米政府、ヨルダン川西岸の入植者に制裁 暴力が「受け入れられない水準」と警告

アメリカのジョー・バイデン大統領は1日、イスラエルが占領するパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人を攻撃したイスラエル人入植者4人に制裁を科すと発表した。

大統領令では、ヨルダン川西岸での暴力が「受け入れられない水準」に達したとしている。

制裁対象者は今後、アメリカの不動産や資産、金融システムにアクセスできなくなる。

ヨルダン川西岸地区では、昨年10月7日にガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃して以降、暴力が加速している。

国連によると、この攻撃以降に約370人のパレスチナ人が殺害された。その大半はイスラエル軍によるものだが、少なくとも8人は、イスラエル人入植者に殺されたという。

今回の大統領令により、パレスチナ人を攻撃・脅迫したり、パレスチナ人の資産を接収したりした外国人を、アメリカ政府が制裁できるようになった。

バイデン政権がこうした制裁を科すのは初めてで、イスラエル人を対象としている点でも珍しい。バイデン氏は直後に、イスラエル支持に批判的なアラブ系アメリカ人が多いミシガン州を訪問することになっている。

アラブ系アメリカ人協会は先に、アラブ系アメリカ人の民主党支持率が2020年の59%から、イスラエルとハマスの紛争が始まって以降はわずか17%まで下がったと発表していた。

バイデン政権の高官は1日、大統領はイスラエルに対して繰り返し、入植者による暴力について懸念を表明していたと述べた。

アメリカ政府は昨年12月、ヨルダン川西岸で暴力行為をはたらく過激派に対して、ビザ(査証)の発給を禁止すると発表している。今回の大統領令は、この問題に対するアメリカ政府の対応の基礎となるもので、ビザ発給禁止より踏み込んだものになっている。

バイデン氏は連邦下院に対する書簡で、「西岸地区の状況、特に過激派の入植者による暴力や、人々や村落の強制追放、財産の破壊といった行為は、受け入れられない水準に達しており、平和と安全保障、安定に対する深刻な脅威となっている」と説明した。

米政府高官はまた、制裁の第1弾の対象となった4人は、「暴力を直接行った個人や、脅迫や財産破壊を繰り返し、パレスチナ人コミュニティーの強制移住の原因となった人々」だと述べた。

これには、フワラの町でパレスチナ市民が死亡した暴動を引き起こし、指揮した者が1人、石やこん棒で人々を攻撃した者が1人含まれているという。

その上で、この大統領令は「非差別的」なものであり、民間人に対する暴力行為や脅迫、破壊、財産の押収、テロリズムを指示したり、それに加担したりしたイスラエル人とパレスチナ人双方に適用されると付け加えた。

米財務省は、制裁対象となったイスラエル人はデイヴィッド・チャイ・チャスダイ氏(29)、イノン・レヴィ氏(31)、エイナン・タンジル氏(21)、シャローム・ツィヒャーマン氏(32)だと発表。このうち3人がヨルダン川西岸地区の入植地に、1人は占領地の境界近くに住んでいるとした。

一方、こうした暴力に関わったとみられているアメリカ国民に、今回の制裁は適用されないという。

米国務省のマシュー・ミラー報道官は、米政府は「この制裁が4人に影響を与える」とみており、イスラエルが「入植者の暴力に関与する人々の責任追及にもっと力を入れる」ことを期待すると述べた。

イスラエルは不満を表明

バイデン氏が大統領令に署名した直後、イスラエルは不満を表明し、ヨルダン川西岸地区の入植者の大半は「法を守っている」と述べた。

イスラエルの首相官邸は声明で、「イスラエルはあらゆる場所で違法者に対する措置を取っているため、この問題について異例の対策を取る必要はない」とした。

こうした反応は、アメリカとイスラエルとの溝が深まっていることを示している。

両国の首脳は長年、友好関係にあるが、ここ数週間は、独立したパレスチナ人国家を作ることについて意見が一致していない。アメリカは、この地域の長期的な安定には、イスラエルの隣にパレスチナ人国家が共存する「2国家解決」が不可欠だとしている。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこの案を繰り返し拒否している。1月には米ホワイトハウスが、両政府は「明らかに違う立場にある」と認めた。

これらの発言は、イスラエルとパレスチナの指導者たちが外交交渉を再開し、眠っていた和平プロセスを始動させるという、一部の関係者の期待に水を差した。

(英語記事 US sanctions Israeli settlers over West Bank violence

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