【加西山田錦 ひと物語2024】未来への酒米づくり 1つの田んぼから1つの酒を 里山育む活動も

名古屋さんが酒米づくりを行う田んぼ(左)と、株式会社tenの自社銘柄の日本酒「SEN」ラインナップ(写真提供:株式会社ten)

“酒米の王様”と言われている山田錦。その多くを生産している兵庫県のなかでも、地元産のブランド力を高めるための取り組みに熱心なのが、加西市の生産者と蔵元です。このたび、その地元で山田錦の生産と自社銘柄「SEN」の酒づくりを行う会社、株式会社tenを取材しました。

★1つの田んぼで1つの日本酒を…『一圃一酒』プロジェクト

白い壁に大きな1枚のガラスの窓。そこから広がるのどかな田園風景は、1枚の絵画として切り取られたようです。アトリエのようなお洒落な空気を醸し出す建物が、株式会社tenのコンセプトショップです。

【写真】アトリエのようなお洒落な空気を醸し出す、株式会社tenのコンセプトショップ

同社の代表取締役・名古屋敦さんは、酒米農家に生まれましたが、「日本酒づくりは酒米を混ぜて使う手法が主流のため、自分が育てた酒米がどのお酒に使われているのか分からないのが子どものころからひっかかっていた」そう。

その思いがきっかけで始めたのが、1つの田んぼからとれた酒米だけでつくる『一圃一酒』の酒づくりです。

2016年に茨城県の酒蔵とともに父の作る山田錦を使った日本酒「SEN」を、2019年には地元・加西の酒蔵である富久錦の協力で「純米SEN」を、それぞれ発表しました。

一圃一酒だからこそ、農法から醸造法や味わいについてなど農家と酒蔵での対話、いわゆる二人三脚での日本酒づくりを大切にしている、名古屋さん。同じ田んぼの酒米を使うことにより、水につけたときに溶けるスピードが同じになることも、日本酒が作りやすい利点だそうです。

その名古屋さんが地元の山田錦農家や蔵元と一緒になって作っているのが、「SEN生もと(※)うすにごり」。山田錦は、自分よりも若い世代の農家・藤本圭一朗さんに声をかけて有機栽培に挑戦。そこでできた酒米は酒蔵の富久錦に醸造を依頼。米の柔らかな甘みと生き生きとした酸が心地よい生もとづくりの日本酒。料理と合わせてカジュアルに楽しめるのも特長です。

※「もと」の漢字は、左がひよみのとり・とりへん、右が元

★次世代へとつなげるために

一圃一酒に取り組むなかで、より良い酒米を作るためには「良い土を作ること……そのためには野山も手入れしなければいけない」と気づいた名古屋さん。田んぼや野山を良い形で次世代につなげるため、その産地を育む活動にも取り組んでいます。

未来の加西に目を向けて、名古屋さんの挑戦は続きます。

© 株式会社ラジオ関西