家族が救われました…年収1,000万円超・45歳課長「不動産投資」に大失敗も、奇跡の復活を遂げた凄腕銀行員による「ある提案」【元メガ・大手地銀の銀行員が解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

不動産知識の乏しさにつけ込まれ、不動産投資で大きな損を被ることになる人は少なくありません。本記事では、黒田さん(仮名/銀行課長代理)の事例から、失敗した不動産投資の収支改善の具体的な方法について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。※プライバシーに配慮し、人物や企業の名称はすべて仮名、実際の事例内容と変えている部分があります。

困った融資相談

関東銀行の課長代理である黒田は日ごろからソリューション営業に力を入れている。「顧客の意向に寄り添った提案」をモットーとし、金融業務以外においても不動産や税務、IT関係など複数の資格取得に努め、専門知識をもとに顧客の心に刺さる提案を行っている。

顧客からも黒田の提案に対するお褒めの言葉をいただくことが多く、他行競合においても提案で負けることはほとんどない。

過去に黒田は自分の数字(目標)ありきの提案を行っていた時期があり、顧客の怒りを買うこともしばしばであったが、数年前に出世は捨てたつもりで顧客軸の提案に思い切って舵を切った。

結果としては「後から数字がついてくる」ことが多く、ここ数期においては頭取表彰者の常連となっており、行内からも一目置かれる存在になっている。

黒田の新規案件の融資実行が完了した、とある日。過去に取引のあった税理士から不動産投資で困っている友人がいるので一度話を聞いてくれないか、との相談の連絡が入った。

黒田は一度会って話を聞かせて欲しいと伝えた。当該不動産は支店から車で1時間ほどの場所であったことから、現地で依頼者(税理士の友人)と会ったうえで不動産についても併せて説明を受けることに。

面談および現地調査

黒田が現地に到着すると、肩を落とした依頼者がすでに到着しており、名刺交換のうえ自己紹介を済ませた。依頼者の加藤(45歳)は中小メーカーの課長職であり、午後の休みを利用して現地へ来たとのことであった。

腫れ物に触るかのように、古ぼけたこの物件を見に来るのも久しぶりとのことであり、黒田が経緯を確認すると、明らかに不動産知識の乏しさにつけこまれた不動産投資であることを感じた。

加藤は数年前に当該不動産を友人からの紹介を受け、とある不動産会社から購入しており、購入後初期はサブリースにより返済に支障もなく円滑に進んでいたが、サブリースを解除(いつでも解除可能な契約内容であった)されたとたんに、収入が大きく下がり、ローン返済と逆ザヤに陥ったとのことである。

加藤の年収は1,000万円を超えているが、現状では、子供のために貯蓄しておいた学資保険なども解約し返済に充てているとのことであり、生活にも大きな支障がでているようだ。

黒田は加藤の現在の生活状況を思うと心苦しいものの、無計画に不動産投資を開始してしまった点では自業自得でもある、とも思いながらひととおりの説明を受け、当該不動産にかかる資料の写しを加藤から受領した。

加藤と解散したのち、黒田は加藤から受領した「よく整理された」資料を見ながら、対象不動産をくまなく調査した。

黒田は内心、「加藤さんは非常にまじめで誠実な人で、正常に物事の判断ができれば本来このような杜撰な不動産投資に手を出すようなことはなかったのだろう」と感じていた。

案件の組み立て

黒田は帰店後、上席に加藤との面談内容などを報告したあと、すぐにパソコンに向かい数字の検証を始めた。

黒田は実査の際に、対象不動産の土地の広さに目をつけていた。青空駐車場としての利用を前提としているが、利用者も少なく、また管理が行き届いていないこともあり雑草が生い茂っているような状態であった。

パッと見では対象不動産との関連性が薄い土地のようにも見えるが、境界の杭なども地積測量図どおり埋設されており、権利関係なども問題なさそうである。

対象不動産を見たあとに黒田は周辺を1時間ほどかけて歩いてみた。戸建て建設の現場が数ヵ所あり、販売用のチラシも撤去されていることから、すでに竣工前に完売しているようであった。

黒田は対象不動産の最寄駅まで出向き、駅前で(免許の更新番号から察するに)古くから営んでいる不動産会社に飛び込みでヒアリングをかけることにした。

不動産会社曰く、最近のテレワークの普及や子育て環境のよさから若い夫婦が都内から移住してきており戸建て需要が高まっているとのことであった。黒田は当該遊休地を利用した計画を描くために作業を進めた。

借換実行

黒田は加藤から書面にて了承を取り付け関東銀行提携先の不動産会社(関東不動産)に対象不動産内の遊休地の売却にかかる調査開始を依頼した。

黒田は対象地周辺を実査した際に見かけた不動産デベロッパーの名前を控えており、優先的にあたってもらうよう申し伝えた。

1週間後に関東不動産の担当者から黒田のもとに連絡が入った。内容としては当該地区で戸建て分譲事業に力を入れている不動産デベロッパーが公示価格程度の値段であれば購入検討したいとのことであった。

黒田の見立てよりも高い数字であったので、詳細を詰めていけばハードルはいくつかあるものの、おおむねこの方向性で借換実行できるであろうと確信した。

まず、黒田は関東不動産に所属する建築士および売却担当者と打合せを設けた。建築確認申請書や検査済証などは加藤が準備してくれた書類の中に含まれていたので、売却によって残った対象不動産が違法建築物にならないか、特に使用容積率や建ぺい率についての検証を行った。

検証の結果、今回想定している面積を処分(売却)しても十分に容積率等に余裕がある点、また入居者のための駐車場も確保できる点などから売却しても問題ないと判断した。

次に、最もハードルが高いと考えている審査部との対応に進んだ。事前に店内においては支店長、副支店長、課長に対して黒田が作成した資料をもとに説明を行い、進めてもよいとの承諾を得ていた。

黒田は審査部に対して以下のとおり説明を行った。

・対象不動産については分筆を行い、一部売却を行う。
・既存行に対して全額借換を行うが、融資は2本立てとして売却土地分についての融資は売却後遅滞なく返済を行う。
・残る融資については固定金利とし、仮に早期売却の際には違約金を徴求する。
・金利についてはリスクリターンの観点から相応の金利(高めの金利)とする。
・収益還元法によれば不動産評価額に対する融資金額は十分にカバーできている
(関東銀行では収益還元法による収益価格も担保評価として採用可能となっている)

審査部からは、現状で収支が回っていない物件に対して融資するとはなにを考えているんだ、など黒田が覚悟していた想定どおりの批判じみた言葉をもらったが、ひとつひとつの指摘に対して黒田は作成した融資実行後のキャッシュフロー表をもとに説明を行った。

対象不動産の収入悪化の原因として、空室箇所に対する原状回復の未履行が大きな要因としてあることから資金管理を徹底して空室の改善計画を履行していくことを条件に融資承認となった。

黒田は加藤に対して融資が承認となったこと、単純な借換ではなく分筆や売却手続きなどの手続きが必要で通常よりも煩雑になることを伝えた。加藤からは融資承認まで進めてくれた感謝の言葉とともに、涙ながらに「黒田さんのおかげで家族が救われました」との発言もあった。

その後、すべての手続きが完了するまで半年程度要したが、おおむね計画どおり空室の改善も進み収支は安定してきている。

融資条件のとおり余剰資金については対象不動産のキャッシュフロー改善にかける費用として優先的に投じている。加藤は一時期のどん底から救われたことから精神的に安定し、いままで以上に業務に精を出している。

まとめ

本記事は、複数の実話をもとにアレンジした内容である。

本件では所有不動産の現状分析から、それを実行に移し収支の改善が図れた事例である。不動産投資においては投資時においては熱意を注いで組成することが一般的であろうかと思うが、その後は「投資しっ放し」の状況になりがちかと思われる。

周辺環境の変化が所有不動産へも影響をおよぼしていることもあり不動産については適宜見直しのうえ収支改善を図ることも必要かと思われる。

昨今金利上昇の傾向がみられることから、借換や一部繰上返済、元金均等への変更など収支改善に向けた検討や計画も大切である。

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

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