クラブ史上初のACL8強入り。横浜FMのパスワークを牽引したのは

FWアンデルソン・ロペス 写真:Getty Images

AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24のラウンド16第2戦の計8試合が、2月20日より各地で開催されている。このラウンド16で、横浜F・マリノスとバンコク・ユナイテッド(タイ)が激突。横浜FMの本拠地、横浜国際総合競技場にて行われた第2戦(2月21日開催)の前後半で、両チームとも得点できなかった。

これにより第1戦との合計スコアが2-2のままとなり、この対戦カードの決着は15分ハーフの延長戦に委ねられることに。迎えた延長後半13分、横浜FMのFW村上悠緋が敵陣右サイドからクロスを上げると、このボールがバンコクのMFウィサルット・イムラの腕に当たる。これがウィサルットのハンドの反則、加えて反則地点がペナルティエリア内と判定され、横浜FMにPKが与えられた。ホームチームのFWアンデルソン・ロペスのキックは成功。これが決勝ゴールとなり、横浜FMがクラブ史上初となるACLベスト8進出を果たしている(2戦合計スコア3-2)。

バンコクの粘り強い守備に手を焼きながらも、横浜FMが勝利をもぎ取れた要因は何だったのか。ここでは今回の第2戦を振り返るとともに、この点について論評していく。


DF松原健 写真:Getty Images

松原を欠いた横浜FM

長きにわたり右サイドバックを務め、果敢な攻め上がりで横浜FMの攻撃にアクセントを加えてきたDF松原健が、2月14日開催のラウンド16第1戦で相手選手に危険なスライディングタックルを見舞い一発退場。これにより横浜FMは松原抜きで第2戦に臨むこととなった。

昨年12月に東京ヴェルディより加わり、第1戦では左サイドバックを務めたDF加藤蓮が第2戦で右サイドバックとして先発。左サイドバックを務めたのは、昨年12月にアルビレックス新潟からの完全移籍が発表されたDF渡邊泰基だった。


横浜F・マリノスvsバンコク・ユナイテッド、先発メンバー

的確だった両サイドバックの立ち位置

的確な立ち位置で自軍のパスワークを牽引してきた松原を欠いた状況で、横浜FMは攻撃を組み立てられるか。これが今回の第2戦の注目ポイントだったが、新加入の加藤と渡邊がこの不安を払拭してみせた。

[4-1-2-3]の基本布陣で第2戦に臨んだ横浜FMは、試合全体を通じてボールを保持し、バンコクの選手たちを自陣に閉じ込める。最終ラインからのパス回し(ビルドアップ)の際に、的確なポジショニングで自軍の攻撃を下支えしたのが、加藤と渡邊だった。

右サイドバックの加藤が適宜タッチライン際から内側へ立ち位置を移し、DF上島拓巳(センターバック)と右ウイングFWヤン・マテウスの中継地点に入ったことで、横浜FMのパスワークが円滑に。加藤が闇雲にマテウスを追い越さず、敵陣での味方のパス回しが停滞した場合に備えてこの位置に立っていたことが、横浜FMの波状攻撃に繋がった。

左サイドバックの渡邊も概ねこの立ち位置をとれており、前半6分にはセンターサークル付近から左ウイングFWエウベルへ効果的なパスを繰り出している。この日サイドバックを務めた新加入の2人が自身の役割を理解し、自軍に安定感のあるボール保持をもたらしたこと。これが今回の横浜FMの勝因だ。

ハリー・キューウェル監督 写真:Getty Images

キューウェル監督「最後までチャレンジしてくれた」

イングランドの名門リーズ・ユナイテッドやリバプールでかつてプレーし、今年から横浜FMを率いているハリー・キューウェル監督は、第2戦終了後の記者会見で安堵の言葉を口に。深夜に及ぶ死闘を制した選手たちを称えるとともに、自軍の課題にも言及している。

「やはりこの大会(ACL)では、次のラウンドに進むというのは簡単ではありません。そのなかでバンコク・ユナイテッドは、本当に最後の最後まで戦ってきました。簡単にやらせてはくれませんでしたが、我々は今日の試合もたくさんのチャンスを作りました。ただ最後のところでちょっと正確さが欠けてしまった。でもみんなプッシュし続けました(攻め続けました)。最後の最後まで、(選手たちが)しっかりチャレンジしてくれたと思います」

「自分が新しい監督として来るにあたり、求められるタスクというのは分かっていました。前任のケヴィン・マスカット監督が良い形で自分に受け渡してくれたなと思っています」

「まだまだ成長しなければいけない部分というのはあるのですが、初日から選手たちは本当に良い準備をしてくれましたし、やはり練習のなかでできないことは、試合では出せないと思っています。練習のなかでどれだけやっていけるのか。そこが1番大事にしているところです」

「クラブとして特別な瞬間(ACL制覇)を見るためには、簡単な道はないですし、それでも最後に笑うのは自分たちだ。そういう気持ちで楽しむことを忘れず、次のラウンド、そして週末のJリーグ開幕。そこに向けて良い準備をしていきたいです」


横浜F・マリノス MF渡辺皓太 写真:Getty Images

横浜FMに足りなかったものとは

敵地での第1戦では、左サイドを駆け上がった加藤のクロスにMF渡辺皓太が合わせ得点(前半24分)。この場面で繰り出された、パスの出し手よりも斜め後ろ方向に繰り出されるクロス、いわゆるマイナスのクロスは効果的だったが、特に第2戦の前半はこれが不足。ゆえにバンコクの守備を崩しきれなかった。

マイナスのクロスが効果的な理由は、ゴールから離れていく軌道のため、ペナルティエリア内の守備者がクロスボールとマークすべき相手選手を同一視野に入れにくいこと。第1戦を見た限り、バンコクの選手たちがマイナスのクロスへの対応を苦手としているふしがあったため、横浜FMがこれをもっと織り交ぜていれば、より試合を優位に運べただろう。キューウェル監督が言及した「最後のところの正確さ(フィニッシュワーク)」は、マイナスのクロスをより織り交ぜることで解決するかもしれない。

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