きれい…でもちょっと不思議 現実と虚構のうつろいを描く「牡丹靖佳展」 市立伊丹ミュージアム

牡丹靖佳『兎夜』2023年、油彩、アルキド樹脂、鉛筆 / キャンバス、作家蔵 courtesy of ARTCOURT Gallery

現実と虚構、そのはざまでうつろいゆく世界観を描く現代美術家・牡丹靖佳(ぼたん・やすよし)の、美術館では初の個展が、市立伊丹ミュージアムで開かれている。2024年2月25日(日)まで。

【写真】牡丹靖佳の作品をのぞき見!

展示室に足を踏み入れると、絵の具の匂いを感じられる。今展のために制作された最新作から過去の作品まで100点余りが並ぶ。

大阪生まれの牡丹靖佳氏は、ニューヨークで絵画を学び、そこで気づいた日本・そして日本美術の良さを取り入れながら創作に取り組み、国内外から評価を得てきた。時期によって画風や主題に変化はあるものの、根底には「現実」と「虚構=現実ではないもの」があり、牡丹氏自身がその境目にいて、うつろいゆく世界を表現している。

今展のために描かれた幅約6メートル、高さ約2.5メートルの最新作『兎月夜』は、月夜に踊る兎を主役に、天と地、生と死、虚と実と、相反するものが交錯する森が広がる。「きれいな作品だが、寂しさや、この奥に行ってもいいのかなという不穏な感じもある。ただきれいなだけではない、というのがこの作家のいいところです」と、市立伊丹ミュージアムの岡本梓学芸員は話す。

『兎月夜』だけでなく、牡丹氏の作品には森を描いたものが多い。かつてスウェーデンで森に迷ったことがあり、そこで命の危険を感じた経験があるという。この時の不安や恐怖が森への畏敬の念が深まったのか、作品には道を探すための目印とした十字が多く登場するようになる。

『a little confusion』は、木の枝や山などの具象的なイメージは鉛筆で繊細に描かれているが、画面の奥に沈んでいる。一方、本来背景とされるようなインクの垂れや筆致、色面などは前に出されており、意識的に反転させることで奥行きを錯綜させ、見る者の視線と意識を混乱させる。「すべて計算されている。この頃はインクの垂れも描いていたそうです」と岡本学芸員。

また牡丹氏は、画家としてだけでなく、絵本作家の顔も持つ。これまでに絵と言葉の両方を手掛けた絵本と児童書は計5冊刊行され、豊かな色がきらめきながらも不穏な気配や静寂が潜む物語の世界をつくり上げ、その幻想的な世界観は高く評価されてきた。岡本学芸員は「画面の隅々まで細かく明瞭に描かれていて、色の使い方や筆遣いなど画家としての自分が絵本をつくることを意識している。印刷された絵本ではわからない原画ならではの細かいところを感じ取ってほしい」と話す。

第24回ブラチスラバ世界絵本原画展賞にノミネートされた『おうさまのおひっこし』。この作品にはゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」や自身の絵本「たまのりひめ」の「たま」も描かれているなど遊び心も詰まっている。この作品の原画が市立伊丹ミュージアムへ寄託されたことが、今展の開催のきっかけとなった。岡本学芸員によると、絵本だが、王様と部下のやり取りが、上司が部下にどのように物事を伝えるべきかという所で、サラリーマンにうけているという。

岡本学芸員は、「牡丹氏は今後ますます活躍が期待される作家。その作家の今を見てほしい」とした上で、「絵本は牡丹氏の物語を伝える。絵画は見ている人が物語を紡ぐ。今展が多くの人が絵の面白さ、楽しさに気づくきっかけになってほしい」と話す。

「牡丹靖佳展 月にのぼり、地にもぐる」
2024年1月12日(金)~2月25日(日)
市立伊丹ミュージアム(伊丹市宮ノ前2-5-20)
休館日:月曜日(ただし2月12日は開館、翌13日は休館)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)

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