米民主党、バイデン大統領を擁護 高齢への懸念指摘されるなか

ジョー・バイデン米大統領(81)による機密書類の扱いを捜査していた司法省の特別検察官が8日発表の報告書で、大統領の高齢と記憶力を問題視したことを受け、与党・民主党の関係者はこぞって、大統領を擁護している。

バイデン氏は、副大統領退任後に機密書類を私邸などで保管していたため、特別検察官の捜査対象となり、ロバート・ハー特別検察官は8日、バイデン氏が「故意に機密資料を保持し開示した」と結論する報告書を発表した。ただし、大統領が「記憶力に劣る高齢男性」のため、有罪にするのは難しいと結論づけた。

これにバイデン氏自身が当日、強く反論したのに加え、カマラ・ハリス副大統領も特別検察官の言い分を「いわれがなく不当で、不正確で、不適切」だったと批判した。

共和党員のハー特別検察官は、複数の高名な保守派判事の助手を務めた後、2017年にドナルド・トランプ大統領(当時)によってメリーランド地区の連邦検事に指名され、現在のメリック・ガーランド司法長官によって2023年1月に、バイデン氏の機密文書扱い問題を捜査するよう任命された。

検事出身の副大統領、特別検察官を批判

ハー氏が今回発表した報告書に対して、ホワイトハウスは大統領の記憶力に関する記載について「あなたの専門性と職務の範囲内」の内容にとどめるよう求める書簡を提出している。

政界入り前にはカリフォルニア州で検察官を務めたハリス副大統領は9日の記者会見で、ホワイトハウスのこの批判を繰り返した。

「あの報告書の、大統領の様子を描写した表現は、ありえないほど事実関係が間違っていたし、明らかに政治的な動機にもとづいていた」と、副大統領は述べた。

「あのような状況で検察官に与えられている役割と責任を思えば、もっと高い水準の誠実性を期待できなくてはならない」とも、ハリス氏は指摘した。

連邦議会の民主党議員たちもBBCに対して、ハー検察官の報告内容は、任命された捜査の範囲を逸脱するものだと話した。

ジェフ・マークリー上院議員(オレゴン州選出)は、「特別検察官の職務と役割に、あのような形で臨むのは、まったく不適切だったと思う」、「あれほど不適切な領域に(特別検察官が)踏み込んだのは、不幸なことだ」と述べた。

ティナ・スミス上院議員(ミネソタ州選出)は、ハー検事のコメントは「とんでもない」「みっともない」もので、特別検察官としての自分の役職を「あからさまに政治的なものにした」と批判した。

バイデン氏が今年11月の大統領選で再選を目指すと、活動を開始して以来、同氏の年齢や認知能力についての懸念が、たびたび指摘されている。

81歳のバイデン氏に対して、野党・共和党の大統領候補になる見通しがきわめて高いトランプ大統領は77歳。トランプ氏も、発言の間違いなどが再三指摘されている。

ハー特別検察官の報告書は、バイデン氏の記憶には「重大な限界」があることが、聞き取りからうかがえたと指摘。バイデン氏は自分が副大統領だった時期(2009~2017年)や、「息子ボーの死去(2015年)のような数年以内の時期」についても、思い出せなかったと報告書は書いている。

バイデン氏は2015年に、46歳の長男ボーさんを脳腫瘍で失った。ボー・バイデンさんは米政界での将来を期待され、2016年にはデラウェア州知事に出馬するものと見られていた。バイデン氏はこの影響で、2016年大統領選への出馬を見送ったともされている。

これについてバイデン大統領は8日夜に急きょ開いた記者会見で、怒りをあらわにして反論。「正直言って、(ボー氏の死去について)質問された時、お前らの知ったことかと内心で思った」と明らかにし、「(ボーが)いつ亡くなったのか、誰かに思い出させてもらうなどまったく必要ない」と強い口調で反論した。

ハー特別検察官によるバイデン大統領からの聞き取りは、昨年10月8日と9日にかけて、5時間以上に及んだ。

これについて大統領は「(自分は当時)忙殺されていた(中略)国際的な危機に対処している最中だった」と、前日に起きたイスラム組織ハマスのイスラエル奇襲に触れてこう述べた。

ただし同じ記者会見の後半で大統領は、エジプトとメキシコを取り違える発言をした。

民主党は「絶対的に信用」

しかし、9日にBBCの取材に応じた民主党議員たちは、大統領の認知力について何も心配していないと述べた。

上院最年少のジョン・オソフ上院議員(ジョージア州選出)は、自分はこの数カ月の間、「かなりの時間を」大統領と過ごしたとして、「常に鋭敏で、集中力があり、見事で、圧倒的で、実行力があった」と評価した。

同様に、クリス・ヴァン・ホレン上院議員(メリーランド州選出)も同日に記者会見で、大統領は「思慮深く経験豊富」だとたたえた。

ヴァン・ホレン議員は、民主党員が大統領を「絶対的に信用」しているとして、「この国が何を必要としているか理解している人と、私たちはずっと一緒にやっていきたい」のだと述べた。

共和党議員「100%でいてくれないと」

他方、野党・共和党からは、特別検察官の報告書は、バイデン氏には職務遂行の能力が欠けているのではないかと高まる懸念を、さらに拡大させるものだとの声が相次いでいる。

共和党中道派のトム・ティリス上院議員(ノースカロライナ州選出)はBBCに、「(大統領は)最善を尽くしているが、その最善がどのようなものか、そこが気になり始めている」と話した。

「78歳だろうが178歳だろうが構わない。ただし、自由世界のリーダーでいるからには、100%の状態でいてくれないとだめだ」

77歳のトランプ前大統領については

バイデン氏の年齢に対する懸念は、再選運動において「ずっと続く問題」だと、米ヴァージニア大学政治センターのラリー・サバト所長はBBCに話した。

複数の専門家によると、トランプ前大統領もバイデン大統領も公の場でたびたび、アメリカの政治家や外国首脳の名前を混同する発言を重ねているものの、トランプ氏の場合はそれが有権者の評価にあまり響いていないようだという。

米ムーレンバーグ・カレッジ世論研究所のクリス・ボリック所長は、トランプ氏の派手で強気な言動と、「常に攻撃的なその姿勢」が77歳の前大統領をエネルギッシュに見せ、「彼の方が元気な候補」という有権者の印象を強めている可能性があると話す。

トランプ前大統領の年齢に関する懸念は、バイデン氏への懸念と「同じようには定着しないようだ」と、ボリック氏は指摘する。

バイデン陣営は今後、「認知力が職務にふさわしくないのではないか」という世間の印象を、打破していかなくてはならない。

「彼の年齢は間違いなく、再選を目指すにあたってかなりの障害となっているし、今回の報告書によって、懸念はさらに厳しくなった。克服のための努力がいっそう必要だ」と、ボリック氏は話した。

(英語記事 Democrats rally around Biden as report raises age concerns

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社