プーチン氏、米記者解放は「合意可能」と元米FOX司会者に NATO諸国への侵攻は「問題外」

ウィル・ヴァーノン、マイク・ウェンドリング、BBCニュース

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、米FOXニュースの司会者だったタッカー・カールソン氏によるインタビューで、昨年ロシアで拘束された米記者エヴァン・ガーシュコヴィッチ氏(32)について、解放で合意する可能性があると述べた。

プーチン氏は2時間を超えるインタビューで、ウクライナ、米大統領、米中央情報局(CIA)についても持論を展開した。インタビューは6日にモスクワで撮影された。

ロシアが2022年にウクライナに侵攻して以降、プーチン氏が西側ジャーナリストのインタビューに応じたのは初めて。

プーチン氏は、スパイ容疑で拘束されているガーシュコヴィッチ氏について、アメリカと協議が進んでいると説明。「私たちのパートナーたちが互恵的な措置を取れば」、同氏の解放で合意に至る可能性があるとした。

「相互に特別チームが連絡を取り合っている。話し合いが行われている。(中略)合意に到達できると信じている」

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル記者のガーシュコヴィッチ氏は、昨年3月29日にモスクワから東に約1600キロメートル離れたエカテリンブルク市で拘束された。

ロシア当局は今年1月、同氏の公判前勾留を3月末まで再延長した。有罪となった場合、最長20年の禁錮刑を受ける可能性がある。

カールソン氏はインタビューで、ガーシュコヴィッチ氏をすぐに解放する考えがあるかプーチン氏に質問。併せて、「私たちが彼をアメリカに連れ戻す」と投げかけた。

これに対しプーチン氏は、ガーシュコヴィッチ氏が機密情報を受け取っていたと主張。一方で、囚人交換の候補に、「愛国的な思いから、ヨーロッパの首都の一つで悪党を消した人物」がなりうると述べた。

これが、ロシア連邦保安庁(FSB)の暗殺者ヴァディム・クラシコフ受刑者を指しているのはほぼ間違いない。同受刑者は2019年にドイツ・ベルリンの公園で、ジョージア軍将校ゼリムハン・ハンゴシュヴィリ氏を射殺したとされ、現在ドイツで服役している。

ウクライナ侵攻を正当化

インタビューでのプーチン氏への最初の質問は、なぜ2年前にウクライナ侵攻を命じたのかというものだった。

カールソン氏は、「アメリカが突然、ロシアを攻撃するかもしれないと考えている理由は何なのか」、「どうやってその結論に達したのか」と聞いた。

プーチン氏は通訳を介し、「アメリカが、合衆国が、ロシアに奇襲攻撃を仕掛けるということではない」、「私はそんなことは言っていない。これはトークショーなのか、それとも真剣な対話なのか?」と返した。

その後、プーチン氏は30分以上にわたり、東欧の歴史について、9世紀のロシア建国までさかのぼって長々と語った。

プーチン氏は、侵攻は正当だとさまざまに主張した。ウクライナの歴史に関する使い古されたうそ、ソヴィエト連邦崩壊と北大西洋条約機構(NATO)拡大をめぐる個人的かつ歴史的ないらだち、ウクライナにはネオナチがはびこっているという主張などを繰り出した。

プーチン氏はまた、ロシアがウクライナを攻撃して侵攻が始まったわけではないという虚偽の主張を長々と繰り返した。その際、ロシアは安全保障に対する脅威に対応しただけだと述べた。

カールソン氏は、ブチャなどウクライナ各地でロシア兵が犯したとされる戦争犯罪、国際刑事裁判所がプーチン氏に逮捕状を発行するきっかけとなったウクライナの子どもたちのロシアへの強制連行、政治的ライバルたちの死、反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の収監などについては質問しなかった。

プーチン氏は、ポーランドやラトヴィア、その他のNATO加盟国に侵攻する気はないと主張。そうしたシナリオは「完全に問題外」とした。

歴代の米大統領については

プーチン氏は米大統領との関係についても語った。ビル・クリントン氏が在任中、ロシアもNATOに加盟しうると述べたが、すぐにその選択肢を取り下げたというエピソードを改めて紹介した。

ジョージ・W・ブッシュ氏については、「非常に良い関係」だったと回顧。「アメリカやロシア、ヨーロッパの他のどんな政治家よりも悪くはなかった」と述べた。また、「彼は自分がしていることや、他人がしていることを理解していた。私はトランプともそうした個人的な関係があった」とした。

ジョー・バイデン大統領に関しては、いつ最後に話をしたか記憶にないと述べた。

カールソン氏はどんな人物なのか

カールソン氏はインタビューに先立ち、2022年以降にプーチン氏に「わざわざインタビューした西側ジャーナリストは一人もいない」と述べた。

BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長を含め、西側各国の何人もの記者がこれまで、プーチン氏のインタビューを繰り返しクレムリンに申し込んでいる。BBCの要請はすべて無視されている。

クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官はこれを認め、「カールソン氏は正しくない。だがそうとは知り得なかった。私たちのところには大統領へのインタビューの申し込みがたくさん届いている」と話した。

ロシアの国営メディアは、カールソン氏の訪問を数日間にわたって報じた。レストランを訪れたり、ボリショイ劇場でバレエ「スパルタクス」を鑑賞したりする様子を放送した。

カールソン氏はFOXニュースで最も高い視聴率を誇ったゴールデンタイム番組の司会者だった。2023年4月に降板したが、FOXはその理由を明らかにしていない。

その後、自身のメディア会社「タッカー・カールソン・ネットワーク」を設立。X(旧ツイッター)に動画を投稿するなどしてきた。

そのコンテンツは、右派政治家との友好的なインタビューが中心で、トランプ氏との対談もある(共和党の大統領選討論会に合わせて行われた)。そのほか、インフルエンサーのアンドリュー・テイト氏、人気コメディアンのラッセル・ブランド氏などへのインタビューもある。

(英語記事 Putin tells Tucker Carlson deal can be reached to free jailed US reporter Evan Gershkovich

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