世帯年収1,600万円の30代・パワーカップル…ペアローンで「1億円のタワマン」を購入した驚愕の結果【FPが解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

住宅価格が高騰するなか、できるだけ希望に近い住宅を購入するために「ペアローン」を利用する人も多いでしょう。しかしペアローンはリスクも大きく、失敗するケースも少なくはなく……。本記事ではAさん夫婦の事例とともに、「世帯年収」の違いによるペアローンのリスクについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

建売住宅が売れなくなったワケ

2024年2月現在、住宅業界では静かに波乱が起きています。それは「建売住宅が売れなくなった」というもの。

コロナ禍初期までは好調だったものが2022年後半から異変が起き始め、業者は値引きをしてやっと売っている状態。中小規模の業者では新規の建設をストップしているケースも見られます。

売れなくなったのは建売だけではありません。戸建ての注文住宅もまた急ブレーキがかかっています。完成見学会などのイベントの来場客数が激減しているメーカーはめずらしくありません。

数百万円の広告費を打ったにもかかわらず、新規来場者は2人、しかも他社で契約済みだった……という悲惨な事態も耳にするほどです。中小メーカーの営業マンたちは新規の商談がないため契約も少なくなり、歩合給を稼げず転職を考えているという声も耳にします。

なぜこのような状況に陥ったのでしょうか。

業界でもいろいろな意見がありますが、ひとつにはご存じのとおりコロナ禍を要因とする住宅価格の高騰の影響があるのかもしれません。

建物の価格はここ10年のあいだで高くなっています。国土交通省の不動産価格指数によると、戸建て住宅は2010年を基準として115.6となっています。わずか15.6%と思うかもしれませんが、2,500万円の建物が2,890万円になったというイメージなので、決して見逃せない値上げ幅です。

合わせて住宅地の地価も上昇傾向であるため、消費者が目にする「資金計画書」の金額はこの数年でどんどん高くなっています。

地方の県庁所在地であれば「土地込み注文住宅」の資金計画は4,000万円では安いほう、5,000万円~7,000万円というものが目立っています。50代~60代の親世代が見たら「高すぎる!」と驚くような価格。

では購入者がローコスト住宅や格安な建売物件を選ぶのかというと、憧れている理想の家のイメージと建物の品質・グレード・デザインが乖離しているため、検討するモチベーションには繋がらないでしょう。格安の建売にありがちな立地の悪さ、土地の狭さ、ステータス性の低さも悪影響です。

住宅販売の不調には金融面にも原因があります。

ひとつが「フラット35(固定金利型住宅ローン)の金利上昇」です。フラット35はローン審査が通りにくい顧客層が利用する傾向がありました。しかし建物価格が上昇すると同時に金利もアップしてしまうと、もう低所得層には住宅購入は現実的ではありません。

建売住宅でも特に低価格帯の物件が売れなくなっていることにもその事情が現れています。これまで低価格の建売物件を買っていた低所得層がもはや買えなくなったと推測できます。

変動金利を選択するにしても、昨今の金利上昇圧力は強いものがあり、数十年後もいまの金利水準だとは誰も信じられなくなりました。

無理な住宅購入で家計破綻の危険がぬぐえず、いまはやめておこうかというところでしょうか。

高価格帯のマンションは売れている

そしてご存じの方も多いと思いますが、マンションは現在も非常によく売れています。特に東京都心部のマンションは1億円を超えるなど高価格であるにもかかわらず、売れているのです。

マンション価格の高騰は戸建て住宅の比ではありません。国土交通省の「不動産価格指数」によると、2010年を基準として、2023年10月には193.9を記録しています。13年で価格が約2倍になったといえます。

1億円を超えるようなマンションを誰が買っているのかと思うかもしれません。とあるディベロッパーの資料によると、購入者は30代と60代が多いことがわかります。60代はなんとなく想像がつくとして、30代とは驚く方も多いでしょう。

住宅が高すぎるこのご時世で、億越えのタワーマンションを30代がなぜ買えるのか? 当然ながら自己資金と住宅ローンで購入するわけですが、その住宅ローンとは、ご存じの方も多い「ペアローン」です。

ぺアローンでの住宅購入が増えているが…

住宅価格が高騰する現在、ペアローンでの購入が一般的になっています。

ペアローンとは主に夫婦がそれぞれ住宅ローンを借りて、一軒の物件を購入する方法です。世帯主の単独債務よりも多額の融資を受けられるのが最大のメリットです。たとえば住宅ローンは、税込み年収の6倍~7倍くらいが借りられる金額の目安とされます(あくまでも目安で、実際は返済負担率や勤続年数、勤務先などの属性、信用情報で判断されます)。

年収600万円の会社員であれば4,200万円程度が限界ということになります。これでは理想の住宅を購入することは厳しいでしょう。そこでペアローンだとどうなるでしょうか。

夫の年収600万円、妻の年収600万円、世帯年収1,200万円だとしたら、8,400万円程度借りられる可能性があります。理想の住宅に近づくことができるでしょう。

もちろんペアローンにはデメリットも存在します。夫婦どちらかの年収が下がるととたんに返済が厳しくなります。また、離婚時は住宅を売却して清算するケースが多いです。それでも現実的にはペアローンでなければ購入できないのが現在の住宅価格です。

ペアローンは必ずしも悪いことではない

ペアローンと聞いただけで「そんなに無理して高い家を買うな」とか、「破綻の原因になる」などと否定する人は多いものです。

しかしながら、FPとして相談を受けていると、決して危険なケースばかりではないとわかります。計画的、戦略的にペアローンを活用し、資産性の高い住宅を手に入れる人たちも多くいます。

一方で、批判があるとおりペアローンのせいで生活が行き詰まる人達もいます。一言でペアローンといっても、利用する人の世帯年収によってはそのリスクはまったく違います。

・「1億円のマンションをペアローンで購入する」世帯年収1,600万円の家族

・「5,000万円の住宅をペアローンで購入する」世帯年収800万円の家族

どちらも世帯年収の7倍に相当する住宅ローンを借りていますが、この2つの家族では抱えるリスクの度合いがまったく異なります。実際のペアローン利用者の事例を簡単に紹介しながら、ペアローンを使ってはいけないケースを解説していきます。

世帯年収800万円、ぺアローンで5,000万円の建売住宅を購入

夫Aさん 35歳 会社員 年収450万円

妻Bさん 34歳 会社員 年収350万円

子供2人(双子)

現預金 120万円

自己資金 50万円

会社員のAさんとBさんの夫婦はどちらも飲食系の中小企業で働いています。世帯年収は800万円。双子の子供の小学校入学をきっかけに持ち家を検討しはじめました。

住宅展示場で営業マンがいうには、夫Aさんだけで住宅ローンを借りるとすれば、3,000万円程度が限界かもしれないということでした。自動車ローンもまだ返済中であることもマイナスに働くでしょうとのこと。これでは希望するエリアでの住宅購入は不可能です。土地代だけでも2,500万円する住宅地です。

そこで営業マンが勧めたのはペアローンです。これなら5,000万円程度は借りられるかもしれません。夫婦ともに住宅ローン減税を受けることができるのもメリットと説明を受けました。そしてちょうど希望のエリアで分譲している物件があり、その値段は諸経費を含め5,000万円と提示されます。

「5,000万円は高いな……父親が30年前に家を買ったときは2,500万円だったといっていたが、これは2倍じゃないか……しかも父親は公務員だったが、僕は昇給も見込めない中小企業の会社員だ……」と夫のAさんは躊躇します。

しかし、双子の子供2人はもうすぐ小学校に入学します。友達と同じ小学校に通わせてやりたいという思いもあり、学区を変えることはできない、ローンが借りられるならいま買ったほうがいいかもしれないと妻Bさんが強くいいます。

銀行の審査の結果、5,000万円をペアローンとして借りられることになりました。夫Aさんは大決断をして住宅を契約。無事、新築の家が引き渡されました。

当初は何事もなく住宅ローン(月返済額13万円)を返済できていたものの、問題は2020年ごろに起きました。突然襲ってきたコロナ禍で妻Bさんの会社業績は急激に悪化。緊急事態宣言や店舗の休業などによるものでした。会社はすぐには倒産しないと聞かされていましたが、Bさんの年収は100万円も減少し、250万円に。

そしてさらにBさんの妊娠がわかったのです。いずれ育児休業を取ることになりますが、子供が3人いる状態でいまの仕事への復帰は厳しいかもしれません。夫Aさんは店舗を巡回するスーパーバイザーであるため、育児を手伝うことが難しいのです。

それでも家計はまだ大丈夫ですが、預貯金が70万円しかないありません。先行きが非常に不安になった妻Bさん。この低い年収のまま今後やっていけるのかどうか、転職すべきかどうか、FPに相談してみることにしました。

しかし、FPからの回答は大変厳しいものだったのです。

FPからの悲しいアドバイス

世帯年収がまだ700万円あるとはいえ、将来の家計はギリギリの綱渡り状態。もし資産運用などをなにもしなかったとしたら65歳時の預貯金は900万円しか残りません。

それどころか、予想される預貯金額も机上の計算でしかなく、現在預貯金ができていないことから、習慣を変えない限り、この900万円を貯めることも厳しいのではないかということでした。

Bさんの年収は250万円と低い状態ですが、子供が3人いる状態での転職はリスクが高いので現状維持をすべきともアドバイスを受けます。

住宅ローンを完済したあとは建物の大規模修繕もあります。老後の生活費の貯えも必要です。しかし、いまのままではそれらの準備は無理そうです。このままいけばきわめて貧しい老後生活となります。

「ペアローンで高い家を買ったのがミスだったのでしょうか?」と妻Bさんは質問します。

「ミスではありませんが、時期を間違えたかもしれません」とFP。「双子のお子さんの教育費の負担が非常に重いため、まずは教育費の準備を優先すべきでした。大学を卒業したころに預貯金にゆとりがあったら、老後に向けて家を買ってもよかったかもしれませんね」

しかし、現状として、すでに家を買ってしまっています。ほぼフルローンであったため売却しても借金が残ってしまうでしょう。都心のマンションと異なり、郊外の中古戸建てはよい値段では売れません。今後やるべきことは支出の徹底した削減と、夫Aさんがなんとか休みをやりくりして子育てに協力すること、そして資産運用と貯蓄をすることです。

「もうなんだか将来が暗いですね……」とBさんは落ち込んでしまいましたが、家を買った以上、厳しい生活でも頑張るしかありません。

1億円タワマンをペアローンで買う夫婦も同じように苦しいのか?

一方で、Aさんと同世代で、世帯年収1,600万円の夫婦には、1億円の融資の可能性があります。もし1億円のタワマンを購入したら……この場合のペアローンも事例のように生活が厳しくなるものでしょうか。

驚くことに、こうしたケースでは同様の結果にならないことが多いといえます。理由としては、年収が高い世帯の場合、事例にあるような世帯年収800万円の夫婦のような事態にはなりにくいのが現実です。1億円の融資を受けられる人は、信用情報だけではなく職業、勤務先の属性も厳しく判断され、多くは夫婦ともに大手企業勤務者や公務員ということになるでしょう。いわゆるパワーカップルと呼ばれる人たちです。

職業上、昇給もあり年収が急激に下がることも考えにくいです。退職金も潤沢で、育児休業後も職場復帰の心配は少ないでしょう。

そして生活費自体は高所得世帯も大きくは変わりません。毎月26万円の返済をしても、決して生活は苦しくはなく、しっかりと貯蓄や資産運用ができます。

都心のタワーマンションは資産性にも優れているため、将来的に売却をしてリタイア資金にすることも可能かもしれません。そうなると家計のキャッシュフローには非常に余裕があり、子供への相続問題を心配しなければならないほどです。

「年収の7倍の額をペアローンで融資を受けて住宅を買う」のであっても年収によってここまで状況が違ってしまうのは、考えれば当たり前のことですが、つい忘れがちなのかもしれません。

新築住宅の価格高騰が落ち着く目途がつきません。ペアローンで住宅を買うときには、将来のキャッシュフローを緻密に計算してみることをおすすめします。ペアローンを借りてはいけない場合もあります。そして年収によっては住宅を買ってはいけないタイミングも確実にあります。住宅資金の専門家のアドバイスを仰いで判断してください。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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