フーシ派、アデン湾で貨物船を攻撃 乗組員は船放棄し避難

イエメン沖のアデン湾で18日、貨物船がイエメンの反政府武装勢力フーシ派によるミサイル攻撃を受け、乗組員が船を放棄して避難した。貨物船はベリーズ船籍で、イギリスで登録されている。イエメン沖では翌19日にも、米企業が所有する貨物船の近くで飛翔体が爆発した。

海上警備会社によると、18日に攻撃を受けた貨物船ルビマーは、アデン湾を航行中、フーシ派支配地域のすぐ近くに位置するバブ・アル・マンダブ海峡に差し掛かったところで攻撃を受けた。

「非常に危険な」肥料を積んでおり、浸水しているという。

イギリスは貨物船への「無謀な攻撃」を非難。友好国の 海軍艦艇が「すでに現場に到着している」とした。

フーシ派のヤフヤ・サレア広報担当は19日朝の声明で、同組織の海上部隊がアデン湾で「イギリスの船」であるルビマーに対し、多数のミサイルを発射したと発表した。

サレア氏は「船は壊滅的な損傷を受け、完全に停止した」としたが、証拠は提示しなかった。

「広範な損傷を受けた結果、船は現在、アデン湾で沈没する恐れがある。作戦中、我々は乗組員が安全に脱出するようにした」

今回の攻撃は、イランの後ろ盾をうけるフーシ派がこれまでに行った中で最も損害をもたらした攻撃の一つ。また、フーシ派の攻撃を抑止しようとする西側諸国の取り組みがいまだ成功していないことを示す最新の証拠でもある。

フーシ派はパレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まったあとの昨年11月中旬以降、紅海やアデン湾を航行する商船や西側諸国の軍艦に対し、数十ものミサイル攻撃やドローン(無人機)攻撃を行っている。同勢力は、こうした攻撃はパレスチナ人への支持を示すものだと主張している。

世界の海上貿易の約12%が紅海を経由してきたが、フーシ派の攻撃が続いている影響で、多くの海運会社がこの重要な水路の使用を停止している。

紅海に展開するアメリカとイギリスの海軍は先月、フーシ派を標的とした空爆を、イエメンで開始した。

何があったのか

イギリス海運貿易オペレーション(UKMTO)は18日夜、紅海に面したイエメン・モカ港の南約35カイリ(65キロメートル)の海上にいた1隻の船から、事故の報告を受けたと発表した。

現地時間午後11時ごろ、船長から「船のすぐ近くで爆発があり、被害を受けた」と連絡があったという。

翌19日、UKMTOは軍当局の報告を引用し、攻撃を受けて乗組員が船を放棄したと説明した。

「船は停泊中で、乗組員は全員無事だ」

軍当局は支援のため現場にとどまっているという。

UKMTOとは別に、イギリスの海上警備会社アンブリーからも、ベリーズ船籍の貨物船が18日、バブ・アル・マンダブ海峡を北上中に攻撃を受けたと報告があった。

ルビマーの海上警備会社LSS-SAPUと海運情報を提供するロイズ・リスト・インテリジェンスは後に、当該船舶に2発のミサイルが命中し、損傷を受けたことを認めた。

LSS-SAPUの広報担当者はロイター通信に対し、「貨物船が浸水していることを、我々は確認している」と述べた。

「現在、船内には誰もいない」とし、「船主と管理者は曳航(えいこう)という選択肢を検討している」と述べた。

英政府は、ルビマーが浸水しているため乗組員がこれを放棄し、安全な場所に避難したと認めた。

船舶の位置情報などをリアルタイムで提供するウェブサイト「マリン・トラフィック」のデータによると、ルビマーはサウジアラビアからブルガリアに向かっていた。同サイトは18日に同船から最後の追跡信号を受信した。

死傷者の報告なし

ジブチの港湾当局は、ルビマーの乗組員24人(シリア人11人、エジプト人6人、フィリピン人4人、インド人3人)の安全な送還を調整したとした。

また、同船には約22トンの、爆発性が高い「非常に危険な」肥料が積まれていると警告。現在はバブ・アル・マンダブ海峡のどのあたりに位置しているか不明だとした。アラビア半島のイエメンと、アフリカのジブチとエリトリアの間に位置するバブ・アル・マンダブ海峡は、幅がわずか32キロと、航行に危険が伴うことで知られる。

全長172メートルのルビマーの運行者はレバノン人で、イギリス・サウサンプトン港のゴールデン・アドベンチャー・シッピング社が所有者として登録されている。

英政府によると、これまでの報告では、攻撃による死傷者は出ていないとみられる。

「近隣海域で活動する友好関係にある船舶がすでに現場に到着しており、(英海軍のフリゲート艦)リッチモンドは商業船舶の保護のため紅海でのパトロールを続けている」と、英政府の報道官は付け加えた。

「商船に対するいかなる攻撃も全く容認できないこと、そしてイギリスと友好国は適切に対応する権利を留保していることを、我々はこれまで明確にしてきた」

米企業所有の貨物船近くで爆発、フーシ派が犯行主張

アンブリーは、イエメン南部アデン港の東約100カイリの地点で、二つの飛翔体が米企業が所有するギリシャ船籍の貨物船の近くで爆発したことも把握しているとした。

UKMTOは船長から、2回の爆発があり、「破片や、塗装の損傷」があるとの報告を受けたという。

「船と乗組員は無事で、次の寄港先に向かっているとの報告があった」

ギリシャの海運当局筋がロイター通信に語ったところによると、被害を受けたのは貨物船シー・チャンピオンで、米ニューヨークを拠点とするMKMチャータリングが所有している。

フーシ派のサレア広報担当はその後、同組織がアデン港でアメリカの船2隻(シー・チャンピオンとネイヴィス・フォルトゥナ)を標的にしたと主張した。

さらに、紅海に面したイエメン・フダイダにあるフーシ派の防空システムが、アメリカの大型ドローン「MQ9リーパー」を撃墜したと主張。アメリカが「イスラエルに代わって、わが国に対する敵対的任務を遂行している」ためだとした。

米軍はこの件に関して即座にはコメントしていない。

米中央軍、イエメンのフーシ派支配地域に攻撃

米中央軍はイエメンのフーシ派支配地域で17日、移動式対艦巡航ミサイル3発、無人潜水艇(UUV)1隻、無人水上艇(USV)1隻に対し、計5回の空爆を実施したと発表した。

中央軍がフーシ派への攻撃を開始して以来、フーシ派が使用している無人潜水艇を特定したのは今回が初めて。

BBCのフランク・ガードナー安全保障担当編集委員は、フーシ派がUSVとUUVの両方を配備していることが分かったのは、憂慮すべき事態だと指摘する。

敵の防衛を混乱させ、圧倒することを狙い、比較的安価なミサイルや無人機を同時に多数発射する「スウォーム攻撃」は、イラン革命防衛隊の海軍の戦術書そのものと言える。

米英の軍艦にそのような攻撃が向けられる可能性があり、現在、同海域で任務に就いている米英の乗組員に絶えず付きまとう脅威となっていると、ガードナー安全保障担当編集委員は付け加えた。

こうした中、ベルギー・ブリュッセルで開かれた 欧州連合(EU)外相会議では、紅海の国際海運を保護する作戦が承認された。フランス、ドイツ、イタリア、ベルギーの船舶が参加するもので、数週間以内の開始を目指している。

(英語記事 Crew abandon British-registered cargo ship off Yemen after Houthi attack

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