男子マラソンの世界記録保持者、ケニアのケルヴィン・キプタムさんが11日、同国西部で交通事故により死去した。24歳だった。
キプタムさんは昨年10月、米シカゴのマラソンを2時間0分35秒で走り、世界新記録を打ち立てた。ケニアの偉大なマラソン選手エリウド・キプチョゲさんの記録を破った。
2人とも今夏のパリ・オリンピックのケニアの暫定チームに選ばれていた。
警察によると、事故は11日午後11時ごろ発生。キプタムさんが運転中、「(車の)コントロールを失い、道路を外れて左側の側溝に突っ込んだ」という。車は側溝の中を約60メートル進み、大きな木に衝突したという。
この事故で、キプタムさんと、コーチでルワンダの元陸上選手ガルヴェ・ハキジマナさん(36)が死亡。若い女性も重傷を負い、病院に運ばれた。
ハキジマナさんは、2018年からキプタムさんのコーチを務めていた。
キプチョゲさんはキプタムさんについて、これから「信じられないような偉業」を達成する「生涯」を送るはずの新星だったとX(旧ツイッター)に投稿。遺族に哀悼の意を表した。
ケニアのウィリアム・ルト大統領も、世界に足跡を残した並外れたスポーツマンだったと、キプタムさんを惜しんだ。
アバブ・ナムワンバ・スポーツ相は、「ケニアは特別な宝石を失った。言葉がない」とXに書き込んだ。
世界陸連のセバスチャン・コー会長も、「信じられないようなレガシーを残した、信じられないような選手」だったとキプタムさんをしのんだ。
父親のサムソン・チェルイヨットさんは現地放送局のシチズンTVに、「キプタムは私にとって唯一の子どもだったが、いなくなってしまった」、「彼の子どもを育てるのを誰が助けてくれるのか」と取り乱した様子で話した。キプタムさんには2人の子どもがいる。
キプタムさんの遺体が収容されたリフト・ヴァレー州エルドレトの病院の前には、人々が集まった。
2時間切りへの挑戦
キプタムさんのチームは先週、キプタムさんが4月にオランダ・ロッテルダムでのマラソンで2時間切りに挑戦すると発表したばかりだった。
キプタムさんは急速にスター選手へと成長した。2022年のバレンシア・マラソン(スペイン)でフルマラソンに初出場すると、当時歴代4位のタイム(2時間1分53秒)で優勝。昨年4月のロンドン・マラソンでは2時間1分25秒の大会記録を樹立した。
そして、その半年後のマラソン3戦目となるシカゴ・マラソンで、当時の世界記録を34秒縮めた。この時点ですでに、30キロメートルまでは集団と一緒に走り、そこからペースを上げて独走するという独特の戦術に磨きがかかっていた。
キプタムさんが陸上の主要大会に初出場したのは2018年で、シューズを買えなかったため、借りたシューズで走った。
ケニアでは、トラック競技から長距離種目へと転向するのが陸上選手の伝統だったが、キプタムさんはロードでキャリアをスタートした新型選手の一人だった。
この異例の選択について、キプタムさんは昨年のBBCの取材で、「トラックの集まりに通うお金がなかった」からだと説明していた。
(英語記事 Kenyan marathon world record holder Kelvin Kiptum dies in road accident)