愛する愛助（水上恒司）を病で失い、失意のどん底を経験したスズ子（趣里）だが、愛助が残してくれた宝物の愛子がスズ子の希望の光になっていた。『ブギウギ』（NHK総合）第88話は善一（草彅剛）と麻里（市川実和子）の羽鳥家の一家団欒にスズ子が笑顔で佇むシーンから始まった。
「ワテに新曲を作っていただけないでしょうか」
スズ子が羽鳥家を訪れたのは善一に新曲を書いてもらうためだった。予想もしていなかったお願いにとまどいを隠せない善一。それもそのはず、スズ子から善一に楽曲制作の依頼をするのは初めての出来事だったのだ。
スズ子にとって善一は、梅丸楽劇団に在籍していた時期や弟の六郎（黒崎煌代）が戦死してしまった時、スズ子の心がグチャグチャになっている時に手を差し伸べてくれた恩人でもある。だからこそ、再スタートのタイミングで善一に背中を押してもらいたかった。それは何よりもスズ子が善一を信頼しているからに他ならない。ひと呼吸置いて善一は「ぜひ僕に作らせてくれたまえ」と目に輝きが宿る。スズ子が帰った後に善一が見せた「待ってました！」と言わんばかりの表情は胸にこみ上げてくるものがあった。
●子育てを支える麻里（市川実和子）＆新曲の制作に悩む善一（草彅剛）
“ブギの女王”が表舞台に帰ってくると諸手を挙げて喜びたいところだが、スズ子には子育てという親としての使命を抱えている。夜中に泣くのも日常茶飯事。2人でさえも子育ては大変な責務ではあるが、ひとりとなるとその負担は倍になる。到底、スズ子が今までのように歌に集中できる環境ではない。そんな中、スズ子は愛子の様子がいつもと違うことに気づく。
すぐさま病院へと駆けつけたスズ子は先生から何事もないことを告げられ安堵するが、疲れ切ったスズ子を見た麻里が「明日お邪魔していいかしら。あなた少し休んだ方がいいわ」と手を差し伸べる。麻里には善一がいるものの、芸術家肌の彼はおそらく子育てにほとんど関与してこなかったのではないか。だからこそ、女性がひとりで子育てをすることの大変さを麻里は知っていた。
翌日、スズ子の自宅を訪れた麻里は床の掃除から洗濯、料理まで全ての家事を慣れた手つきでこなしていく。麻里を演じる市川のなにげない所作がとにかく美しい。あらためて、スズ子は本当に周りの人に恵まれていると感じる。これまでもスズ子が落ち込んでいた時は誰かが手を差し伸べてくれた。スズ子の一生懸命さ、真っ直ぐさが人を引き付けるのだろうか。それとも無邪気な笑顔がそうさせるのかもしれない。そんなスズ子が少し羨ましく思える。
一方で、善一は「今どんなものを歌えば、彼女が最高に輝いてくれるのか」とスズ子からお願いされていた新曲の制作に悩んでいた。そんな善一の姿を見て「羨ましくなっちゃった」と話す麻里。普段は表立って言葉にしない善一への愛が見えて微笑ましく思えた。スズ子と善一の黄金コンビの復活は近い。
（文＝川崎龍也）
