『劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦』は原作未読でも問題なし! 観客を勇気づける熱

2月16日より『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が公開された。

原作は、集英社『週刊少年ジャンプ』にて連載されていたバレーボールに青春をかける高校生たちを描いた作品。。2014年からはテレビアニメも放送され、人気を博す『ハイキュー!!』がついに映画化。描かれるのは原作ファンからも人気の高い「烏野高校vs音駒高校」の一戦だ。実は本作、原作・アニメファンのみならず、初めて『ハイキュー!!』に触れる人にも楽しめるものとなっている。そんな『ゴミ捨て場の決戦』の魅力を改めて紹介したい。

●なぜ人気? 烏野高校vs音駒高校

子どものころにテレビで観た全国大会で「小さな巨人」に憧れ、烏野高校に入学した主人公・日向翔陽。しかし、現在の烏野高校は弱体化し、エースもリベロも不在。そんな中で日向が出会ったのは、中学のときに公式戦で相まみえた天才セッター・影山飛雄だった。

2人が出会ったことで、烏野は上昇気流に乗る。部員たちの団結、コーチの招へい、強豪校との練習試合。音駒高校もそんな練習試合の相手のうちの一校だが、両校はかつて監督同士がライバルでもあった。そして、現役の選手たちの関係性もアツい。

日向と音駒のセッター・孤爪研磨は親友同士、烏野の1年・月島と音駒のキャプテン・黒尾は師弟関係であり、黒尾は月島のバレー魂に火をつけた男だ。リベロ同士はリスペクトし合い、3年生同士も友情が育まれている。

そんな全国大会からは遠のいていた両校が、ついに晴れの舞台でネットを挟んで「“もう一回”がない試合」を繰り広げる。

●まるでバレーボール観戦に来たような高揚感

映画は春の高校全国バレー3回戦、音駒高校vs烏野高校の試合冒頭からスタート。選手がコートの中へと入り、解説によるスターティングメンバーの紹介、と本物の試合さながらだ。

もちろん、両校の応援団も元気いっぱいだ。音駒高校は地元・東京での試合ということで、応援団のパワーが大きい。大声援の中でスタートする試合は臨場感に溢れ、観ていると自然に手に汗握る。関係性の深い両校選手のやりとりがネット越しに行われる。これは以前から『ハイキュー!!』作品を履修していないと分からないのでは? と思われるかもしれないが、キーとなる出来事は回想で見せてくれる。特に、研磨と日向のやりとりは熱く、どうして日向が音駒高校との対戦に熱くなっているのか、試合に対してだけではない情熱も注いでいることが垣間見られる。

試合中の回想は、観ている側の試合の流れに対する集中力を削がれるのではないか、と思ってしまうかもしれないが、選手それぞれのバックボーンとして必要な情報だ。その情報があるからこそ、試合を楽しめることは間違いない。

「この経験があるから、今の彼がいる」「あの言葉があるから、この試合に抱く思いがある」というのが分かるので、より胸が熱くなる。

●研磨がもうひとりの主人公

さて、『ハイキュー!!』の主人公は烏野高校の日向だ。もちろん、それは変わらないのだけれど、今作において大きくフューチャーされるのは音駒高校の孤爪研磨だ。

スポーツマンタイプというよりはインドアタイプでゲームが好きな研磨。そんな研磨がどうしてバレーボールを始めたのか。どうして、烏野、日向との対戦に熱くなれるのか。多くのシーンが研磨目線で描かれており、これまではどちらかというと何を考えているのかよく分からない……という彼の思考や感情が克明に描かれている。

そして同じコートに立つキャプテン・黒尾との関係にもスポットが当たる。幼なじみで、研磨がバレーを始めるきっかけを作った人物だ。

そんな黒尾との関係が回想で挟まれていくのがグッと来る。黒尾は3年生、全国大会でひとつでも負ければ、彼の高校バレーが終わる。もちろん、研磨はそんなことを気にするタイプではない。目の前にいる相手をどのように攻略していくかを淡々と考えるだけ。それでも、最強の相手を前に、高揚していく自分の心を抑えきれず、自分のバレーの原点へと還っていくさまが回想から伺える。

勝っても負けても、このメンバーでやる試合に“もう一回”はない。試合を終えた瞬間、研磨が抱く感情にぜひ注目してほしい。

●上を向け、ボールを落とすな

烏野高校は超攻撃型のチーム、一方音駒チームは守りが堅いチームだ。そんなチームが対決すれば激しいラリーが続くことは必至。疲れた、でもボールを落としたくない。まだ試合を終えたくない。ワンシーン、ワンシーンにそんな選手たちの想いがあふれている。足が止まりそうになっても、このボールを落とさないために上を向き続ける。その姿は、観る人の心を勇気づけることは間違いない。

(文=ふくだりょうこ)

© 株式会社blueprint