『ブギウギ』藤間爽子と趣里が涙の抱擁 「東京ブギウギ」が浮き彫りにした人生の明暗

『ブギウギ』(NHK総合)第95話が放送された。靴磨きの少年・達彦(蒼昴)の母親は、スズ子(趣里)の親友・タイ子(藤間爽子)だった。再会を喜ぶスズ子だったが、タイ子に「スターさんには関係あらへん」と言われて追い払われてしまう。

スズ子は達彦に会いに行く。達彦はタイ子が「東京ブギウギ」を嫌っていると話した。スズ子とタイ子が最後に会ったとき、タイ子は東京に行くことを打ち明け、その時お腹の中には達彦がいた。歌手になるきっかけをくれたタイ子は「福来スズ子の生みの親」で、スズ子は達彦に「あんたのお母ちゃんはホンマにすごい人なんやで」とほほ笑みかけた。

病気のタイ子を助けたいスズ子は、おミネ(田中麗奈)に相談し、達彦をパンパンガールたちに紹介した。タイ子は、達彦が持ち帰った金を盗んできたものと誤解する。見かねて間に入ったスズ子に対して、タイ子は「帰れ」と心ない言葉を投げつけた。

スズ子の思い出話を聞くタイ子は、必死に自分の感情と戦っているように見えた。こらえきれず泣き出したタイ子をスズ子は抱きしめる。タイ子の人生に起きたこと。戦争で家族をなくし、自身は病気になって生きていくだけで精いっぱい。そんな時、スズ子の「東京ブギウギ」を耳にしたのだった。

「こんな不幸のどん底にいてんのに、聞こえてくんねん。どこにいたかて、あんたの『ブギウギ』いう歌が」

タイ子には耐えられなかった。心が浮き立つ「東京ブギウギ」は、明暗が分かれた人生のコントラストを残酷なまでに示すものだった。「東京ブギウギ」が一夜にして〈世紀のうた/心のうた〉になったわけではないことを、パンパンガールとタイ子のエピソードは示している。自身も幼子を育てるスズ子にとって、同性からの拒絶は不意打ちに近いショックがあっただろう。

戦後復興に取り残された人々の代表が、タイ子やパンパンガールといえる。戦争によって家族をなくし、見下されながらも、自分の身一つで生きていく道を選んだ。家父長制の庇護の下にない点はスズ子も同じだ。愛人の子として生まれ、愛助(水上恒司)と籍を入れないまま娘を授かった。「東京ブギウギ」が鳴り響く日本の戦後が、こうした人々によって作られたことは記憶に留めておきたい。

タイ子やパンパンガールの苦労を誰よりも理解できるのがスズ子である。時を経て繰り返されるおせっかいが、苦しむ友を救うと信じたい。

(文=石河コウヘイ)

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