バイデン氏、機密文書持ち出しで訴追されず 検察報告書は記憶の衰え指摘

アメリカのジョー・バイデン大統領(81)の私邸などから機密文書が見つかった問題で、捜査を進めていた司法省のロバート・ハー特別検察官は8日、バイデン氏が「故意に機密資料を保持し開示した」と結論する報告書を発表した。起訴はしないとしている。

報告書によると、バイデン氏は機密資料の一部を、回顧録の執筆に当たるゴーストライターに提供した。

しかしハー特別検察官は、バイデン氏が「記憶力に劣る高齢男性」であるため、有罪にするのは難しいと結論づけた。

機密文書が入ったファイルは、バイデン氏の私邸とかつての個人事務所で2022~23年に発見された。

今回の報告書では、問題の文書が最高機密の「トップ・シークレット」に指定されたもので、アフガニスタンにおける軍事・外交政策に関するものだったことが初めて明らかにされた。

ファイルには、バイデン氏が「機密の情報源と方法に関わる」国家安全保障と外交政策に関する事柄を記したノートも入っていたという。

だが報告書は、「証拠によって合理的な疑いを超えて、バイデン氏の有罪を立証できないとの結論に至った」と説明。

「加重要因と軽減要因を考慮しても、バイデン氏を起訴するのは不当だ」とした。

記憶に「重大な限界」

報告書は全345ページ。ホワイトハウスは一部削除などの編集は要求しなかった。

捜査では、バイデン氏を含む関係者147人から、のべ173回にわたって事情を聴いたという。

報告書は、機密文書の不適切な取り扱いについてバイデン氏を有罪とするのは難しいだろうと指摘。その理由として、「裁判になればバイデン氏は、私たちの聴き取りでしたように、思いやりと善意があり、記憶力に劣る高齢男性だという印象を、陪審に与える可能性が高い」と説明した。

そして、「故意という心理状態だったことを立証する必要がある重罪について、とっくに80歳を超えている大統領経験者を有罪にすべきだと、陪審を説得するのは難しいと思われる」とした。

報告書によると、バイデン氏の記憶には「重大な限界」があることが、聞き取りからうかがえたという。バイデン氏は自分が副大統領だった時期(2009~2017年)や、「息子ボーの死去(2015年)のような数年以内の時期」についても、思い出せなかったと報告書は書いている。

「かつて彼にとって非常に重要だったアフガニスタンをめぐる議論について語るときも、その記憶はあいあまいに思えた」と報告書には書かれている。

バイデン氏は訪問先のヴァージニア州リースバーグで、不起訴の決定を歓迎。「この問題はこれで終わった」と述べた。

バイデン氏は捜査当局に協力したと述べ、ドナルド・トランプ前大統領について、自身の機密文書の不正取り扱いの疑いに関する捜査を妨害していると非難した。トランプ氏はこの件をめぐって今年、刑事裁判にかけられる。

ホワイトハウスが先に出した声明でバイデン氏は、「10月7日にイスラエルが攻撃されたばかりで、国際的な危機に対処している最中だったにもかかわらず」、10月8~9日に計5時間の聴き取りに応じたと説明した。

バイデン氏、怒りの反論

これを受けてバイデン大統領は同日夕、予定にはなかった記者会見を急きょ開き、「私の記憶力に問題はない」と、特別検察官の指摘に反論した。

さらに、自分の長男がいつ死んだのか思い出すのに苦労していたという、特別検察官の主張に対し、「なんてとんでもないことを。よくもそんなことを言い出したものだ」と怒りの面持ちで述べた。

バイデン氏は記者会見で、「正直言って、(ボー氏の死去について)質問された時、お前らの知ったことかと内心で思った」と明らかにし、「(ボーが)いつ亡くなったのか、誰かに思い出させてもらうなどまったく必要ない」と強い口調で反論した。

バイデン氏は2015年に、46歳の長男ボーさんを脳腫瘍で失った。ボー・バイデンさんは米政界での将来を期待され、2016年にはデラウェア州知事に出馬するものと見られていた。バイデン氏はこの影響で、2016年大統領選への出馬を見送ったともされている。

ハー特別検察官によるバイデン大統領からの聞き取りは、昨年10月8日と9日にかけて、5時間以上に及んだ。

これについて大統領は「(自分は当時)忙殺されていた(中略)国際的な危機に対処している最中だった」と、前日に起きたイスラム組織ハマスのイスラエル奇襲に触れてこう述べた。

「かなり偏見に満ちた表現」とホワイトハウス

報告書には、特別検察官を批判するバイデン氏の弁護団の書簡が添付されている。

その中で、ホワイトハウスのリチャード・ザウバー弁護士は、「バイデン大統領の記憶についての報告書の記述は、正確で適切なものとは思えない」と主張。

「報告書は、何年も前の出来事を思い出せないという証人によくあることについて、かなり偏見に満ちた言葉を使っている」とした。

バイデン氏を批判する共和党側は、この報告書に飛びついた。

共和党の下院指導部は共同声明を発表。バイデン氏の記憶の衰えに関する記述について、「最も気がかりな部分」だとした。

さらに、「機密情報の取り扱いを誤った責任を問われることすらできない人物は、間違いなく大統領執務室にふさわしくない」とした。

トランプ氏の選対本部も声明を発表。「もうろくし過ぎていて裁判を受けられないなら、大統領になることだってできない。ジョー・バイデンはこの国を率いるにふさわしくない」とした。

報告書はバイデン氏の行為について、「極めて機密性の高い情報が紛失したりアメリカの敵対者に流出したりする危うさを考えれば、国家安全保障に深刻なリスクをもたらす」ものだったと指摘。

「しかし、そのようなリスクに対処するため、検察が取り得る唯一の方法である刑事責任の追及をすることは、この場合は適切な解決策ではない」とした。

ゴーストライターがバイデン氏との録音を消去

報告書はまた、バイデン氏が2018年の回顧録「約束してくれないか、父さん」(原題:「Promise Me, Dad」)のゴーストライターに、手書きのノートから機密資料を漏らしたとしている。

ゴーストライターのマーク・ズウォニッツァー氏は、特別検察官が捜査していると知り、バイデン氏との会話の録音を消去したという。

検察はゴーストライターについても起訴を検討したが、音声の消去は「彼にとってクライアントとの標準的な慣行」だったと判断し、最終的に断念したという。

報告書はバイデン氏について、副大統領として仕えたバラク・オバマ元大統領がアフガニスタンに関して間違っていたことを証明したかったため、機密ファイルの一部を保管する「強い動機」を感じていたとした。

オバマ氏が2009年に武装勢力タリバンと戦うため米軍を派兵したことについて、「ヴェトナムに匹敵する過ちだった」とバイデン氏は証明したかったとした。

トランプ氏が大統領時代に連邦検事に任官したハー氏は、昨年初めにメリック・ガーランド司法長官によって、今回の捜査を指揮するよう命じられた。

捜査は、トランプ氏のフロリダ州の私邸で秘密文書が発見されたことに関する別の捜査が開始された後に始まった。

トランプ氏は昨年6月、同州パームビーチの私邸兼リゾート施設「マール・ア・ラーゴ」で機密文書を不正に扱ったとして、7件の罪状について起訴された。

前大統領は不正を否定し、記録を保持するのは自らの権利だと繰り返し主張してきた。同氏の裁判は5月にマイアミで開始される予定。

バイデン氏の事件では、2017年に副大統領を退いてから2020年の大統領選の選挙運動を開始するまでに使っていた個人事務所で、側近が最初の文書を発見した。

最初の機密文書は2022年11月、バイデン氏が首都ワシントンに設立したシンクタンクで発見された。

二つ目の機密文書は2022年12月、デラウェア州ウィルミントンの自宅ガレージの犬用ベッドの横で見つかった。さらに2023年1月、自宅の倉庫で別の文書が発見されたと、バイデン氏の弁護士が明らかにした。

ファイルを発見した後、バイデン氏のチームは国立公文書館と司法省に引き渡したという。

(英語記事 No charge for Biden over classified documents but report questions memory

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