スティーヴ・ローゼンバーグ BBCロシア編集長
アメリカ大統領選を前に、ジョー・バイデン米大統領は応援されれば歓迎するはずだ。
しかし、今回の応援の言葉は予想外だっただろう。
「私たちにとってはどちらがいいですか。バイデンかトランプか」。ロシア国営テレビのパヴェル・ザルビン記者が、ウラジーミル・プーチン氏にこう質問した。
「バイデン」と、プーチン大統領は即答した。「彼の方が経験豊富で、予測可能で、古いタイプの政治家だ」と。
そして、プーチン氏はさらに続けた。
クレムリン(ロシア大統領府)の指導者は、バイデン大統領の職務遂行能力を擁護したのだ。
「スイスでバイデンに会った時、確かに数年前のことだが、一部の人はすでに、彼は職務を果たせないと言っていた。しかし、私にはそうは見えなかった」と述べた。
「確かに彼は手元の書類を見ていたが、正直に言うと、私も同じことをしていた。たいしたことではない。それに、彼がヘリコプターから降りるときに頭をぶつけたことがあると言っても、何かに頭をぶつけたことなど一度もないと言える人がいるのか?」
こう話すクレムリンのリーダーについて、バイデン大統領はこれまで「人殺しの独裁者」とか「完全なごろつき」とか、「土地と権力に貪欲」な人間だと非難してきたのだが。
ということは、クレムリン側はそう言われても特に気にしていないと? 何もかも水に流したと?
とてもそうとは思えない。
プーチン氏とロシアに関するバイデン氏の過去の発言と、ドナルド・トランプ前大統領の過去の発言を比べてみるといい。
トランプ氏はプーチン氏を「頭がいい」「天才だ」とたたえてきた。北大西洋条約機構(NATO)の加盟国として十分な予算を国防費に充てない国については、ロシアに「好きにするよう促す」と発言している。
もしあなたがプーチン氏だったら、どちらを応援する?
実はプーチン氏が隠れトランプ・ファンなのだとしたら、なぜロシアの大統領はわざわざ、バイデン氏の再選が好ましいと公言したのだろう。
「トランプ氏に大統領になってもらいたい」と、仮にプーチン氏が公に発言したと想像してみてはどうか。
バイデン陣営にとって、なんともありがたいプレゼントだったはずだ。
トランプ氏と対立するアメリカ政界の勢力は一気に、攻撃材料にしたはずだ。プーチン氏に応援されるような前大統領は、クレムリンと結託していると。ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してから2年たつ今、前大統領はロシアと結びついているのだと。
共和党にとって、選挙で決して得になる材料ではない。
それでも、もしもトランプ前大統領が今年の大統領選で共和党の正式な候補になったとして、プーチン氏やロシアについて、問いただされる事態は逃れられない。
「クレムリンが好む候補はトランプ前大統領」だという避けがたい批判をトランプ陣営が払いのけ、クレムリンのバイデン氏擁護発言を利用するには、タイミングは今しかないのだ。
(英語記事 Why Russia's Putin backing Biden for the US presidency is not what it seems)