兆4000億円)で買収が決まったが、2020年9月に新型コロナウイルス感染症の拡大や米国内の情勢悪化を理由に買収撤回を表明。これにティファニーが猛反発して提訴の動きを見せた。同10月に買収価格を158億ドル(約2兆3400億円)に値下げして再合意している。

アイロボットにとっては「安く買い叩かれてもアマゾンに救済してもらう」か、「契約通りの価格で買収してもらえないのであれば、買収をご破算にして独自で生き残りを目指す」の二者択一となりそうだ。

文:M&A Online

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