高校時代にお笑い日本一!  沖縄から飛び出したピン芸人・メガネロック大屋があえて事務所に所属しないストイックな理由

 メガネロック大屋、29歳。那覇商業高校在学中の2012年に、全国の高校生お笑い日本一を決める「笑顔甲子園」で優勝に輝いた。25歳で沖縄を飛び出し、東京に活動の舞台を移したメガネロック大屋(以下、大屋)は年間250本以上のステージに立ち続け、ピン芸人の日本一を競う「R-1グランプリ」で今年ついに準々決勝に進出。おいでやす小田や吉住らテレビでおなじみの芸人たちと共にエントリー5457人中上位の144人に残った。そんな大屋は事務所に所属しない「フリーの芸人」。あえてフリーを選んだ理由は、自分自身と約束したストイックさにあった。(フリーライター・長濱良起)

R-1で「全然違う」世界に立った

 R-1グランプリの準々決勝に残ったー。そんな一報が大屋本人に届いたのは1月26日、ちょうどインタビュー当日のことだった。

 「初めてここまで来られた。インタビューのある今日、報告できて良かったです」。 大屋は昨年10月と11月、今年1月と、立て続けに「メガネロック大屋がR-1グランプリで漢字のところまで行く為のライブ」を開催。「漢字のところ」とは言うまでもなく「準々決勝以上」のことだ。R-1の決勝経験者もゲストに呼んで研鑽(けんさん)に励み、“漢字の舞台”に照準をロックオンしていた。

 「やっぱり2回戦と準々決勝だと、全然違うんですよ。周囲からの評価も含めて」

 残念ながらその後、準々決勝で敗退となり、3月にある決勝の大舞台に立つことはできなかった。

 しかし、早くも次に向けて企画したのはこんなタイトルのライブ。「メガネロック大屋がR-1グランプリで決勝まで行く為のライブ」。SNSでこんな決意も示した。「『漢字』→『決勝』→『優勝』と実現できるように頑張ります!」

苦しんでつかんだ2年前の転機

 大屋は沖縄のお笑い団体「演芸集団FEC」に所属して活動していたが、心の中でずっと「東京でやりたい」との強い思いを抱えていた。笑顔甲子園に出場して以来、交流のあったパーマ大佐やたかまつななが全国的に知名度を上げていたことにも刺激を受けた。

 24歳でFECを退団。結婚式2次会の司会などで活動資金をため、25歳で東京に移った。沖縄と東京の違いの一つは「圧倒的な場数」だ。お笑いライブができる場所は大小さまざまあり、主催者も多い。1枚1500円や2千円のチケットを売れば、半分ほどが手元に残る。少しでも経験を積んで力に変えるべく、新たな場にどんどん乗り込んでいった。

 ウケていたネタが急にウケなくなり、試行錯誤し「何が面白いか分からなくなって」、芸風やキャラが定まらず苦しんだ時期も。転機は2年前。「オタクっぽい格好にして、クネクネした動きでしゃべったらウケて。『あ、自分はこっちの人なんだ』と」

インタビューに答える大屋=1月26日、那覇市のライブハウスOutput

 それから、対決形式のライブでは常に上位にランクイン。ファンもギャラも増えた。「生活するには足りないけど、何かを食べるには困らないぐらい」には、お笑いで身を立てられるほどになった。

コンビニバイト→ネタ作り→ライブの日々

 人気や実力を付けながら、事務所に所属せず、フリーの道を突き進むのはなぜか。

 「単純に、スカウトされたいんですよ。フリーでいっぱいライブに出て、強いネタをたくさん作って。後ろ盾のないフリーの芸人が、R-1で実績を作れば、芸能事務所も『こいつは本物だ』と目の色が変わるはずです」

 そう話しながら、大屋は右手をいそいそと動かす。インタビュー当日にあったライブに来場したファンにお礼の手紙を書いていた。「ファンを大切に、しっかりと集客もする」。2年ほど前から欠かさず続けていることだ。

 「お笑いをやるにも、集客をするにも、自分ができることは全部やって、(自分自身や周囲に)言い訳はできないようにしています」

ファンにお礼の手紙を書く大屋=1月26日、那覇市のライブハウスOutput

 午前はコンビニでアルバイト、午後はネタ作り、夜はライブ。日によって1日に4回も5回もステージに立つことだってある。できるだけ多くのライブに出演するようにし、ネタを作らないといけない状況へと意図的に自分を追い込む。新ネタは毎月7、8本のペースで下ろしている。まさにストイックなフリー芸人ー。大屋はとにかく忙しい。だが、これも「売れた時の練習です」。忙しさにはとっくに慣れた。

月30回もステージに 実は夢がもう一つ

 大屋は語る。「芸への対価として、しっかりお金を生み出せる芸人になりたい」。とにかく直球勝負だ。ライブで客を集めて収益を得る。多いときは月に30ステージ立つ大屋が大事にしていることだ。

 実はもう一つ、ライブ以外に高い目標がある。それは「オールナイトニッポンに出ること」だ。「マジでラジオが好きなんで。大事にしたいです。この先もずっと残る媒体はラジオだと思っています」

 大屋は東京にいながら、ラジオ沖縄でポッドキャスト番組をやっている。その名も「メガネロック大屋の東京独語(とうきょうひとりがたり)」。ライブでもラジオでも、全てを背負ってマイクの前に立つのは、他の誰でもない。己のみだ。

メガネロック大屋 ウェブサイトメガネロック大屋の東京独語 | ラジオ沖縄ポッドキャスト

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