『正直不動産2』“タムパ”重視の板垣瑞生に成長の兆し 十影の両親への思いが明らかに

嘘のつけない不動産営業マンが活躍する痛快お仕事コメディ『正直不動産2』(NHK総合)。第6話「春よ来い」では、永瀬(山下智久)と月下(福原遥)が、家賃を滞納している清川(美山加恋)と、家賃滞納を速やかに解決したい大家の猪口(梅沢富美男)の間で板挟みとなる。同じころ、永瀬と月下はマダム(大地真央)を通じて、十影(板垣瑞生)が両親を失った事情を聞く。

十影は給与や出世よりプライベート第一。タムパ(タイムパフォーマンス)重視で残業は一切しない。第6話の冒頭で見せた態度もなかなかのものである。顧客の前にもかかわらず、気だるそうに座っている十影はあくびをするわ、ため息をつくわで、永瀬に小突かれていた。とはいえ、十影は教育係である永瀬や月下の営業スタイルに触れる中で少しずつ変化を見せてきた。たとえば第4話の終わりでは、タムパ主義の十影が始業10分前に出勤して、永瀬らを驚かせていた。そして第6話は、そんな十影が大きく変化する回となった。

十影は教育係の永瀬の営業スタイルよりも、黒須(松田悟志)の営業スタイルの方がタムパ重視で分かりやすく勉強になると考えていた。永瀬は、黒須が自分の成約を得るために顧客を騙すようなことをしたと十影に言い聞かせる。だが、十影は黒須の行動よりも借り主である学生に対して「結局、家賃も学費も親の金じゃないっすか」「夢も何も、自分が親ガチャに当たって楽してることに気付いてないような連中っすよね。逆に勉強になったんじゃないっすか」と辛辣だ。

一方で、演劇活動とアルバイトの両立に苦労する清川に向けるまなざしは少し違う。滞納した家賃を支払うために朝から晩まで働く清川の姿を見た十影の顔つきは、タムパが悪いと感じているようにも見えるが、同時に清川が頑張る姿を見守っているようにも見える。清川が永瀬と月下の顧客だと知った時も、「しばらくオーディションの練習もできていなかったから……」と話す清川をどこか心配そうな面持ちで見つめていた。

十影が清川に向かって「タムパ最悪」「夢がどうとか言ってないで、さっさとあのアパート出ていくべきっすよ」と言い放った時、永瀬と月下は愕然とするが、十影は決して夢を諦めるべきだとは考えていなかった。永瀬の通訳によれば、十影は家賃に振り回される生活ではなく夢をかなえるための生活を送るべきだと言いたかったのだ。清川を気にかけるようなまなざしは、仕事に追われ、その間は舞台のことができなくなっている清川を心配したからこそ。十影の心情描写は掴みどころがないが、板垣瑞生は基本的にはむすっとした表情を見せながらも、目線や口元で感情の機微を表している。

涙を流し、安堵する清川を見ていた時も、表情は乏しいが、清川の深い感謝を真摯に受け取っていることは分かる。また、のちに言葉として発せられた「親孝行はできるうちにしたほうがいいんだなと思って。夢を追いかけるだけで親が喜んでくれるなら……」という思いがその佇まいに表れていた。

十影の真意が掴めず、「辞めちまえ」と言ってしまった永瀬は、定時に直帰する十影に「仕事辞めちゃう系? ……なんだっけ?」と不安げに問いかける。十影は永瀬と月下の方へは振り返らなかったが、ほんの少し楽しげな笑みを浮かべて「また……明日」と言った。タムパ重視の姿勢が激変することはないと思うし、将来、永瀬や月下のような不動産営業スタイルになるかどうかも定かではない。それでも、この十影の微笑みから、永瀬や月下の存在が確かに影響を与えてきたのだと分かる。

清川の一件は、十影に家族との思い出を思い起こさせた。両親の墓の前で「ごめんな、親孝行できなくて……」と口にした十影だが、その声色は心なしか明るく聞こえる。十影はこう続けた。

「俺、親ガチャ外れたと思ったことねえから。病気ん時も……借金取りに追われてる時も……。どんな時でも笑ってた、母ちゃんも父ちゃんも……」
「すっげえかっけ~と思ってるよ」

両親の墓の前で見せた十影の笑顔に家族を恨む気持ちなど欠片もない。

物語序盤では、完全出来高制のフルコミッション契約である黒須に「タムパ最高な感じ、マジリスペクトっす」と親指を立て、紙の物件図面に「いい加減、全部データ化できないんですかね?」と愚痴をこぼしていた十影。しかし物語の終わりには、「紙って無駄だよな~」と言う黒須に「いや、紙もいいっすよ」「タブレットでいちいちスワイプするよりお客さんが見比べやすいって気付いたんで」「全然無駄じゃないっす。むしろ、接客のタムパ、いいっす」と伝える。相変わらず淡々とした物言いだが、その言葉には「いい家と出会いたい」と願う顧客の思いに応えようとする姿勢があった。

目の前の仕事に向かう十影の目は以前にも増してやる気が感じられる。ついにはちょっとだけ残業をするように。十影の営業マンとしての成長に心動かされた。

(文=片山香帆)

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