人気高まる“手描きの原画”、どう管理する? 文化財保護の観点からも見直しの機運高まる

2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」は、北陸地方を中心に甚大な被害をもたらした。新年早々テレビの画面から伝わった被災地の映像は、衝撃を与えている。朝市で有名な石川県輪島市の市街地は火災に見舞われ、多数の店舗や家屋が焼失したが、そのなかにあった永井豪ファンの聖地でもある「永井豪記念館」も全焼してしまった。

永井豪は1945年、輪島市の出身。のと鉄道には『マジンガーZ』などのキャラクターが描かれたラッピング車両も走行しているほど、記念館は能登半島の観光の中心であった。記者も訪問したことがあるが、永井が来館した際に描いたサインから、マジンガーZの巨大なオブジェ、原画の展示など充実した展示であった。公式ホームページによれば、地震があった1月1日も通常通り営業していたようである。

記念館の被害の詳細についてはまだ公式の発表がないため、憶測で物事を書くことは避けたいと思うが、記者が不安なのは貴重な永井の原画や資料も焼失してしまったのではないか、という点である。

2011年に発生した東日本大震災では、宮城県石巻市にある「石ノ森萬画館」も被災した。津波が押し寄せ、館内には土砂などが流れ込んだ。ところが、展示・収蔵施設の大部分が2階にあったことが幸いし、史料の流失などの被害は抑えることができた。これは建物の構造が文化財を守った例といえる。ちなみに、永井は石ノ森のアシスタントを務めており、師弟関係にある。

一方で、神奈川県川崎市にある「川崎市市民ミュージアム」には1988年の開館当初から収集した日本有数の漫画資料のコレクションがあったが、2019年の令和元年東日本台風(台風19号)によって地下にあった収蔵庫が浸水被害に遭い、漫画雑誌などの大部分が修復困難になり、廃棄されることになった。

もちろん災害では人命救助が最優先であるが、文化財の保護も重要な課題である。筆者は東日本大震災の被災地を2年以上取材してきたが、人命が失われている中で、文化財をどう守るべきか苦悩する関係者の姿を目の当たりにしてきた。津波に浸かった郷土資料を守ろうとする学芸員に対し、地域住民から「そんなものに金をかけるな、捨ててしまえ」と心無い言葉をぶつけられるケースもあったと聞いた。

漫画の原画や史料は日本の文化として世界に知られるが、まだまだ文化財として認知されているとは言い難く、十分な保存体制がとられているとは言い難い。永井豪記念館の被災は、多くの課題を我々に与えたといえる。今後の漫画家の記念館や展示施設、さらには国や地方自治体で進んでいる原画の保存施設の防災対策について、熟考する必要がでてくるかもしれない。

(文=山内貴範)

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