なぜ令和に『ガンダムSEED』?  新作劇場版が異例の大ヒットを巻き起こしている理由

1月26日より全国公開が始まった映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が、異例のヒットを記録している。公開初日から3日間で観客動員数は63万人を突破、興行収入も10億円超を記録しており、その勢いは一向に収まりそうにない。一体なぜ令和の時代に、『ガンダムSEED』シリーズの新作映画がここまで人々を熱狂させているのだろうか。

まず作品のバックグラウンドから説明しておくと、同シリーズは“21世紀のファーストガンダム”ともよばれる作品で、生まれながらにしてすぐれた人類(コーディネイター)と自然のまま生まれた人類(ナチュラル)が存在する時代、C.E.(コズミック・イラ)を舞台とするストーリーで、1作目のTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』は2002年から放送がスタート。2作目の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』は、2004年から2005年にかけて放送された。

すなわち今回制作された劇場版は、約20年ぶりの続編という形になる。そのため公開に際しては、「作るのが遅すぎた」と指摘する声もちらほら上がっていた印象だ。しかし蓋を開けてみれば、そんな声を吹き飛ばすほどの盛り上がりを見せており、むしろふたたび“SEED ブーム”が再燃しそうな気配もある。

ここまでファンが熱狂している理由として、単純に『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の内容が素晴らしいということは間違いない。ネタバレになるため内容には触れないが、リアタイ世代だったファンの多くが「これで成仏できる」と満足げに語っていることが、その証明と言えるはずだ。

ただ、もう少し俯瞰して語るなら、そもそも同作が“強力なコンテンツ”だったことも振り返っておくべきだろう。TVアニメ放送当時、同作は社会現象クラスのブームを巻き起こした。『機動戦士ガンダムSEED』の最高視聴率は8.0%と夕方のTVアニメとしてはかなり高めで、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の8.2%に至っては、平成以降の『ガンダム』シリーズだと今でもトップの記録だ。この数字は、同作がそれまでガンダムを見ていなかった層を巻き込むことに成功したことを意味しているだろう。

ではなぜ同作は大ヒットを収めたのだろうか。まずは身も蓋もない話だが、“キャラクターの顔がいい”ことを挙げないわけにはいかない。キラ・ヤマトやアスラン・ザラといった男性陣、そしてラクス・クラインなどのヒロインたち……。平井久司がキャラクターデザインを手掛けたキャラたちは、それまでのガンダムシリーズと比べると異質と言えるほどスタイリッシュかつ現代的だった。

そしてキャラクターの見た目だけでなく、ドラマチックで生々しい人間ドラマや恋愛模様などの要素も、作品としての大きな特徴と言える。同作が新たなファン層を開拓できたのは、こうした大胆な方向転換の影響が大きかった。

まず『ガンダムSEED』の放送で目に見えて増えたのが、女性ファンだ。この点に関しては、同じく女性人気が高かった『新機動戦記ガンダムW』の成功が活かされているのかもしれないが、それを凌駕するほどに女性ファンの盛り上がりが目立っていた。

そして新規層開拓という点では、同作がいわゆる“アナザーガンダム”の設定だったことも追い風になった。『ガンダム』シリーズには初代『機動戦士ガンダム』と同じ世界観を共有する「宇宙世紀」と、独立した世界観を持つアナザーガンダムがあり、『ガンダムSEED』は後者。過去作を知らなくても問題ない設定だったため、誰でも“初ガンダム”として飛び込むことができた。

さらに休日の夕方という放送時間帯も、当時の視聴環境を考えると大きな要素ではないだろうか。というのもネット上の動画配信サービスが普及する以前の時代には、リアルタイムで視聴できない視聴者は欠かさず録画などを行うしかなかったからだ。リアルタイムで観やすい時間帯だった時点で、新規層が入りやすい作品と言える。

「ガンダム」という言葉で敷居が高いと感じてしまう人もいるなか、『ガンダムSEED』シリーズはさまざまな意味でライトなアニメファンも観やすい作品だったのだろう。これは小学生以下の層を巻き込むことにもつながり、「第二次ガンプラブーム」と呼ばれる現象まで引き起こした。そう考えると同作のリアタイ世代と呼ばれる人々は、想像以上に幅広いのかもしれない。いくら話題作とはいえ、これほどまでに好調なスタートダッシュを切れたのは、ファン層の厚さが影響しているはずだ。

さらにいえば、ここ最近ガンダムシリーズから『機動戦士ガンダム 水星の魔女』や『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』といった大ヒット作が次々生まれていることも、ポジティブな意味をもつはず。初めてシリーズに興味を持った人からすると、“次に観るガンダム”として、『ガンダムSEED』はかなりとっつきやすい。

個別の作品がヒットすることで、シリーズ全体が盛り上がり、さらにその逆の現象も引き起こされる……。これこそがガンダムシリーズという巨大コンテンツの強みではないだろうか。

(文=キットゥン希美)

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