寺岡呼人&岩沢厚治&内田勘太郎、ブルースで繋がる“寺沢勘太郎一家” 歓声や笑いに包まれた9年ぶり巡業の旅

寺岡呼人、岩沢厚治(ゆず)、内田勘太郎(憂歌団)によるライブ『"寺沢勘太郎一家" 巡業の旅 リターンズ』が1月31日に神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催。提灯を提げお揃いのはっぴを着て登場した3人は、まずは映画『男はつらいよ』の主題歌を哀愁たっぷりに演奏した。内田のブルージーなイントロ演奏に続き、岩沢が「我々生まれも育ちもそれぞれ違えど、ブルースの産湯に浸かり、姓は寺沢、名は勘太郎、人呼んで寺沢勘太郎一家と発しやす」と、フーテンの寅さんよろしく口上を読み上げる。「9年ぶりに帰ってきた堅い契りの義兄弟、向後万端引き立って、よろしくお頼み申します」と仁義を切ると、会場には拍手喝采が沸き起こった。

3人によるブルースセッションは、そのまま「昔父ちゃんは」へとなだれ込んだ。同曲は9年前の2015年に開催された『"寺沢勘太郎一家" 巡業の旅』のために制作、披露されたもの。ループするブルースコードをバックに、それぞれが“昭和の父ちゃんエピソード”を披露するという構成の楽曲だ。そもそも寺沢勘太郎一家は、昭和のホームドラマ『寺内貫太郎一家』をモチーフにしており、3人が着ているはっぴも同作に由来する。主人公・寺内貫太郎は下町の頑固親父で、家族の中で一番偉くて怖い存在だった昭和の父親像の象徴であったことから生まれたのが「昔父ちゃんは」だが、そんな設定はどこへやら。尺もテーマもフリーで、実に自由気ままだった。

寺岡は「勘太郎さんは、ある意味で僕らの音楽の父ちゃんみたいな存在」として、「50年逃げ続けた男もいれば、ここに50年ブルースを愛し続ける男がいる。勘太郎さんの域に達するにはあと15年、それまで親父についていきます!」と内田を紹介。そんな内田は、前週70歳に誕生日を迎えたばかり。ブルースにハマった15歳の思い出を振り返りながら、「ブルースのレコードを部屋で聴いていたら、父ちゃんが入ってきて“お前は黒人の酔っ払いがブツブツ言ってるような音楽ばかり聴いて!”と言われた」とのエピソードを披露し、何も知らない父親がブルースの何たるかを端的に言い表したことをユーモアたっぷりに語って笑いに変えた。そして岩沢は、スタッフもメンバーも気合い十分で臨んだリハーサルでの出来事を語り、「いざ音を出そうというその瞬間、勘太郎さんが“厚ちゃんこの曲キー何だっけ?”」と言って、拍子抜けして全員がズッコケたエピソードで会場に笑いと拍手を巻き起こした。

続いて寺岡のソロコーナーでは“呼人バンド”のメンバーを呼び込み、昨年11月に配信リリースしたベストアルバム『MASTER PIECE -maverick-Best of 30 Years』に収録された楽曲を中心に、自らベースを演奏しながら楽曲を披露した。チャック・ベリーの「ジョニー・B.グッド」を彷彿とさせるノリのいいロックンロールナンバー「ウムウム」は、寺岡の歌に合わせて会場から〈ウムウム〉とあいの手がかかり、会場が一体となって楽しんだ。できたての新曲「パドック」は、女性が結婚相手の男性を品定めする様子を、競馬のパドックに例えた歌詞が秀逸。力強いミディアムロックナンバーで、演奏ではキーボードのDr.kyOnが、競馬のファンファーレや馬が走る音を再現するなどでも沸かせた。そして「馴染みの店」は、時を経て変わることと変わらないことについて歌ったバラードで、美しいピアノをバックにした憂いたっぷりのボーカルに観客はうっとりと聴き入った。

MCでは、「バンドブーム世代だから、呼人さんがベース弾いているが感動!」と興奮気味の岩沢に、「最近ベースを弾くのが楽しくて!」と寺岡。2人は、ゆずの楽曲を披露した。岩沢が作詞・作曲を手がけた「ぼんやり光の城」は、寺岡のお気に入りとのことで、「工場地帯をあんな風に曲にできるのは岩沢くんしかいない!」とコメント。ノスタルジックなムードが会場を包み込み、それぞれの故郷に思いを馳せながら2人のハーモニーに聴き入った観客。寺岡は「この曲を聴けるのもまた9年後かもしれないね」と笑った。また日替わり曲の「灰皿の上から」なども披露され、ゆずの楽曲プロデュースを務めていた寺岡と、ゆずのサブリーダーである岩沢が、デュオでゆずの名曲を歌うという豪華なセッションに、胸が熱くなった。続く岩沢のソロコーナーでは、岩沢が作詞・作曲の「3番線」と「春風」が演奏された。「みんなとセッションしたい」と岩沢。「3番線」は、観客がリズムを足踏みと手拍子で鳴らし、それに合わせて歌う。「春風」はスポットライトを浴びながら、真っ直ぐなハイトーンの歌声で、会場にどこか少し寂しげな風を吹かせた。

内田のソロコーナーは、加川良のカバー曲である「教訓Ⅰ」や、ソロ曲「グッバイ クロスロード」などを、巧みなギタープレイで披露した。アドリブ満載のプレイは実に自由気まま。曲と曲の間でチューニングしている時も「貴重な人生の1/6はチューニングしている。あとは荷造り(日々ライブで各地に行くため)」と語って笑わせた内田。また、ブルースならではのボトルネック奏法も聴かせ、左手にはめたスライドバーを見せて「これ、カルピスの瓶」と言って笑わせるなど、決して観客を飽きさせない。まるでYouTubeの動画「内田勘太郎本日のギタープレイ」を生で観ているかの感じで、ギタープレイと歌、そしてトークで観客を魅了した。

最後は寺沢勘太郎一家の3人とバンドで、ゆずの「ヒーロー見参」や「始発列車」、憂歌団の「嫌んなった」や「おそうじオバチャン」を披露して会場を沸かせた。リハーサルで内田が「キー何だっけ?」と言ったのが、「ヒーロー見参」とのことで、岩沢の変身ポーズでも会場を沸かせる。続いて「始発列車」は、岩沢が「勘ちゃん行ってみよう!」と呼びかけると、内田が「あのね」としゃべり出してみんながズッコケるというパターンに会場が爆笑。また憂歌団の名曲「おそうじオバチャン」は、アップテンポのリズムに観客が揺れた。ユーモアたっぷりの歌詞を、ちょっと恥ずかしそうにモジモジしながら歌った寺岡と岩沢。会場からは2人をはやし立てるような声援と拍手が沸き起こった。

アンコールでは岩沢からのリクエストだという寺岡の曲「酔いどれ天使」、ゆずの名曲「月曜日の週末」、そして憂歌団の「スティーリン」を演奏。〈古い友達と酒を飲んだ〉や〈素敵な大人と酒を飲んだ〉、〈俺たちは死ぬまでずっと友達だから〉などの歌詞が、寺沢勘太郎一家の関係性と重なる「酔いどれ天使」。「今日って何曜日だっけ?」というお決まりの問いかけで始まった「月曜日の週末」は、会場に手拍子と大合唱が響いた。いつものタメをいつも以上にタメて、「最終日ゾクゾクするぜ!」という岩沢の叫びに大歓声で沸いた。

「9年後、こんな機会があったらまた遊びに来てください」と寺岡。「9年後は(年齢的に)若干不安だな」と笑い、最後までひょうひょうとした雰囲気の内田。2人のトークをよそに黙々と演奏した岩沢。最後に3人で手を前に出して「お控えなすって」のポーズでライブを締めくくった。

映画『男はつらいよ』やドラマ『寺内貫太郎一家』をモチーフに、古き良き昭和の時代に思いを馳せながら、ブルースという自由な音楽に身を任せる。寺沢勘太郎一家は“音楽で遊ぶ”という、音楽ライブ本来のあり方を思い出させてくれる。そこに酒と素敵な仲間が加わればもっと最高。また9年後(?)、人生の楽しみが一つ増えた。

(文=榑林 史章)

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