『地球の歩き方』ユニークな多角展開のきっかけはコロナ禍 ピンチをチャンスに変えたブランド力の原点

『地球の歩き方』が快進撃を続けている。個人海外旅行者にとって有益な情報を国別にまとめてきたガイドブックとして、1979年から刊行を続けてきたが、近年は『ムー』や『ジョジョの奇妙な冒険』『宇宙兄弟』『ディズニー』などとコラボした書籍を発表している。

さらに、特徴的な表紙デザインをフィーチャーしたカプセルトイ、世界各地の味を再現したお菓子やレトルトカレー、さらにはテレビ東京でのドラマ化など、ここしばらくの『地球の歩き方』は単なるガイドブックの枠を超えた展開を見せている。

これらの多角的展開について、株式会社地球の歩き方コンテンツ事業部に所属する福井由香里氏に伺った。これらの展開のきっかけは、やはり新型コロナウイルスの流行にあったという。

「地球の歩き方はコロナ禍前はダイヤモンドグループに属しており、ダイヤモンド・ビッグ社という会社で地球の歩き方事業を行っておりました。2020年にコロナ禍に突入し、海外取材が一切できなくなったことで、海外ガイドブックの売り上げが95%減まで落ち込みました。2020年末には会社の存続が難しくなり、「地球の歩き方」事業を学研グループに事業譲渡する形で、旧ダイヤモンド・ビッグ社は清算となりました」

「2021年より株式会社地球の歩き方の事業がスタート。これまで25名いた編集部員は12名に減りました。新会社でどうにかブランドの存続は叶ったものの、2021年になってもコロナがおさまらず、再び会社を潰すわけにはいかない我々は何かしなくてはならない状況に追い込まれていました。そんななか、『地球の歩き方』ブランドの価値を見直し、『地球の歩き方』の枠組みのなかで何ができるか考えた結果、さまざまな新商品が生まれるきっかけとなりました」

さらに、学研グループに事業譲渡されていたこともプラスの要因として作用した。

「『地球の歩き方グミ』や『地球の歩き方チョコ』についてはもともと学研グループの親会社Gakkenにライセンス事業部があり、既存の商品を他社と組んで食品やカプセルトイに展開するノウハウがあったからです。レトルトカレーは地球の歩き方がさまざまな取り組みをしていることをおもしろがってくれた会社が『カレーをつくりましょう!』と売り込みにきてくれました。このレトルトカレーは何度も試食を重ねて「日本人にこびない本場の味」にこだわっています。また、ドラマについても同様です」

当初展開された『地球の歩き方』関連商品はカプセルトイ(エコバッグ、豆本)、グミ、チョコ、スナック、百円ショップのグッズなど。これらのコラボ商品の展開を続けるうちに、他業種からも企画が持ち込まれるようになったという。まさに継続は力である。

「読者やファンにおもしろがってもらえる事業を展開することで、メディアに取り上げていただく機会が増えました。それによって、知名度のアップにも繋がったと思います。単純な知名度のアップというより『地球の歩き方』のことを思い出してくれる人が増えたという印象です」

「何か作るたびに『うちともコラボしましょう!』という問い合わせがくるようになりました。コロナ禍前、安定的にガイドブックの改訂をしているだけでは得られなかった新しい価値です。『地球の歩き方』のブランド価値をさらに向上するものになったと思います」

これだけのコラボレーションを可能にしたのは、やはりあの統一感のある表紙のビジュアルイメージと、信頼できるガイドブックとして長年親しまれてきた点が大きいだろう。たとえ内容を読んだことがなくても、45年にわたって書店に並び続けた定番ガイドブックの表紙は誰もが見たことがあるものであり、その知名度と長期間刊行を続けたことによる信頼性の高さは、まさに『地球の歩き方』のブランド価値そのものだった。

『地球の歩き方』にとってコロナ禍がピンチだったのは間違いなく、ブランドイメージを武器にそれを逆手に取った点こそが重要である。この『地球の歩き方』と似たような事例としては、『学研の図鑑』がスーパー戦隊やキン肉マンとコラボした例や、JTBパブリッシングの『るるぶ』が『新世紀エヴァンゲリオン』や『ONE PIECE』などとコラボした例が挙げられる。長年刊行を続けてパブリックイメージが定まっている出版物であれば、広く応用できる方法論であることがわかる。長期間刊行を続けてブランドイメージの定まっている出版物については、この流れは止まらないと思われる。

最後に、『地球の歩き方』では今後どのようなコラボ商品を予定しているのか、福井氏に伺ってみた。

「サンヨー食品のサッポロ一番さんとのコラボで、カップ麺を作る予定です。食品や雑貨など、まだ公にはできないのですが製作中にものがいくつもあります」

「『地球の歩き方』のカップ麺」と言われるだけで、もう食べてみたくなるインパクトがある。今後も、『地球の歩き方』の快進撃は続きそうだ。

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