【加西山田錦 ひと物語2024】70年余の経験が示す逆転の発想 収量よりも稲に優しい田んぼづくり

山田錦の稲刈りで笑顔を見せる初田源三さんたち(初田さんは左から4人目)(写真提供:ひょうご酒米処合同会社)

“酒米の王様”と言われている山田錦。その多くを生産している兵庫県のなかでも、地元産のブランド力を高めるための取り組みに熱心なのが、加西市の生産者と蔵元です。このたび、その1人である初田源三さん(ひょうご酒米処合同会社代表・社員)に、酒米づくりへのこだわりなどを聞きました。

【写真】初田さんがつくった山田錦で醸した純米吟醸酒「万願寺川」

幼い頃から祖父母の米作りを手伝ったのをきっかけに、酒米づくり歴は実に74年を数える初田さん。山田錦のエキスパートが持つこだわりは、稲が気持ちよく育つよう、農薬を極力使用しないこと。環境に優しく生産性が高いことから注目を集めている農法で、通常より間を空ける「疎植栽培」を田植えで採用しているそうです。

それは幾多の経験が生み出したものと、初田さん。「お米は1年に1回しかできないから、年の数しか実験や経験はできません。だから、74年間やってきた自分は、誰よりも実験や経験をしてきたと言えます。その経験や、昔からのやり方に最新のデータを取り込んでやっているだけです」。

この農法は、一見、農薬代や人件費を削っているという見方もありますが、「コストを抑えて原価を安くするのは手抜きではなく、それこそが農業の原点」と胸を張ります。

「お米に必要なのは、酸素と水と光の三要素だけ。肥料はその後。だから、うちではその三要素にこだわって農薬は極力使いません。田植えも、一つの田んぼにたくさん植えたら栄養素が足りなくなりますよね。子どもが10人いる家は、どれだけ裕福でも、子どもそれぞれに分配されるおやつは少なくなるもの。それと同じ考えで『疎植栽培』を採用しています」

初田さんがつくった山田錦は、加古川(岡田本家)、丹波(鴨庄酒造)、但馬(文太郎)、新潟(笹祝酒造)といった各地の蔵元と協力のうえで、自社栽培の山田錦100%で醸したオリジナル日本酒に。「飲み比べれば、同じ山田錦が各地の水と杜氏の腕でこうも変わるのかと驚かされる」と、初田さん。そのなかで、純米吟醸酒「万願寺川」(岡田本家)は、微発泡性で気軽に飲めるテイストが特長です。

今では、酒米づくりだけでなく、オリーブ園の建設にも取り組むなど、新たなチャレンジにも前向きな初田さん。酒米と同じく「疎植栽培」を採用したオリーブ園では、その真ん中でキャンプを楽しむことができたり、オーナーが1本のオリーブの木から実を持ち帰ることができる「オーナー制」の仕組みを考えたりしているそうです。

「ずっと前進していけば、次の人が(農業を)引き継いでくれる。実際、先人がそうしてくれたから、今の私があると思っています。農業は良い仕事をしていれば必ず誰かが継いでくれるはず。そして、もうかる農業を目指していきたいですね」と、初田さん。大ベテランは今もなお、自らの成長や農業、そして地元産山田錦の未来を見据えています。

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