企業のプラスチック・フットプリント情報開示の最前線――WWFのプログラムが最新の年次報告書を公表

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WWF(世界自然保護基金)がプラスチック問題対策プログラムの年次報告書を発表した。この報告書は、プログラムに加盟する世界的大企業9社のプラスチック使用・廃棄等の実績を開示するものだ。さらに、加盟企業がどのようにプラスチック・フットプリントを計測・開示しているのかも説明されている。報告書の要点を見ていこう。(翻訳・編集=茂木澄花)

WWFはかねてより、プラスチック問題対策プログラム「リソース:プラスチック(ReSource: Plastic、以下ReSource)」を実施している。今回その4度目となる年次報告書「トランスペアレント2023 (Transparent 2023)」を公表した。報告書では、加盟企業のプラスチック使用・廃棄・再利用の経過とともに、プラスチック・フットプリントの追跡・計測・開示の現状を明らかにしている。

報告書では、下記ReSource加盟企業9社のプラスチック・フットプリントが取り上げられている。

アムコア、コカ・コーラ、コルゲート・パルモリーブ、CVSヘルス、キンバリー・クラーク、キューリグ・ドクターペッパー、マクドナルド、プロクター・アンド・ギャンブル、スターバックス

各社のプラスチックの現状は、以下の視点で調査されている。
1) ポリマーの種類や形状
2) 再生プラスチックやサステナブルな方法で調達されたバイオベースのプラスチックの使用
3) 製品・サービス全体での適切な廃棄物管理の経路

2021年から2022年にかけての加盟各社の進捗とともに、継続的に加盟している企業については年度ごとの比較も記載されており、包括的な報告書となっている。

「すべての企業が自社のプラスチック・フットプリントを開示していくべき。国連の『プラスチック汚染を終わらせるための国際条約』ではこのように提唱しています」。WWFのプラスチック廃棄物・ビジネス部門の責任者であるエリン・サイモン氏はこう語る。「ReSource加盟企業は時代を先取りし、プラスチックの情報開示は無理なく行えるのだと示しています。加盟企業の透明性が、世界中のサプライチェーンと産業に大きな影響を与える学びと行動につながっているのです」

ReSourceは今回初めて、再利用の取り組みに関する包括的なデータを加盟企業から集めた。プラスチック廃棄を減らす方法について知見を共有する狙いがある。WWFは再利用のシステムを不可欠な戦略と捉えており、加盟9社すべてが再利用を模索している。今回の報告書では、次の4つの分野についても進展の度合いが示され、重要な洞察がなされている。

1) 不要なプラスチックの削減
2) 世界中での再利用と堆肥化
3) 残るプラスチックについてはサステナブルな原料に移行
4) データの整合性の改善

2023年の主な所見

・ReSource加盟企業のうち5社で、2021年から2022年にかけて、リサイクルでない化石由来のプラスチックの総トン数が減少した。
・加盟各社の基準年と比較したプラスチックの総トン数は、9社のうち4社で減少、5社で増加した。
・一部では進展が見られるものの、全種類のプラスチックの合計重量は2021年の720万トンから2022年には0.8%増加し、726万トンとなった。
・ReSource加盟企業全体では、問題のあるプラスチックの削減が進んだ。加盟企業の全製品のうち、問題のあるプラスチックを使用した製品は、基準となる2018年の3.2%の半分以下となる1.2%だった。
・ReSource加盟企業の再生プラスチック使用率は、2021年の10.2%から2022年は12%に増えた。
・リサイクル可能な包装資材の使用率は2021年の70.4%から2022年は72.5%に増えた。

【問題のあるプラスチックとは】
リサイクルや堆肥化がしにくいプラスチックや、有害物質や流出などの環境リスクのあるプラスチックのこと。報告書では、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、微小プラスチックをこのように定義している。

「スターバックスは、地球から得た以上のものを還元するという、環境に対する公約を掲げています。これを根拠として、2030年までに廃棄物、ウォーター・フットプリント、カーボン・フットプリントを半減するために取り組んでいます」。スターバックスのチーフサステナビリティオフィサー、マイケル・コボリ氏はこう話す。

「廃棄物削減を進めるため、再利用可能な資材への切り替えを続けています。世界各国20の都市での再利用可能カップの試験導入や、使い捨て包材の改善を行いました。一例として、リサイクル素材を30%使用し、内側に使用するプラスチックを25%削減したFSC認証の使い捨てカップを導入しました。また米国とカナダでは、水のボトルを100%再生PETのボトルに移行しています。私たちの野心的な目標を達成するうえで、業種間で協働して有意義な進展を遂げるためにReSourceのようなプログラムは不可欠です」

現在、ReSource加盟企業には毎年「ReSourceフットプリント・トラッカー」による報告が義務付けられている。このフットプリント・トラッカーは、CDPの「プラスチック情報開示評価(Scaling Plastics Disclosure)」イニシアチブとReSourceの一環として利用されている。市場に放出しているプラスチックの量と種類だけでなく、その結果として起こる廃棄や漏れ出しも把握したい企業向けのツールだ。また、企業が自社のプラスチックによるインパクトを開示するための共通の枠組みとしても機能している。WWFは最近、CDPのプラスチック情報開示評価イニシアチブの運営委員会に加わった。CDPのプラスチックに関する質問書の開発に対し、情報提供と支援を行うためだ。WWFは、CDPの質問書をさらに強固で包括的なものにし、現行のフットプリント・トラッカーに代わるものにすることを目指している。

プラスチックの情報開示を通じて、問題を捉える視野を持つことが、プラスチック汚染対策に取り組むための最初の一歩だ。ReSource加盟企業は、プラスチックに関する情報開示が可能であることを体現している。しかし、任意の企業行動だけではプラスチック汚染危機の規模と緊急性に十分対処しきれない。プラスチック汚染のない未来を実現するためには、法的拘束力のある「プラスチック汚染を終わらせるための国際条約」や拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)の法律を通じた国レベルおよび国際的な政策行動が重要だ。

詳しくは、報告書の全文またはエクゼクティブサマリーで参照できる。

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