『正直不動産2』倉科カナがルールを破って苦悩する 永瀬と美波の恋にわずかな進展も

嘘のつけない不動産営業マンが活躍する痛快お仕事コメディ『正直不動産2』(NHK総合)。第7話「禁断の果実」では、永瀬(山下智久)が美波(泉里香)から、恋人のふりをしてほしいと頼まれる。おばあちゃんっ子の美波は祖母に恋人を会わせる約束をしてしまったのだ。一方、永瀬と月下(福原遥)は、孫娘のためにタワマンを購入したいという高齢女性の接客をする。

第7話は、理想を叶えようと焦るあまり、宅建業法違反である「契約の誘因」に手を伸ばしてしまう花澤(倉科カナ)の苦悩が印象に残る回だった。

ミネルヴァ不動産新規店舗の店長の座をめぐり、花澤は神木(ディーン・フジオカ)と営業成績No.1を争っている。物語冒頭、若い女性たちの話題に耳を傾けていた花澤は、別人になりすまして婚活アプリに登録。花澤は、30代でマンション購入を目指す男性・綿村(前野朋哉)にアプローチを続ける。度々、カスタマーファースト命の月下と張り合ってきた花澤だが、これまで神木ほど悪どいやり方はしてこなかったように思う。だが、今の花澤には焦りがあった。綿村へのアプローチは結婚目的などではなく、あくまでマンション購入を目指す男性に狙いを定めたまで。友人を名乗り、綿村を持ち上げ、マンション購入の契約を進めていく様は不誠実に思える。しかしこの場面までの花澤の佇まいに引け目は感じられない。むしろ成約させなければという意思を強く感じる。とはいえ、手付金が払えないと困り果てる綿村を前に、花澤の心が揺らいだ。

倉科カナは、花澤の心の揺れ動きを微細な表情の変化で見せてくれる。花澤は顧客の前では穏やかな微笑みをたたえ、落ち着き払っている。それは綿村の前でも同じだ。けれど、綿村の申し出を受けた時、花澤の面持ちからは成約への焦りがはっきりと見てとれる。そのうえ、神木から「2位であることを誇るべきです」「2位なら、敗者の中のトップってことじゃないですか」と挑発されたことで、彼女の心に火がついてしまった。どうしてもNo.1の座を勝ち取りたい花澤は、鵤(高橋克典)に個人的なお願いだと申し出て、禁断の果実に手を伸ばす。

しかし花澤は、息子・北斗(尾込泰徠)のふとした言葉で良心の呵責に苛まれる。北斗は、ルールを守らなかった子に勇気を出して注意したのだという。「ルールは守らなくちゃダメって、ママ、いつも言うもんね」と言われ、花澤は今にも泣きそうな顔で息子を見つめる。ルールを守った息子に反して、自分はルールを破ってしまったからだ。

花澤は、月下とタワマンを購入したいという高齢女性の前で、「店長になれたら、職場に託児所を作りたい」という夢を打ち明けた。花澤は、男女ともに育休が取れて、みんなが働きやすい職場に変えていきたいと話す。だが、ルールを破ってしまった花澤は「花澤さんは信用できます」という月下の言葉も、「おめも本当に頑張ってきたんだねえ。ええ顔しとる」という女性の言葉も、素直に受け取ることができない。月下や女性が明るい笑顔を見せる中、花澤の微笑みは悲しげに映る。

神木の策略で綿村との契約は破棄になる。だが、花澤に良心が残っていたからこそ、美波の祖母・早苗(三谷侑未)が欠陥住宅を購入させられるのを阻止できた。早苗の一件が解決し、花澤は安堵するが心は晴れなかった。

花澤の心を救ったのは鵤の言葉だ。鵤が貸し付けてくれた手付放棄分を自腹で支払うと頭を下げる花澤に、鵤は「仕事で返せ」「お前は不動産屋の営業だ」と言った。花澤はかつて自身を絶望から救ってくれた恩人に再び救われたのだ。花澤のまっすぐな視線からは、誠実さをもって再びNo.1を目指そうとする意思が感じられた。

第7話では道を外れかけた花澤の苦悩が魅力的に描かれたが、美波演じる泉里香の演技にも心惹かれるものがあった。祖母と連絡が取れなくなり不安で落ち着かない様子や、ミネルヴァ不動産にいた祖母を見つけるなり「ばっちゃん!」と声をあげて駆け寄る姿から、美波がおばあちゃんっ子であることがごく自然に感じられた。神木が欠陥住宅の疑いのあるマンションを祖母に売りつけようとしていたと知った時、美波は「わだす、やっぱり男さ見る目あるな」と口にすると、怒りにまかせて神木に手をあげようとする。神木をキッと睨みつける強い表情や神木を叩こうとした時の力強い所作に、祖母を大事に思う気持ちが十二分に表れている。

美波の魅力はおばあちゃんに向ける愛だけではない。美波は永瀬に「大切な人」と言われたことが嬉しく、満面の笑みを浮かべる。凛とした、少し強気な佇まいが印象的な美波だが、顔をほころばせる姿は愛らしかった。正直すぎる永瀬の言葉に、「こんの~ほじなし、すけべじっこがぁ~!」と一度はつかみかかるも、大好きなおばあちゃんから「永瀬さんは美波の運命の人だ」と言われたことで美波の心は決まる。

翌日、永瀬が住む家を訪れた美波は「来ちゃった」と愛らしく微笑んだ後、こう続けた。

「今日から、私ここに住みますので」
「最終選考です」

美波のあまりにも屈託のない笑顔に思わず笑ってしまう。まんざらではない顔を浮かべていた永瀬だが、2人の恋の行方はいかに。

(文=片山香帆)

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