老後に備えた住宅の〈バリアフリー化〉を成功させる、8つの「要リフォーム箇所」とは【一級建築士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

年を重ねるにつれて身体機能も衰え、自宅にいるにもかかわらず、大きな怪我を引き起こしてしまうケースも少なくありません。安心した老後を迎えるためには、「『備える・やりたいリフォーム』で自宅を備えることが大切」と、一級建築士・高橋みちる氏は言います。高橋氏の著書『やらなければいけない一戸建てリフォーム』より、詳しく見ていきましょう。

老後に備えたリフォームを

年を取らない人はいませんね。老いは必ず訪れます。最近は「人生100年時代」とも言われ、長生きを「リスク」と捉える風潮もあります。

しかし、人として1日でも長く生きられるなんて、素晴らしいことですよね? なぜそれがリスクなのでしょう。長生きがリスクになるか幸福になるかは、備えが足りているかどうかにかかっています。備えには、個人の力ではどうにもならない社会的なものもあるかもしれません。しかし、自力でどうにかできるものもたくさんあります。そのうちの一つが、「自宅を備える」ということです。

安心した老後を迎えるために「備える・やりたいリフォーム」で自宅を備える方法を考えていきましょう。

まずは、身体機能の衰えに対する備えについてです。加齢によって筋力が弱まったり、疾病によって手足に障害が残ったりして、身体的な機能が衰えても安心して住み続けられる家にしようということです。私も最近はバランスが悪くなってきたなと感じることがありますが、ちょっと姿勢を崩したときなど、とっさに手すりを握って転倒を防げたという経験がある方は多いと思います。

バリアフリーとはバリア(障壁)をフリー(取り除く)という意味ですが、どのような身体機能になっても、安心して暮らせる家にするということです。そういう意味では断熱リフォームもバリアフリーと言えますが、その他にリフォームでできるバリアフリーにはどのようなものがあるか挙げてみましょう。

1.手すりの設置

先ほどもお話しした通り、バランスを崩したときに頼りになるのが手すりです。家の中では段差を乗り越えるときや、姿勢を変えるときがバランスを崩しやすいところです。

具体的には、玄関の上がり框、階段、掃き出し窓からの出入り、トイレの立ち座り、浴槽に入る際のまたぎなどです。特に、階段の手すりは2000年以降の建物には法律で設置が義務づけられています。階段からの転落は思わぬ大ケガにもつながりますので、付いていない場合は早めの設置をお勧めします。

体の状態によっては廊下や居室にも連続した横手すりが必要になることもありますが、横手すりなら特別な下地補強の工事をしなくても、柱などの構造材を利用して取り付ける方法があります。不要な手すりはかえって邪魔になる場合もあるので、連続手すりは必要になったときに設置するというスタンスで大丈夫です。

手すりの設置はもちろんですが、足を踏み外さないように階段の踏み板にノンスリップ(滑り止め)を付けたり、階段の色を周囲の床材よりも明るい色や濃い色などにして目立たせるなどの配慮も有効です。転倒や転落によって骨折したことがきっかけで、歩行が困難になってしまう場合もあります。ちょっとの配慮で防げる事故も多いので、ご参考にしていただければと思います。

2.床段差の解消

昔のドアは、床に「沓摺」と呼ばれる1~2センチメートルの高さの段差がありました。この程度の段差は健常なときには何も意識しませんが、怪我や障害などが原因となり摺り足で歩くようになると、これが引っ掛かりやすい段差となります。

トイレや和室にも数センチメートルの段差がある場合もありますが、いずれも床のリフォームを行うついでに段差を無くすことができます。段差を乗り越えるという動作は必ずしも悪いことではなく、体力を維持するためにはむしろ段差はあった方がいいという考えもあります。ただ、数センチメートルのわずかな段差は歩行中の転倒の原因となりやすいため、リフォームの際にできるだけ解消しておくと良いでしょう。

重要なのは「収納」「キッチン」「照明」のバリアフリー化

3.収納を手の届く高さに設定

これから収納を考えるなら、高さに配慮したいところです。というのも、70代頃から腕の可動域が狭くなり、吊戸などの高所は荷物の出し入れが大変な作業になってしまうからです。

また、床下収納も出し入れの姿勢は腰などに負担が大きく、辛くなります。収納は高さが重要で、上限が目の高さ、下限が膝の高さを目安に収めておくと、長く便利に使い続けることができます。吊戸を撤去すれば天井面が広く見えるため、お部屋全体も広く感じられるようになります。

リフォームは断捨離のチャンスです。この際思い切って不要なものを処分し、コンパクトな収納に変えるのも良いかもしれませんね。

[図表1]収納は上限は目の高さ、下限が膝の高さを目安に収めておく 出所:『やらなければいけない一戸建てリフォーム』(自由国民社)より抜粋

4.照明の明るさを強化

加齢とともに必要になってくるのが、照明の明るさです。20歳を基準にすると、60代を過ぎると2~3倍もの明るさが必要になるとも言われています。照明計画を変更するには、壁や天井の裏に隠れている電気配線も変更する必要がありますから、壁紙を貼り替えるついでに照明計画も見直しておきたいところです。

照明は全てを明るくするよりも、キッチンの手元、食卓、作業台や机の上、玄関など、作業が必要な場所をスポット的に明るくするのが効果的です。階段や廊下の危険防止として、足元に暗くなるとセンサーで自動点灯するフットライトなどを設置するのも良いでしょう。

5.コンロのIH化

住み慣れたわが家であっても、ちょっとしたことで家庭内事故は起こってしまうものです。特に大事故につながるような危険な物には、安全に配慮しておきたいところです。

ガスコンロの消し忘れなどはよく心配されますが、2008年から安全センサーの搭載が義務化されたため、コンロ火災は大きく減少しています。まだ旧式の安全センサーが未搭載のものをお使いの場合は、リフォームで交換されることをお勧めします。

IHクッキングヒーターもかなり普及してきましたが、やはり「火」を使わない安心感が支持されているようです。着ている衣類に着火するという事故もありますので、IHの方がより安全と言えるかもしれません。キッチンメーカーのショールームなどで実物を確認し、使い勝手に応じて選ぶと良いでしょう。

「風呂」「トイレ」の理想のリフォーム方法は?

6.出入口を広く、引戸へ変更

リフォームで室内の建具を交換する予定があれば、開口部の幅はできるだけ広く、可能であれば引戸に変えると良いでしょう。

開き戸では手前に開く際には一旦後ろに下がる動作が必要で、障害の程度によっては後ずさりが難しくなる場合もあり、また車椅子対応という点でも引戸は優れています。開け放しても邪魔になりませんし、引戸は誰にとっても使いやすいですね。ドアから引戸に簡単にリフォームできる商品もありますので、施工業者に相談してみてください。

ただし、今よりも開口を広げたり壁を撤去して新しく開口したりする場合は、耐力壁かどうかの確認をしなければ安易に行うことはできません。壁や開口部の位置を変更する場合は、必ず建築士資格を持った設計士に検討してもらいましょう。

7.トイレの改修

トイレは毎日必ず使う場所です。昔勤めていた工務店の社長が「死ぬ3日前まで自力でトイレに行きたい」といつも言っていましたが、それを可能にするトイレを是非用意しておきたいものです。

高齢期にトイレで問題になるのは、出入口が狭い場合です。体調を崩した時などに介助者に手伝ってもらうというケースは意外に多く、入り口が狭く奥に細長い一般的なトイレでは、これが大変困難なのです。この手のトイレに有効なのは、出入口の方向を変え、できるだけ開口幅の広いドアとすることです。

この場合も壁や柱など構造体の変更が伴うため、前項のドアから引戸へ変更するのと同様に、必ず建築士資格を持った設計士に構造を検討してもらいましょう。また、立ち座りの際の支えとなる手すりも一本付けておくと安心です。

[図表2]トイレは出入り口が重要 出所:『やらなければいけない一戸建てリフォーム』(自由国民社)より抜粋

8.お風呂の改修

現在のお風呂が出入り口に10センチメートル以上の床段差がある場合は、ユニットバスにリフォームすることで床段差を無くすことができます。また、ユニットバスに断熱材をオプションで追加すれば、家全体の断熱工事まではできない場合でも、浴室だけは温かい空間を作ることができます。

お風呂は介護者と一緒に入ることも想定し、トイレと同様に出入り口は開口幅が広めの引戸にしておくと安心です。ユニットバスの手すりは必要になった時に後付けが可能ですが、シャワーの高さを自由に設定できるシャワーバーが手すりを兼ねる商品もあり、浴槽へ入る際の支えにもなり安心です。

[図表3]ユニットバスへのリフォーム 出所:『やらなければいけない一戸建てリフォーム』(自由国民社)より抜粋

高橋 みちる
リフォームコンサルタント
アールイーデザイン一級建築士事務所 代表

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン