トランプ前米大統領に約3.5億ドル罰金命令、企業経営3年禁止 NY州地裁

ニューヨーク州地裁は16日、ドナルド・トランプ前大統領が所有資産の価値を過大に申告し、不正な利益を得たとして、約3億5490万ドル(約533億円)の罰金支払いを命じた。さらに、前大統領に向こう3年間、ニューヨーク州内で企業経営者になったり、州内の金融機関から融資を得ることを禁止した。

アーサー・エンゴロン判事はさらに、前大統領に対し、不正行為から今回の判決までに得た利益に対するいわゆる「判決前利息」も支払うよう命じた。このため、この民事事件での罰金総額は4億5000万ドル前後に達する可能性がある。

エンゴロン判事は、トランプ一族が経営する「トランプ・オーガナイゼーション」が2022年12月に脱税などで有罪評決を受けていることを踏まえ、「かなり」の罰金を科さなければ、被告たちは「詐欺的なふるまいをおそらく継続する」として、高額な罰金命令の理由を説明した。

「(トランプ一族は)まったく反省していないし、後悔もしていない。それは病的に近い」と、判事は判決文で書き、「本件で確認された詐欺行為は、書類のページから飛び出して、読む者の良心に衝撃を与える」とも述べた。

判事は判決文で、「低金利で高額融資を得るため、被告たちは会計担当に、甚だしく事実と異なる財務データを示し、それによって内容の不正な財務諸表が作られた」と指摘。「裁判でこの財務諸表を提示されても、被告側の専門家証人はただ現実を否定し、被告たちは責任を認めようとしなかった」とも書いた。

これをもってエンゴロン判事は、前大統領に命じた罰金に加え、共に被告となった息子2人に対してもそれぞれ400万ドルずつ罰金を命じ、州内での企業活動を向こう2年間禁止した。

判事は、トランプ・オーガナイゼーションの最高財務責任者だったアラン・ワイセルバーグ被告にも、罰金100万ドルの支払いを命じた。

トランプ前大統領のほか、関連企業も今後3年間はニューヨーク州内で融資を申請することができなくなった。

ただし、「企業にとっての死刑判決」とも言われる営業許可の取り消しはせず、その代わり、独立監査人が裁判所に3年間、監査内容を報告することや、コンプライアンス徹底のための独立社外取締役の選任を命じた。

この日、フロリダ州の私邸にいた前大統領は、「政治的な魔女狩り」による判決

を控訴する方針を示した。

「悪党のニューヨーク州判事がたった今、完璧な企業を築いた私に、3億5000万ドルの罰金を命じた」として、「この国にとってとても悲しい日だと思う」とも述べた。

トランプ前大統領はこの民事裁判の間、自分は融資をすべて返済したので、被害者はいない、犯罪行為はないと主張し続けた。これについてエンゴロン判事は判決文で、確かに被害に遭った金融機関はないものの「虚偽の財務諸表を出されて金を貸す、次の融資元が、同じように運が良いとは限らない」と書いた。

父と共に罰金命令を受けた息子2人は、ソーシャルメディアで今回の判決を非難。ドナルド・ジュニア氏は「政治的な動機」による判決だと主張し、エリック氏は判事を「残酷な男」と呼んだ。

この民事訴訟を提起したニューヨーク州のレティシア・ジェイムズ司法長官は、被告4人とトランプ・オーガナイゼーションが、金融機関に融資を求める際、所有資産の価値を莫大に膨らませて申請し、高額融資を低金利で受けられるように画策したと訴え、3億7000万ドルの罰金命令を要求していた。

ジェイムズ司法長官は16日、「この国では、人によってルールが違うなどあってはならない。大統領経験者でも例外ではない」と記者会見で述べ、「ドナルド・トランプは取引の技について本を書いたかもしれないが、彼が実際に習得して完成させたのは、詐欺の技だった」と批判した。

今回の裁判とは別に、前大統領はすでにコラムニストのE・ジーン・キャロル氏への名誉毀損について計8330万ドル(約123億4000万円)の損害賠償を命じられている。ニューヨークの連邦地裁は昨年5月に、前大統領が1990年代にキャロル氏を性的に暴行したと認定していた。

高額な損害賠償金が相次ぎ命じられているが、前大統領の資産総額は26億ドル(約3900億円)と評価されているため、賠償金の支払いで前大統領が破産する見通しはないとされている。

(英語記事 Trump ordered to pay $354m to New York for lying to banks

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