インドネシア大統領選、プラボウォ国防相が勝利の見通し=初期集計

サイモン・フレイザー(ロンドン)、ジョナサン・ヘッド(ジャカルタ)

インドネシアの大統領選挙が14日、投開票された。初期集計では、プラボウォ・スビアント国防相(72)が過半数の票を獲得し、次期大統領に選ばれる見通しとなっている。

投票終了の数時間以内に行われた、国承認のサンプル集計「クイックカウント」によると、プラボウォ氏が57%以上の票を獲得している。決選投票は実施されない見通し。

ともに前州知事の他の2候補、ガンジャル・プラノウォ氏は17%、アニス・バスウェダン氏は25%で、プラボウォ氏に大きく引き離されている。

この初期集計は例年、比較的正確な結果を示している。

今回の大統領選は、1万7000の島々に暮らす2億500万人超の有権者の投票で争われた。

1日で実施される選挙としては世界最大で、最終結果が出るまで数週間かかる。

プラボウォ氏は投票終了の数時間後、首都ジャカルタで支持者に向かい、「この勝利はすべてのインドネシア人の勝利だ」と演説。

「喜ばしいことだが、私たちはおごらず、有頂天にならず、謙虚でなくてはならない。この勝利はすべてのインドネシア人の勝利でなければならない」と述べた。

プラボウォ氏はまた、歴代大統領の名前を上げ、現職のジョコ・ウィドド大統領には感謝の言葉を送った。選挙戦ではジョコ氏の政策の継承を掲げていた。

プラボウォ氏は過去2回の大統領選にも立候補したが、いずれもジョコ氏に敗れた。ジョコ氏は依然として絶大な人気を誇るが、5年の任期を2期務め、さらなる立候補はできない。

逆戻りを心配する声も

プラボウォ氏は評価が分かれる人物だ。人気の高さから、インドネシアが過去の権威主義に逆戻りするのではないかと恐れる声も上がっている。独裁的なスハルト元大統領の政権下で特殊部隊司令官を務め、スハルト氏の娘と結婚していた。人権侵害の疑惑もつきまとっている。

多くの有権者は今回の大統領選について、選択肢に幻滅していると話していた。ジャカルタ中心部でBBCが取材したビジネスマンは、「この選挙で難しいのは、どの選択肢も争点がはっきりしていないことだ。私たち有権者は、最も悪くない選択肢を選ぶことが求められる」と話した。

一方、ドイツ在住の別の有権者は、「インドネシアには本当に強い人物が必要だ」、「プラボウォはいい大統領になるかもしれない」と述べ、元将軍のプラボウォ氏が大統領になることを支持した。

こわもてのイメージを一新

プラボウォ氏は、ソーシャルメディアを利用した巧みで明るい選挙運動を展開。こわもての軍人から、愛想がよく、少しコミカルな老練政治家へとイメージを一新した。

物議を醸した同氏の過去をほとんど知らないインドネシアの若い世代などには、これが非常に効果的だった。

プラボウォ氏は、インドネシアが東ティモールを占領していた時期に深刻な人権侵害をしたとされた。1990年代のスハルト政権末期には、学生活動家の拉致と拷問を命じたとされた。

同氏はこれらの疑いを否認しており、有罪判決も受けていない。

今回の選挙戦ではジョコ氏の支持に助けられた。ただ、ジョコ氏の長男ギブラン・ラカブミン・ラカ氏が副大統領候補になると、ジョコ氏への批判も噴出した。

初期集計のプラボウォ氏のリードが大きいため、対立候補から楽観的な見方はほとんど出ていない。

アニス氏は、変化を求める運動を続けるとし、集計はまだ終わっていないと指摘。「私たちは公式結果が出るのを待ち、それを尊重する」と述べた。

最大与党インドネシア闘争民主党(PDI-P)所属のガンジャル氏は、BBCインドネシア語がジャカルタ中心部の同党本部を訪れた時には、すでに姿はなかった。

現職のジョコ大統領は、形にとらわれないリーダーシップと特徴的なインフラプロジェクトなどで、いまも国内で高い支持率を誇っている。

一方で、インドネシアの民主主義制度を弱体化させ、プラボウォ氏と同盟関係を結んで権力を乱用していると非難されている。

多くのインドネシア国民にとって、プラボウォ氏の当選確実は、同国で発展しつつある民主主義に新たな、そして厄介な道を示すものとなった。

(英語記事 Prabowo Subianto on track to win Indonesia presidential race - early results

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