観光客が激減 金沢に戻らない“活気” 「実害がないのに助けを求めていいの?」「自分たちは被災者なのか」ゆれる割烹店主の思い

平時なら観光客で賑わう近江市場(株式会社システムサポートより提供)

2024年元日、石川県を襲った能登半島地震からひと月。石川県では依然として余震が発生しており、能登半島を中心に被災した方々の予断を許さない状況が続いている。

震災被害が大きい輪島や珠洲に比べれば、金沢市内の被害はそれほど大きくはなく、生活も少しずつだが戻りつつあるという。

金沢といえば国内でも人気の高い観光地。しかし、訪れる観光客は激減し、活気を失いつつある街の状況は非常に厳しい。金沢市で暮らす人々を取り巻く状況は単純ではないのだ。

2024年元日、日常が一変した

金沢市長町のせせらぎ通りで創業51年の老舗割烹「味処 高崎」を営む高崎さんは、震災当日、ご家族とともに自宅マンションにて過ごしていた。

16時10分、大きな揺れに見舞われる。

自宅マンションのある5階も大きく揺れた。室内は物が落ちてめちゃくちゃになった。揺れの大きさに不安を覚えた高崎さんは状況を確認するために店へ向かう。

店内にある生簀の水がこぼれ、グラスが割れた程度の被害だったため、その後、年始の営業は当初の予定通り6日に開始された。

しかし平常運転とはいかなかった。

「もともとカウンター席や桟敷席などをあわせて50席が満席だった予約はキャンセルが続き、4件まで減りました。余震なども続いている何が起きるか分からない状況ですから、安全なので来てくださいとも言えませんし、来たからには楽しんでもらいたいですから、こればっかりは仕方がないことです」

通常ならば1月は加能ガニの旬真っ只中の時期となり、店は満席が続く繁忙期だそう。しかし例年の半分程度しか席が埋まらない苦しい状況が続いている。

そして震災の影響による観光被害だけではなく、一見すると被害が小さいように見える金沢市でも住民の心に震災の爪痕は深く刻みつけられていることも事実だ。

自分たちは被災者なんだろうか――八方塞がりの現実

味処 高崎のあるせせらぎ商店街も閑散としている(株式会社システムサポートより提供)

観光客の激減に打撃を受ける金沢市の状況は、国からの補助金などでなんとか耐え忍ぶことができた新型コロナウイルス流行時よりもさらに深刻だと、同業者たちは口を揃えている。

「何が起きるか分からない状況では、どこにどう動いて何をしたらいいのか、その糸口すらも見えてこない」と高崎さんは語った。

「まだ水や電気を使えない地域や、家や仕事を失ってしまった人たちのことを思えば、実害がない自分たちが助けを求めていいんだろうかと思います」

だが物理的に目立った被害がなく、表面的には元の生活を送れているように見えたとしても、あまりに大きな震災の影響は、確かに金沢で暮らす人々の生活を蝕んでいる。

「僕らよりももっと深刻な被害を受けた地域があって、輪島や珠洲の人たちと比べて被災してないと言われれば被災していないということにもなりますから、心の持ちようがすごく難しいです」

震災の影響には、確かに地域ごとの濃淡があるのだろう。しかし目に見える被害がないからと言って何事もなく日々を送れるはずもない。今回の取材に快く応じてくれた高崎さんの気丈な語り口には、ままならない現実と向き合おうとする真摯さが感じられた。

高崎さんは取材のなかで、「能登の人たちと比べれば大したことないんだから歯を食いしばって頑張らなくちゃいけない、と思ってなんとかやっています」と声をわずかに震わせていた。

もちろん能登地方の震災被害は深刻だ。家や仕事を奪われ、命すら脅かされ、安心して眠れる夜を迎えられない人々がいることを、私たちは忘れてはいけない。

だが被災のグレーゾーンに立っているがゆえに取りこぼされそうになる人々の声もまた、真摯に耳を傾けていく必要があるのだろう。

国が、地域が、個人が、さまざまなかたちの”被災”に対して何ができるのか、ひと月経った今だからこそ、改めて考えていくときなのだ。

【取材協力】
▽金沢市商工会議所
https://www.kanazawa-cci.or.jp/
▽味処 高崎
https://r177600.gorp.jp/

(まいどなニュース/STSデジタルメディア・谷宮 武将)

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