種﨑敦美、岡本信彦、市ノ瀬加那 『葬送のフリーレン』の“静謐さ”を貫いた演技を再評価

80名を超える声優が参加し、それぞれの繊細な演技が、物語の静かな流れに彩りを加えている『葬送のフリーレン』。アニメーションの世界では、声優の演技が作品の魅力を格段に引き上げる鍵となるわけだが、ミニアニメ「○○の魔法」になぞらえるのであれば、まさにさまざまな役者の“声の魔法”がかけられている本作。その声の演技に触れていると、この作品が追求する「徹底した静謐さ」が漂う世界観への意識が、一層鮮明に感じられるのではないか。

まず驚くべきは、フリーレンたちと対峙する魔族ですらも、声に熱を帯びすぎないことだろう。リュグナーがドラートについて「若い奴は血の気が多くて困る」と言葉を放つシーンがあるが、全然血の気が多いようには見えない。それは彼が「強敵」としての役割を持っている一方で、魔族という「感情を持たぬもの」であるからこその演技でもある。

ドラートを演じた大鈴功起は、「魔族の中でも若く血の気の多いドラートの内面を、静かなお芝居の中で少しでも表現出来るよう自分なりに挑戦させて頂けて光栄でした」とコメントしているが、この“静かなお芝居”こそが、『葬送のフリーレン』ならではの声優たちの演技を引き出す枠になっているように思う。(※)

わかりやすい例でいえば、主人公のエルフ・フリーレンを演じる種﨑敦美の演技は注目を集めてきた。種﨑は、『となりの怪物くん』や『魔法使いの嫁』など様々な役を演じ分けてきたが、フリーレン役と『SPY×FAMILY』でのアーニャ役の間に見られる「静と動」の演技のギャップはコアなアニメファン以外からも賞賛を集めている。しかし、このような演技のギャップを生み出しているのは種﨑だけではない。

勇者ヒンメルの役を務める岡本信彦も、種﨑と同様に驚くべき“声のギャップ”とも言えるようなキャラクターの演じ分けを見せている。ヒンメルの穏やかで柔らかい雰囲気と、決断の時にはしっかりと声を荒げない落ち着いた演技は、『青の祓魔師』の奥村燐や『僕のヒーローアカデミア』の爆豪勝己といった、荒く情熱にたぎるキャラクターを演じた時との顕著な対比を見せた。ヒンメルのセリフにどこか切なさが滲むのは、彼がすでに亡き人としてフリーレンの思い出の中に生きていることも含めて、岡本が『葬送のフリーレン』が持つ静謐な空気感を役の中に宿していることの証なのかもしれない。

そんな中でも、静かな芝居の中で気持ちの変化を見せるのがフェルンだ(とはいえ、フェルンも基本的には物静かなのだが)。エルフのフリーレンとは異なり、人間として年齢を重ねるフェルンは、幼少期から青年期にかけての身体的な成長を見せる。そんなフェルンの成長に伴う声の変化も、声優の市ノ瀬加那が一貫して演じ分け、幼さが残る声のニュアンスも見事に表現されている。

さらに、フェルンといえばシュタルクとの関係性も見どころになっており、「同年代の気になる男子」との会話の雰囲気もたまらない。最初はハイターの存在しか知らなかった人形のようなフェルンが、拗ねたり怒ったりと表情を変えていく様子は、市ノ瀬の表現力の豊かさを感じるポイントでもある。

第17話より、第2クール「一級魔法使い試験編」へ突入した『葬送のフリーレン』。一級魔法使い試験の受験者や試験管、さらには大陸魔法協会の関係者まで、演じる声優たちも賑やかなキャストたちが集う。一級魔法使いの資格を求め、フリーレンとフェルンが選抜試験に臨む第2クールでは、新たに11人キャストが登場した。谷山紀章演じる血の気の多いヴィアベルや、上田麗奈演じる多彩な魔法を操るメトーデなど、第2クールをワントーン熱く盛り上げるキャラクターたちの活躍も気になるところ。本作に漂う“静謐さ”は、第2クールで登場する声優たちにどんなギャップをもたらすのだろうか。

■参照
※ https://frieren-anime.jp/news/646/
(文=すなくじら)

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