米ナスダック上場で破産した「空飛ぶバイク」ベンチャーの悲劇

「XTURISMO LIMITED EDITION」の発売を目前に控えていたA.L.I.(同社ホームページより)

「空飛ぶバイク」が失速した。有人小型ドローン開発ベンチャーのA.L.I.Technologiesが2024年1月10日に破産開始の決定を受けた。2021年2月には同社創業者が立ち上げた米AERWINS Technologiesを通じて米ナスダック市場に新規上場(IPO)して将来が有望視されていただけに、それから1年も経たずに経営が破綻したわけだ。同社に何が起こったのか?

米ナスダック上場で巨額の資金調達を図ったが

A.L.I.の前身は、2016年に東京大学航空宇宙工学専攻の学生たちがドローン開発で立ち上げたスタートアップ。債務超過状態だったドローン開発事業を外資系投資銀行やヘッジファンドでトレーディング業務に従事していた小松周平氏が買収。小松氏自身や国内エンジェル投資家から資金調達し、2017年2月にエアリアルラボを設立。小松氏が社長に就任した。

2023年中には世界初の実用型ホバーバイク「XTURISMO Limited Edition」を世界限定200台でを納品する予定だった。ドローン物流のハードウェア開発を手がけるエアロネクストを創業したほか、他にもドローン関連会社への出資やITエンジニア会社の買収など、創業期からドローン関連技術のM&Aを展開している。

2019年1月にはA.L.I.Technologiesに社名変更したが、この頃にはドローン事業の黒字化し、連結決算は国内有人ドローン会社としては最大規模に成長したという。これを受けて2019年11月にJR西日本イノベーションズ、京セラ、三菱電機などから総額23億1000万円の資金調達に成功する。

2021年10月には世界初の実用型ホバーバイク(小型有人ドローン)の 「XTURISMO Limited Edition」を発表。7770万円(税込)で世界限定200台の受注予約を始め、2023年中の納品を目指していた。ドローン量産にはさらなる資金調達が必要で、小松氏はナスダック上場をにらんで米AERWINS Technologies Incを設立。自らが会長兼CEO(最高経営責任者)に就任した。

2023年2月にSPAC(特別買収目的会社)のPONO CapitalとのDeSPAC契約によってAERWINSがナスダックへの上場を果たした。DeSPACとはIPOした「空箱」状態のSPACに買収されることで上場をする手法。A.L.I.は親会社のAERWINSごと「空箱」に収まることで上場を果たしたのだ。


IPOではなくオープンイノベーションを選んでいれば…

ところが蓋(ふた)を開けてみるとSPACの99%が償還され、1億6000万ドル(約236億円)あった資金は160万ドル(2億3600万円)に目減り。そのためPONOは1株16ドル(約2360円)を予定していた初値を同1ドル(約147円)に値引きした。1ドル上場の結果、IPOで調達できたのは500万ドル(約7億3800万円)に留まった。

2月に合併後の初市場取引が始まるが、PONO側がIPO費用を捻出するために一時は15ドル(約2200円)を超えていた同社株を大量に売却した結果、市場取引が始まった翌週には1ドル台、3月以降は1ドルを割る。IPOによる資金調達が期待を大きく下回った結果、A.L.I.は深刻な資金難に陥った。同月には創業者の小松氏が解任されている。

A.L.I.は新たなスポンサー探しに奔走するが、1カ月に2億円近い資金を必要とする同社に手を差し伸べる会社は、ほとんどなかった。これにはナスダックでの株価低迷がブランドイメージを毀損(きそん)した影響もあった。すでにポストコロナの景気過熱で金利が上昇、これまで次世代テクノロジーベンチャーを支えてきた余剰資金も枯渇している。

そこで手を差し伸べたのがIPOを成功させた実績を持つ投資家のキーラン・シドゥー氏。シドゥー氏は巨額出資の引き換えにAERWINSの取締役ポストを要求。同5月にシドゥー氏ら3人が新取締役に名を連ねる。ところが取締役に就任したシドゥー氏らはAERWINS株の希薄化をたてに出資の約束を果たさず、ついにA.L.I.は資金面で行き詰まった。

A.L.I.はナスダック上場で「起死回生」を図ったが、むしろそれが「命取り」になった格好だ。すでに実用機のリリースを目前としていた同社がIPOではなくオープンイノベーションによるM&Aを選択していれば、結果は変わっていたかもしれない。

文:M&A Online

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