『ブギウギ』趣里×田中麗奈、“怒り”をぶつけ合う圧巻の演技 予想外だったタイ子との再会

『ブギウギ』(NHK総合)第94話では、スズ子(趣里)とおミネ(田中麗奈)が腹を割って話をすることになる。スズ子はおミネの誤解を解くため、有楽町のガード下にやってきた。おミネは「腹を割ったところで、アタイらとあんたじゃ、立場が違うのさ」と冷ややかだ。立場など関係ないと言うスズ子に、おミネは言った。

「じゃあ、あんた、好きでもない男に抱かれたことあんのかい?」

誰かが勝手に始めて勝手に負けた戦争に自分たちは巻き込まれただけだとおミネは言う。怒りをあらわにしながらも苦しみを吐き捨てるように言う田中麗奈の台詞の言い回しは胸にくるものがあった。おミネはこれまでの鬱憤を晴らすかのように「そんな汚い世間に持ち上げられてお気楽に歌ってるあんたとは立場が違うっつってんだよ!」と張り上げた。そしておミネからスズ子へと向けられた怒りは、人知れず悲しみを押し殺していたスズ子の心を開くことになる。

「お気楽なんかやない!」
「ワテかて死に物狂いや!」

スズ子は病気で母・ツヤ(水川あさみ)を失い、戦争で弟・六郎(黒崎煌代)を失い、しまいには一番大切な人・愛助(水上恒司)を結核で失った。「祈っても拝んでも愛助さんにはもう会われへん」という言葉が胸に突き刺さる。涙がこみ上げてくるが、スズ子はその涙を拭いながら、おミネから目を背けずに自分の気持ちをはっきりと伝えた。

「お気楽に見えるかも知れんけど、娘を守ろうと思たら、寂しい、悲しい、言うてられへん。つろうても、へこたれそうになっても、笑て歌うんや」

スズ子が胸の内を明かした時、スズ子を睨みつけていたはずのおミネ、そしてラン(小田ゆりえ)やマキ(辻凪子)、タマ(和海)も、スズ子のつらい胸中に共感するような顔を見せる。彼女たちもまた、戦争によって大切な人に先立たれていたのだ。自分たちの境遇と重なる部分があることを知り、目に涙を滲ませるおミネの表情が印象的だった。はじめこそ、腹を割って話すことなどできないと言っていた彼女たちだが、最後には通じ合うことができた。

第94話でスズ子とおミネはお互いの誤解を解いたが、スズ子に新たな出来事が待ち受けていた。ひょんなことから靴磨きの少年を助けて家に送り届けたスズ子は、幼なじみのタイ子(藤間爽子)と再会する。タイ子は転校してきたスズ子に最初に話しかけ、それ以来一番の仲良しだった。

久しぶりの再会に喜ぶスズ子に対し、タイ子はかたい表情のまま「どなたさんでしょう?」とスズ子を拒絶する。「タイ子ちゃん……一体何があったんや」と気遣うスズ子を、タイ子はキッと睨みつけた。タイ子を演じる藤間爽子の相手を突き放すような面持ちが強く心に残る。その面持ちは「ウチもスズちゃんとこみたいなにぎやかな家庭をつくりたいわ」と笑っていたたおやかな印象のタイ子とは別人だった。

第94話は、幼なじみに距離を置かれ、悲しみに沈むスズ子の姿で幕引きとなった。タイ子に一体何があったのだろうか。

(文=片山香帆)

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