ガザ南部ラファの病院「機能していない」=WHO 停戦交渉も大きな進展なく

世界保健機関(WHO)は18日、イスラエル国防軍(IDF)の急襲を受けたパレスチナ自治区ガザ地区の主要病院が、機能を停止していると発表した。また、状況を調査するための立ち入りを禁じられていると述べた。

IDFは15日、イスラム組織ハマスがガザ地区南部ハンユニスのナセル病院に人質を拘束しているとの情報を得たとして、同病院を急襲した。

IDFは、作戦は「正確かつ限定的な」ものだったとし、ハマスが「皮肉にも病院をテロに使っていた」のだと説明した。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は

に、「ガザのナセル病院は、1週間の包囲と現在進行中の急襲を受け、もはや機能していない」と投稿した。

「16日と17日、WHOのチームはパートナーと共に病院の敷地に燃料を運んだ。しかし患者の状況や緊急治療の必要性を調査するために病院内に立ち入ることは許可されなかった」

「病院内にはなお200人の患者がおり、少なくとも20人は、治療のために別の病院にすぐに移す必要がある。治療のための転院は、全ての患者の権利だ」

ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、ナセル病院には、残った患者の世話をしようとする医療スタッフ4人しか残されていないという。

BBCも病院への立ち入りは許されず、状況を独自に検証・確認できていない。

匿名希望の病院関係者はBBCニュースの取材で、電気と酸素の供給が途絶えたために11人の患者が死亡し、数人の医師が逮捕されたと述べた。

一方IDFは、作戦で亡くなった者はいないと報告。部隊には病院の運営を続けさせるよう命じていたとしている。

また、ディーゼル燃料と酸素が病院施設に運び込まれ、一時的な発電機が動いていると述べた。

ナセル病院の周辺ではこの数週間、激戦が続いていた。イスラエルは、ハマスが病院や学校を作戦基地として使っていると繰り返し主張している。

IDFはまた、病院周辺で20人のハマス戦闘員を殺害したほか、数多くの武器を押収したと発表。

「この1日で数十人のテロリストが抹殺され、多数の武器が押収された」と述べた。

ハマスは昨年10月7日にイスラエルを急襲し、少なくとも1200人を殺害。これを受けてイスラエル軍はガザ地区での軍事作戦を開始した。ハマスが運営する保健省によると、これまでに女性や子供を中心に2万8400人以上のパレスチナ人が殺され、6万8000人以上が負傷した。

同省はまた、過去24時間にパレスチナ人127人が殺害され、205人がけがをしたと発表した。

ガザで戦闘が続く中、イスラエルとハマスの停戦実現に向けた交渉がエジプト・カイロで続いているものの、仲介するカタールの担当者たちは「あまり前向きな進展はない」としている。

ミュンヘン安全保障会議に出席したカタール外相のムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニ氏は「ここ数日続くパターンはあまり期待できないが、いつも繰り返しているように、我々は常に前向きにプッシュし続けるつもりだ」と述べた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ジョー・バイデン米大統領に要請されて政府の交渉担当をカイロへ送ったが、ハマス側の要求が「妄言」なため、交渉に戻らないよう担当者に指示したとしている。

一方のハマスは、イスラエルによって停戦の実現が遅れていると非難している。

ハマスは、イスラエル人の人質とパレスチナ人捕虜の交換、イスラエル軍の完全撤退、135日間の戦闘休止後の戦争終結など、一連の条件を提示している。

国際社会からは、開戦間もなく避難したパレスチナ民間人の避難計画なしにラファ侵攻を進めるべきではないと圧力がかかっている。しかしネタニヤフ首相はこうした圧力にもかかわらず、ガザへの地上侵攻をさらに南下させ、ラファ一帯を占領すると強調している。

エジプト国境に近いラファには現在、約150万のパレスチナ人が滞在している。イスラエル軍は、ガザ地区の北部と中部のハマスを標的にしている際、人々に南部に逃げるよう警告していた。

エジプトはパレスチナ人の避難に反対

こうしたなか、エジプトのアブドゥル・ファッターハ・アル・シーシ大統領は17日、パレスチナ人のシナイ半島への強制移住に反対する意向をあらためて示した。

シーシ大統領はこの日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と電話会談を行い、パレスチナ人のエジプト避難の代わりに「一刻も早い停戦の実現が必要」だとの見解で合意した。

シーシ大統領は長年、パレスチナとイスラエルのそれぞれの国家が隣り合って共存する「2国家解決」が唯一の解決策だとの立場を取っている。

しかしネタニヤフ首相は18日、戦時内閣がパレスチナ国家の「一方的な承認」に反対することを全会一致で決定したと発表した。

ネタニヤフ首相は、そのような合意はイスラエル人とパレスチナ人の直接交渉によって達成されなければならないと述べた。

イスラエル政府は声明で、「イスラエルは、パレスチナ人との恒久的な合意に関する国際的な指示を真っ向から拒否する。仮に協定が結ばれるとしても、それは前提条件なしに、両者間の直接交渉によってのみ実現する」と述べた。

(英語記事 WHO says Gaza's Nasser hospital not functional after Israel raids

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