「無駄な時間なんてまったくない!」――坂東龍汰が振り返る『一月の声に歓びを刻め』濃密な2日間の撮影現場

三島有紀子監督自身が47年間向き合い続けた「事件」をモチーフにした映画「一月の声に歓びを刻め」。北海道・洞爺湖、東京・八丈島、そして大阪・堂島、日本の3つの島を舞台に心に傷を抱えた人たちが登場する3つのストーリーの中で、坂東龍太は堂島の物語に出演。前田敦子演じるれいこが、6歳の頃に受けた性暴力と向き合う瞬間に立ち合う青年・トト・モレッティを演じている。
(撮影/久保田司、スタイリスト/李靖華、ヘアメイク/南 郁弥(OLTA)、文/佐久間裕子)

「最初に脚本を読んだとき難しい役だなという印象を受けました。トトの役割はれいこに起きた過去の出来事と一緒に向き合い、事件によって凍り付いた気持ちを溶かすきっかけになるような役ではあるので、だから真摯にれいこと向き合わなければいけないと、最初に脚本を読んだ段階では思いました。でもこうしよう、こういうアプローチでいこうという役作り的なものは現場で監督と話し合いながら作っていきました。三島監督の演出で印象的だったのは、『反応してください』と何度も言われたことです。『相手に反応して、トトだったら何て言うか、トトになって感じてください』って」

撮影期間は2日間。れいことトトに流れる時間は完全な順撮りで行われた。

「トトとれいこの時間軸と僕と前田さんの時間軸がまったく同じで、撮影も出会いから始まり、撮影現場のホテルでそのまま寝て、朝を迎えて撮影が再び始まりました。『今朝の6時半か。じゃあ7時半シュート再開で』と言われて、「30分寝られるな」ってその場でぐぉーって寝て(笑)。「よし7時半だ、撮るぞ」って、撮影と現実が地続きになっていました。そのままホテルで迎えた朝のシーンを撮って、ベランダでれいこと話すシーンを撮り、そのまま外で走ってれいこの告白を聞いて……無駄な時間なんてまったくない。集中も途切れず、だからこそ撮れた濃密な2日間だったと思います」

洞爺湖、八丈島の撮影には参加していないため、完成した映画で二つのストーリーを直に目で見るのは完成した作品が初となるが、完成した作品を観て感じたことを教えてもらった。

「脚本を読んだときと映画が終わった後に感じたことが違いました。いろいろな傷を抱えて生きている人たちが登場するので、最初はその傷を見つめ直して、向き合う映画になるのかなって思ったんです。でも映画を見終わって感じたのは“希望”でした。単純に生きてるって素敵だな、みたいな。こんな簡単な言葉でまとめるのがふさわしいのかわからないけど、前田さんが歌うシーンで声に乗っているものは希望にあふれていると思いました。悩んでいたり、実際に壁にぶつかっている人が見たら助けられることがたくさんあるんじゃないかなって。監督が伝えたかったのもそういうことなんじゃないかって感じました」

『一月の声に歓びを刻め』

2月9日(金)公開

© bouquet garni films

<STORY>
十二月の雪深い北海道・洞爺湖のほとり。元父親だった女性・マキ(カルーセル麻紀)が遠くに見える中島に向かって、「れいこ……」と囁く。東京・八丈島で牛飼いとして暮らす誠(哀川翔)の家に、娘の海が五年ぶりに帰省した。明らかに身重である海に、誠はなかなか聞き出せない。喪服に身を包んだれいこ(前田敦子)が辿り着いた大阪・堂島。五年前に別れた元恋人である拓人の葬儀に駆け付けたのだった。拓人との記憶が亡霊のように付き纏ったまま淀川を彷徨っていたれいこは、橋の上から飛び降り自殺をしようとしている女を目撃する。そのとき、「トト・モレッティ」と名乗る男(坂東龍汰)がれいこに声をかけた。

<CAST/STAFF>
出演:前田敦子 カルーセル麻紀 哀川翔
坂東龍汰、片岡礼子、宇野祥平、原田龍二、松本妃代、長田詩音、とよた真帆
脚本・監督:三島有紀子
配給:東京テアトル

坂東龍汰さんのインタビューは、2月29日発売の『SCREEN+Plus』vol.89に掲載

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