マネキンの自作ダミーヘッドで収録 日常音をほぼ毎日配信 注目集める『立体音響クリエイター』の世界

音響クリエイター・川上裕太さんの自作ダミーヘッド「モスコちゃん」シリーズ

扉が開く音、食器が重なる音など、音だけで見えてくる日常……そんな立体音響の世界を、独特の収録方法を駆使しながら世に届ける『立体音響クリエイター』がいます。

京都に住む音響クリエイターの川上裕太さんは、マネキンの自作ダミーヘッドで収録した日常の音を、1~2分ほどのポッドキャスト作品にして、2022年5月からSpotifyなどでほぼ毎日配信しています。

【音声】何気ない『日常音』が癒しに 立体音響クリエイターが届ける世界

マネキンの名前は「モスコちゃん」。まるで「モスコちゃん」の日常に入り込んだような世界感と、独特な作品作りは、ニコニコ生放送や地上波テレビ番組で取り上げられるなど、じわじわと注目されています。

ダミーヘッドマイクとは、ASMR動画の収録でもよく使われている人間の顔の形をしたマイクのこと。人間の耳と同じ位置にマイクを設置し、立体的で臨場感のある収音ができます。

川上さんのダミーヘッドマイクは、マッサージ師の練習用として使われる本格的な肩まであるマネキンに、シリコン製の耳の模型などを細工して、コンデンサーマイクを仕込み自作したものです。

マイクはこれまでCOUNTRYMAN(カントリーマン)社のラべリアマイク「B3」や、DPA Microphones(DPAマイクロホン)社のバイノーラル・マイクロホン「CORE 4560」、またはオーダーメイドのコンデンサーマイクなどを使用。一方、音声編集ソフトはPreSonus(プリソーナス)社の「Studio One」をメインとし、立体音響のプラグイン・エフェクトを使い分け、空間演出を行います。フィールド・レコーディングには、192kHz/32bit Float対応で小型なZOOM社のレコーダー「F3」を重宝しているそうです。

そんなこだわりの機材で収録されたポッドキャスト作品『あしもすの音日記』では、何気ない足音や食器の重なる音、またシャワーの音などの日常音を配信中。音の説明は一切なく、聞き手の想像に委ねられています。室内のみならず、駅前や、カフェのような場所、人混みの中などでもリアルに収められており、扉が開いた音には思わず振り返ってしまうほど。ヘッドホンやイヤホンで試聴すると、その臨場感はさらに増します。

現在4体の自作ダミーヘッド「モスコちゃんシリーズ」と一緒に暮らす川上さん。それぞれの名前は、「シン・モスコ」、「モスコ・ブラック」、「モスコ・ミニ」、「モスコ3(スリー)」で、用途別に使い分けているそう。時には自身の頭にマイクを仕込むこともありますが、街中や外でのフィールド・レコーディングでも、できるだけモスコちゃんの耳で収録したいと考え、外に出やすいように小型に改良したモスコちゃんもいるとのこと。川上さんは「モスコちゃんたちは音声活動の相棒として、声掛けしてあげるなど、ただの機材以上の愛情を注いでいます」と語ります。

幼少期に父親が宅録したフォークソングを聴き、父が所有していた音声編集ソフト「Cubase」で音いじりを楽しんだことが、川上さんの音への興味を引き上げるきっかけに。クラシックや吹奏楽、作曲など一般的な音楽活動もする中で、「日常音や風景の音、ノイズも誰かにとって『音楽』になりうるのでは?」と考え、立体音響やASMRなどを研究し始めたそうです。今は、日常音の配信のほか、VR撮影や立体音響での収録、自作ダミーヘッドマイクの制作協力などの依頼も受け、活動の幅を広げています。

川上さんは「日常にあふれている様々な音。皆さんも音楽として聴いてみませんか? 飛び交う様々な音はまさにシンフォニーです。そして、もし録音する機会があれば、皆さんの見つけた何気ない日常という音楽を私にも聴かせてもらえるとうれしいです!」と話していました。

※ラジオ関西『おしえて!サウンドエンジニア』2024年2月6日放送回より

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