[社説]バス無料デー設定 地域の足考える契機に

 県の2024年度当初予算案に、路線バスの利用機会を創出するための「わった~バス利用促進乗車体験事業」が盛り込まれた。

 無料で路線バスに乗車できる日をつくり、普段バスを利用していない人に乗ってもらい、マイカー移動からの乗り換えを狙う。

 24年度上半期に約1カ月、週ごとに平日と休日の各1日、合計8~9日間を無料デーに設定する。離島を含む全県の路線バスが対象で、その費用として2億1400万円を計上する。

 路線バスを取り巻く状況は近年、厳しさを増している。

 バスの輸送人員数は1985年の約7718万人から、2022年には約2134万人まで落ち込んでいる。38年間で7割以上の減である。

 燃料費の高騰などから、琉球バス交通と那覇バスは4月に運賃を引き上げる。

 運賃収入の減少などから、東陽バスは4月から、沖縄バスの子会社になる。

 人手不足も深刻だ。路線バスを運行する4社の運転手は13~22年度に約16%(168人)減った。時間外労働の上限が規制される「2024年問題」で、さらに人材確保が難しくなることが予想される。

 同事業は県内公共交通の中核を担う路線バスへのてこ入れともいえる。

 右肩上がりで増えるマイカーからの転換を促し、交通渋滞緩和につなげてほしい。  「地域の足」を守るため、私たちも積極的に利用し、公共交通のメリットを知り、課題にも向き合いたい。

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 県内の交通渋滞による損失は年間約8144万時間、給与換算で約1455億円。県民1人当たりでは約55時間、約9万8千円-。沖縄総合事務局が発表した試算である。

 生産年齢人口の5.5%に当たる4万8515人分の労働力に相当するという。マイカー依存社会が生む弊害は甚大だ。

 交通渋滞問題は、長きにわたる県政の課題である。

 「県民の足」として活用された県営鉄道は戦争で壊滅し、米軍統治下で、復旧されないまま、アメリカ型の車社会が進んだ。

 自動車の保有台数は1985年の約48万台から2022年には約120万台の2.5倍に増えた。

 鉄道はいまだ敷設されず、03年に戦後初の軌道系公共交通の沖縄都市モノレールが開通したが、全長17キロにとどまる。

 マイカーからの転換を図ろうにも公共交通機関の選択肢が少ないのが沖縄の現状だ。

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 今回の事業だけで解決が図れるものではない。

 路線バスの再編や運転手の確保など本質的な課題に、バス会社と県が手を携えて取り組むべきだ。

 今後、高齢化が進み、運転免許を返納する人が増えるはずだ。インバウンドを含む観光客が戻っており、ますます移動が活発になるだろう。

 来たるべき社会を予測し、どのような交通体系が沖縄にふさわしいか、グラウンドデザイン(全体構想)を固める必要がある。

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