英企業アンドゥが炭素除去市場をけん引、地球上にありふれた「岩石」で大気中のCO2を除去する

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気候変動に歯止めをかけるため、大気中のCO2を積極的に除去するさまざまな方法が検討・実践されている。その一つに、岩石風化促進法(ERW)がある。この方法を推進する英企業のアンドゥ(UNDO)が、炭素除去市場を大きくけん引する注目の企業として浮上している。(翻訳・編集=茂木澄花)

人間は年間400億トンものCO2を大気中に排出し、世界の気温上昇の原因となっている。この危機的状況をよく表しているのが、長期的な平均気温の推移だ。平均気温はすでに産業革命前の水準と比べて1.2度高くなっており、1.5度目標が目前に迫っている。大気中のCO2濃度は急上昇し、2021年には415 ppmを記録した。これはなんと42年間で20%の増加であり、世界的なティッピングポイント到達は間近に迫る。

こうした気候変動による致命的な影響を回避するために、2050年までに年間100億トンのCO2を除去することを求める科学的コンセンサスがある。地球の均衡を取り戻すため、大気から積極的にCO2を取り除く革新的な方法が求められている。ここで、アンドゥのような企業の出番だ。

アンドゥ(UNDO)が炭素除去市場をリード

英国に本社を置くアンドゥは2022年に設立されたが、すでに急拡大する炭素除去市場をけん引する存在だ。同社は、岩石風化促進法(ERW:Enhanced Rock Weathering)によって、CO2による気候変動への影響を「元に戻す(undo)」ことができる可能性を示している。

「アンドゥの最終的な目標は、CO2を吸収する岩石を世界中の農地に散布し、10億トン規模の除去を実現することです」。アンドゥのアカウント・マネージャーを務めるニック・アクフィールド氏はサステナブル・ブランズにこう語る。「(気候変動対策で)企業と話をする際、必ず最初に注目すべきは、脱炭素化と脱化石燃料の取り組みです。このことを、当社は炭素除去の企業でありながら強調しています。しかし、そうした削減だけでは十分でなく、大気からCO2を取り除く必要があります」

ERWは、自然な炭素除去の方法と科学技術による方法の中間に位置する。前者にあたる植樹などの方法は経済的だが、限界もある。樹木は生きている間CO2を隔離しているにすぎず、最大の吸収力を発揮できない期間も長い。伐採などによって起こる分解や焼却の過程で、貯められていたCO2は放出される。

対照的な方法として、直接空気回収法(DAC:Direct Air Capture)がある。DACでは、大気から機械でCO2を抽出して確実に地下に隔離する。コストはかさむが、効果的で測定可能な方法だ。しかし、DACはエネルギーを多く使う。そのため、世界のエネルギーミックスが完全に再生可能エネルギーに移行しない限り、化石燃料への依存を減らす取り組みと逆行する。

ERWは岩石の風化という自然現象の速度と効率を促進する方法であり、自然と科学技術の画期的な折衷案だ。岩石は地質学的な年月にわたって、風化しながら徐々にCO2を吸収する。そのため、持続可能で比較的素早い炭素除去が可能であり、魅力的な気候変動のインパクト軽減策だと言える。取り組む企業はアンドゥ以外にも、ERWを海岸で応用するヴェスタ(Vesta)などがある。アンドゥは、こうした同業他社の事業を踏まえ、農地の炭素隔離能力促進に特化している。

「草木がCO2を吸収することは誰もが知っています。しかし、地球上のほとんどの炭素は、岩石や堆積物の中に重炭酸塩という形で存在しています。これが、草木などの有機物の中にあるよりもはるかに多いのです」。アクフィールド氏はこう説明する。「そして、岩石の風化は大気中にあるCO2の量を調整する最も自然な方法の一つです」

ERWは大気中からCO2を持続的・効果的に除去

ERWの仕組みを簡単に説明しよう。雨が降ると、空気中のCO2は雨粒に吸収される。この雨粒がケイ質岩などの上に落ちると、CO2は安定した重炭酸塩イオンになる。このイオンは最終的に、土壌と地下水を通って海に流れ、海の脱酸化を促進し、約10万年という長い間とどまる。

植物はCO2を一時的にとどめるが、枯れると放出する。これに対して、ERWは大気中からCO2を除去する持続的かつ効果的な方法だ。実際、自然な風化によって大気中から除去されているCO2はすでに年間10億トンにのぼる。

アンドゥは、粉砕された玄武岩などのケイ質岩を採石場から調達している。玄武岩は一般的に建築現場や道路工事で使用されるが、粉末状の岩石が大量に残る。アンドゥは採石場で山積みになっているこの素材を買い取り、農地で活用している。

「この岩石は農地に散布されると崩れていき、その過程で作物にとって重要な栄養を放出します。これにより土壌が豊かになり、pHが改善され、作物の収穫量が上がります」。アクフィールド氏は言う。「もちろん、岩石の表面積も非常に大きくなるため、CO2の吸収速度は急激に速くなります」

これらの重要な栄養素(リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム)は天然の肥料として作用するため、土壌に石灰などの高価な肥料をまく必要がなくなる。ERWは炭素隔離に加え、農家を支援し、地方の雇用機会を創造し、生物多様性に寄与することにもつながる。つまり、国連SDGsの複数の目標に近づくことにもなるのだ。

アンドゥのソリューションには、何千年もCO2を隔離しておけるという永続性もある。対照的なのは土壌中にCO2を貯蔵する方法だ。この方法だと、農地の耕作や異常気象などによって簡単に再放出される恐れがある。アンドゥの方法は、規模拡大も可能だ。なぜなら、玄武岩などのケイ質岩は地球上で非常にありふれた岩石であり、供給量が豊富だからだ。またアンドゥは既存のインフラと機械を活用して操業しているため、非常に持続可能でもある。90%以上の炭素効率性を誇っており、少ない排出量でより多くのCO2を除去できるよう、引き続き合理化に取り組んでいる。

過去1年半で、アンドゥの従業員は70人以上になり、15万トンの岩石を散布した。これにより、長い年月をかけて3万5000トンのCO2が隔離される見込みだ。玄武岩の場合、炭素隔離のプロセスは一般的に約20年間続き、大部分は最初の7~10年の間に起こる。アンドゥは、玄武岩ほど量が豊富でなくても、短期間でより多くのCO2を素早く吸収できる他の岩石についての研究も行っている。

地域コミュニティとの取り組み

アンドゥの岩石の調達元は、スコットランド、イングランド北部、カナダ、オーストラリアの採石場だ。これにより、地域のサプライヤーに新たな収入源が生まれる。アンドゥは、操業する地域が利益を維持することを大切にしている。地元の採石場から粉砕された岩石を購入したうえで、供給元の20マイル以内の範囲に散布する。それより遠い場所から岩石を運搬するのは、やむを得ない場合のみだ。そして、炭素除去プロセス全体で地元の契約企業を採用する。また、アンドゥは農家に岩石を無料で配布している。これが農家の肥料代の削減と作物の収穫量増大にもつながるのだ。

さらに大切なこととして、アンドゥは有害な成分が岩石に含まれていないかどうか、定期的に検査している。例えば、重金属、土壌に悪影響を及ぼす物質、水源に染み出す可能性のある物質などだ。

「英国では非常に順調で、すでに農家からの依頼が増え、需要過多の状況になっています。農家は乗り遅れることを恐れています。つまり、近隣の農家が新しいことをしていると必ず、競い合って興味を示すのです」。アクフィールド氏は説明する。「それに『収穫量が増えた』など、土地や作物へのメリットを証明する事例が、農家から非常に多く集まっています」

アンドゥは現在、フランチャイズと規模拡大を進めるため候補地を検討しており、今後の事業拡大候補地を評価する独自のシステムを開発した。これにより、原料であるケイ質岩の量、採石場の操業状況、農地へのアクセス可能性などを合わせて検討する。

競争力のあるアンドゥの炭素クレジット

アンドゥのビジネスモデルは、炭素除去クレジットを購入することでネットゼロ目標を達成したい企業顧客によって成り立っている。ボランタリー炭素市場は不透明な市場と見なされており、風評リスクの問題もあるため、品質保証は極めて重要だ。アンドゥの炭素クレジットは、炭素除去の品質・効果、副次的なメリット、価格の面で突出した競争力を誇る。

アンドゥにとって、炭素除去における透明性と説明責任は最優先事項だ。同社は包括的な測定・報告・検証(MRV:Measurement, Reporting and Verification)のシステムを持つ。世界レベルの科学チームに支えられ、炭素クレジットを購入する企業が自信をもってその正当性を主張できるようにしている。グリーンウォッシュを防止し、炭素除去プロセスの科学的な信頼性を築くことにつながっているのだ。

アンドゥは幅広い企業と提携する。しかし、提携先はまず排出削減にしっかり取り組んだうえでネットゼロ達成のために炭素除去を活用する企業に限っている。2023年前半、アンドゥはマイクロソフトの初のERWサプライヤーとなり、ローワーカーボンキャピタルによる1200万ドルの資金調達ラウンドを発表した。また世界有数の炭素除去クレジット購入元であるストライプ社と100万ドルの契約更新も公表。2023年末には、ブリティッシュ・エアウェイズ、CUR8、スタンダード・チャータードと、試験的な炭素除去の資金調達における連携を発表した。

「アンドゥは今、活気に満ちています。多くの企業から関心が寄せられ、世界中の研究機関や学術団体と提携しています」とアクフィールド氏。「世界がまとまって気候変動と闘い、革新的なソリューションを受け入れることを決意する様子を目にし、勇気づけられています。よりサステナブルで希望にあふれた未来への道筋を、共に創り出していきます」

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