ロシアが「厄介な」対衛星兵器を開発中と米高官 宇宙配備を計画か

バーンド・デバスマン・ジュニア、BBCニュース(米ワシントン)

ロシアが「厄介な」新型対衛星兵器を開発していると、アメリカの政府高官が15日に述べた。ただ、ロシアが配備に至るのはまだ先だと強調した。

この発言をしたのは、米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報調整官。前日には議会下院の共和党幹部が、「国家安全保障上の深刻な脅威」だと漠然とした警告を発していた。

BBCが提携する米CBSニュースの報道によると、この兵器は宇宙を拠点とし、核兵器を備えている。人工衛星を標的にするという。

ただ、カービー氏はこれを追認せず、詳細を明らかにすることも拒んだ。

ロシアは、米政府が「どんな手を使ってでも」ウクライナ追加支援の法案を議会で可決させるため、今回の主張を利用していると非難した。

最近になってジョー・バイデン米大統領の最側近の一人となったカービー氏は、米国民にとって直ちに脅威となるものではないと、記者団に説明。

「地球上で人間を攻撃したり、物理的な破壊を引き起こしたりする兵器の話をしているわけではない」と述べた。

カービー氏によると、バイデン氏はロシアの兵器開発に関する情報について説明を受けており、政権として「非常に深刻に」受け止めているという。また、バイデン氏はこの脅威をめぐり、「ロシアとの直接的な外交関与」をすでに命じているという。

議会下院では14日、情報委員会のマイク・ターナー委員長が、深刻な国家安全保障上の脅威について謎めいた警告を発し、さまざまなうわさを呼んだ。

ターナー氏と他の委員らは15日、ジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会い、この問題について話し合った。

ターナー氏は会談後、「私たちは全員、政権がこの問題を非常に真剣に受け止めており、しっかりした計画もあるとの強い印象をもった」、「その実行を支援するのを楽しみにしている」と述べた。

宇宙兵器というと、SF小説や、「スーパーマンII」や「007/ゴールデンアイ」のような映画の世界のことのように聞こえる。だが軍事専門家は以前から、テクノロジーへの依存が高まる世界では、宇宙が次の戦争フロンティアになる可能性が高いと警告してきた。

脅威について何が分かっているのか?

カービー氏のコメント以外、米政府は今回の脅威について、具体的には明らかにしていない。

サリヴァン大統領補佐官は、この沈黙が意図的なものだと示唆。14日の記者会見では、この脅威に関する情報収集で情報当局が使っている「情報源と方法」に優先順位をつける必要があると述べた。

米メディアのニューヨーク・タイムズ、ABC、CBSはそれぞれ、この脅威について、宇宙空間でアメリカの人工衛星を攻撃するのに使える核兵器を、ロシアが開発することに関係していると報じた。

カービー氏は記者会見で、核兵器が配備された証拠はないと説明。同時に、アメリカはこの脅威を「非常に深刻に」受け止めていると強調した。

米政府関係者や航空宇宙の専門家らは何年にもわたり、ロシアと中国がアメリカに追いつこうと、宇宙での軍事力を着実に開発していると警告してきた。

首都ワシントンに拠点を置くシンクタンク「戦略国際問題研究所」が昨年発表した報告書は、ロシアがさまざまな対衛星(ASAT)兵器を開発していると指摘。その中には、旧ソ連時代に打ち上げられた不使用の人工衛星を狙って発射実験し、命中させたミサイルも含まれているとした。

この報告書の著者の一人で、元米国防総省情報部幹部のキャリ・ビンゲン氏は、ロシアはすでにウクライナとの戦争において、サイバー攻撃や妨害電波などさまざまな方法で衛星通信を妨害してきたとBBCに説明。

「それはすでにロシアの戦闘方針の一部になっている」と話した。

アメリカ国民は心配すべきなのか?

マイク・ジョンソン下院議長ら議会幹部は、国民が警戒する必要はないとしている。

下院情報委員会のターナー委員長は、この脅威を公表したことで批判を浴びている。同じ共和党のアンディ・オグルス下院議員は、ターナー氏が「米国民の健康的な生活と精神」を「無謀にも軽視」したと非難している。

しかし、専門家や元政府関係者らは、アメリカの人工衛星に対する脅威は影響が広範囲に及ぶ恐れがあると警告している。

とりわけ米軍は、潜在的などの敵国よりも影響が大きい。監視、ミサイル発射探知、海上や空中での航法指示、GPS誘導爆弾、戦場での通信などで、衛星通信に大きく依存しているからだ。

戦略国際問題研究所のビンゲン氏は、「私たちの軍、現在の軍の戦い方、兵器への投資は、すべて宇宙での能力次第だ」、「それがなければ、私たちはかなり厳しい状況に置かれるだろう。過去30、40年で学んだ戦い方はできないかもしれない」と話した。

人工衛星への依存は民間でも顕著だ。GPSを利用した配車サービスや食品配達、天気予報、精密農業、人工衛星の時報を利用する金融取引など、日常の幅広い場面で人工衛星は利用されている。

「人工衛星は私たちの日常生活に不可欠だ」とビンゲン氏は付け加えた。「アメリカ人、そして世界中の人々が宇宙に依存している。しかし、そのことをよく分かってすらいない」。

宇宙兵器にルールはあるのか?

アメリカ、ロシア、中国はすでに、世界中の人工衛星を攻撃する能力をもっている。しかし、理論上は、核兵器で攻撃することはできない。

これら3カ国はすべて、1967年発効の宇宙条約に加盟している。この条約は、加盟国が「核兵器やその他のいかなる種類の大量破壊兵器を搭載した物体」を、地球を回る軌道に乗せることを禁じている。

元米国防次官補代理のミック・マルロイ氏は、現在の地政学的状況では、この条約は安全を保証しないと話した。

「ロシアは署名した条約を完全に無視し、あらゆる国際的な法律や規範に反して、ウクライナで軍事力を行使する意思を示している」、「ロシアは約束を守らず、条約の義務を果たしもしない」。

宇宙は新たな戦場になるのか?

米議会の戦略態勢委員会の委員で、ジョージ・ブッシュ、バラク・オバマ、ドナルド・トランプ各大統領の政権で国防・情報当局の高官だったマシュー・クローニグ氏は、世界中の軍隊にとって宇宙が重要度を増すのは自然だとBBCに話した。

「これまでは、人類は宇宙を探検してきたようなものだった」、「しかし、私たちは今、宇宙の商業化を目の当たりにする段階に入りつつあり、まだ始まったばかりだ」。

クローニグ氏はまた、次の段階では世界中の国々が宇宙の「確保」に力を入れるだろうと述べた。

「私たちは、海や空が商業活動のために自由で開放されていることを、ある意味当然だと思っている」、「理想としては、宇宙も30年後にはそうなっていて、旅行やビジネス、さらには宇宙で生活できているのが望ましい」。

「私たちは、そこを安全で不安のない領域にする必要がある」

(英語記事 Russia developing 'troubling' new anti-satellite weapon, US says

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