イスラエル国防軍(IDF)は15日、パレスチナ自治区ガザ地区南部の主要病院を急襲し、「数十人」のテロ容疑者を捕らえたと主張した。病院にいたスタッフや患者は避難を余儀なくされた。
イスラエルは、ガザ地区南部ハンユニスのナセル病院で、「正確かつ限定的な作戦」を開始したと発表。イスラム組織ハマスが同病院で人質を拘束しているとの情報を得たと付け加えた。
ハマス側はこの主張は「うそ」だとはねつけた。
病院長はBBCに対し、病院内は「壊滅的かつ非常に危険な」状況だと語った。
IDFのダニエル・ハガリ報道官はこの日の急襲で、昨年10月7日のイスラエル奇襲に関わった人物や、人質をガザ地区に移送した「ハマス側の救急車の運転手」、武装組織「パレスチナ解放人民戦線(PFLP)」のメンバーらを拘束したと述べた。
「この地域で逮捕された、あるいは投降したテロリスト」の尋問と、解放された人質の証言から、「拉致されたイスラエル人が以前、(ナセル)病院の敷地内で拘束されていたと判断した」という。
ただ、ナセル病院への急襲に関わったイスラエルの特殊部隊は、ハマスに拉致されたイスラエル人につながる証拠をまだ発見しておらず、捜索が続いていると、ハガリ氏は述べた。
ナセル病院の状況
ハガリ氏がコメントを発表する数時間前、ナセル病院内の様子を捉えた動画が浮上した。BBCが検証したこの動画には、煙やほこりが立ち込めた廊下で、患者を乗せたストレッチャーを急いで動かす医療スタッフの姿が映っている。
患者をベッドごと移動する場面もある。廊下の天井は壊れている。
毛布のようなものにくるまれて運ばれる患者もいる。
別の動画には、人々が家具などをドアに立てかける様子が映っている。このシーンには、イスラエル部隊が突入しようとしていると、英語で説明する声が入っている。
病院に残る看護師は、イスラエル軍の作戦中に「数多くの犬」が院内に放たれたとBBCに語った。
ナへド・アブ・テイマ院長はBBCアラビア語に対し、「病院施設の近くで」数時間にわたり「猛烈な砲撃と激しい爆発」があったと述べた。
また、病院施設に残っていた患者は重傷で、「病棟に山積み状態」になっているとし、彼らを「救う」よう国連と赤十字に訴えた。
ナセル病院はガザ地区でいまも機能している数少ない病院の一つ。数日前から、IDFとハマスの激しい戦闘の現場となっている。
患者らの避難は
IDFは急襲前日の14日、ナセル病院に身を寄せていた数千人に避難を命じていた。
IDFはナセル病院のスタッフに対し、患者とスタッフに避難義務はなく、医療従事者はガザの患者の治療を継続できると保証したとしている。
しかし、ハマスが運営するガザ地区の保健省のアシュラフ・アル・クドラ報道官は、そうした事実はないと主張。IDFが病院管理者に「医療機器なしで集中治療が必要な患者の治療を維持する」ことを強要したとした。
14日にほかの人たちと共に避難させられたという同病院の薬剤師ラワン・アル・ムグラビ氏は、「パニック状態で、(避難しようとする)人々は重なり合って悲鳴を上げていた。多くの人が負傷し、病院に戻った人もいた」とBBCアラビア語に語った。
「病院の門を出て検問所に着くとすぐ、病院全体が警察犬に襲撃された。私たちが検問所にいる間、多くの人が逮捕された」
「ほとんどの内科の患者は病院から避難させられたが、かなり重篤な患者だけは病院に残っていた」
国連の人道問題調整事務所(OCHA)は14日、ナセル病院が狙撃された疑いがあり、医師や患者、避難者の命が危険にさらされているとした。
国境なき医師団(MSF)は、避難を命じられた人々は病院にとどまって「標的になりうる可能性」をとるか、病院を離れて、爆撃が起きている「破滅的な状況」へ向かうかという不可能な選択を迫られていると述べた。
(英語記事 Nasser hospital in 'catastrophic' condition as Israeli troops raid)