【ジョン・ミッチェル特約通信員】在日米国大使館(東京)が日本の報道記事9万点以上を英訳するなどして、誰でも英語で読める形で公開していたことが分かった。新聞、放送など計115媒体(昨年12月時点)の米国関係記事を10年分、ウェブサイトに掲載していた。本紙の記事も無断で使用しており、著作権法に違反する可能性がある。
英文記事サイトのタイトルは「ジャパン・メディア・ハイライツ」。大使館広報課内の報道分析・翻訳チームが制作している。
記事は、新聞43紙、雑誌42誌、テレビやウェブメディア30媒体から収集した。日本語記事を英訳する場合と元から英語の記事を転載する場合があり、一部の記事は写真も含む。風刺漫画はこまの中に描かれている日本語のせりふを消して英訳をかぶせる改変を加えている。
これらの記事はキーワードなどで検索できるほか、政治、経済など分野別にも整理されている。沖縄も一つの分野として扱われ、9960点を収録。米軍の事件・事故や辺野古新基地問題についての記事がある。
■誰でも見られる状態でサイト公開
大使館も掲載記事が著作物であることは認識しており、サイトには「米政府用」「一般への拡散を禁じる」などの注意書きがある。閲覧にIDとパスワードが必要とも記すが実際には不要で、誰でも見られる状態にあった。
著作権法は、著作権者の許諾を得ずに著作物を複製、公衆送信、翻訳することを原則禁じている。2020年には環境省が契約を結ばないまま91媒体の記事を職員にメール送信していたことが著作権侵害だとして問題になった。本紙は昨年12月22日、著作権侵害の認識などを大使館に質問した。大使館は現時点で取材に回答していない一方、同24日までにサイトを外部から見られないようにしたことが確認された。
■専門家「米国法でも著作権侵害」
本紙の記事も1977件掲載されているが、大使館から使用申請はない。著作権法に詳しい唐津真美弁護士(日本、米ニューヨーク州)は在日米国大使館の英文記事サイトの一部を見た上で、「問題だらけだ」と指摘する。(編集委員・阿部岳)
サイトが元々想定していた米政府部内の使用でも、「私的利用の範囲をはるかに超えており、記事や漫画の無断翻訳、漫画や写真の無断ダウンロードの問題が生じる。適法な引用に該当するとも思えない」。関係者多数が見られるようにしているのも著作権を侵害する「公衆送信」に当たるという。
実際はIDやパスワードは必要なく誰でも見られる状態で公開されており、さらに影響は大きい。「多くのメディアが過去記事の閲覧を有料サービスにしている。大使館に著作権料支払いを求めることができる」と指摘する。
サイトに関する作業が一部でも日本国内で実施されていれば「不法行為の行為地として日本の著作権法が適用される可能性が高い」と分析。サイトの内容は米国法でも基本的に著作権侵害に当たるとみている。