サンローラン、マーク ジェイコブス……なぜハイブランドは書店に興味? ファッション×カルチャーの可能性

世界的ハイブランド「サンローラン」が、先日パリ7区に書店「サンローラン バビロン(SAINT LAURENT BABYLONE)をオープンした。この書店はサンローランのライフスタイルライン「サンローラン リヴ・ドロワ」の新たな取り組みとして作られたもので、アートや音楽などの書籍販売に加えてカルチャースペースも開設。朗読会やDJセッションなど、各種イベントの開催も可能となっている。(参考:「サンローラン」がアートやカルチャーを発信する書店「サンローラン バビロン」をパリにオープン)

ハイブランドが書店を運営するのは、これが初めての事例ではない。日本国内に関して言えば、「マーク ジェイコブス」が東京・原宿でブックストア「BOOK MARC」を10年余り運営していた(2023年6月に閉店)。

また、ハイブランドが書籍を出版する例は数多い。例えばルイ・ヴィトンはさまざまなアーティストが国や都市をテーマにイラストを描いた「トラベルブック」シリーズを出版。そのほかにも数多くのアートブックを刊行している。また、エルメスはポップアップブック(飛び出す絵本)や100%ORANGEによる絵本『エルメスのえほん おさんぽステッチ』などを刊行。書籍の刊行はこれらのハイブランドにとって、「ちょっとした意外性と遊び心のあるアイテム」という位置付けのようだ。

ハイブランドが書店を運営する理由も、書籍の刊行と同様の理由があるように思われる。つまり、書籍やアートブックをファッションアイテムとして扱うことの意外性が、ファッション性の高さに結びついているのではないだろうか。「知名度も人気もあるブランドと、そのブランドならではの視点で運営されている書店」という組み合わせが一周して洒落て見える……という要因はあるように思う。

また、カルチャーに強いとアピールすることは、ハイブランドにとっては強みになる。高級品を売っているハイブランドの商売は、ただ単に服や鞄を販売していればいいというものではない。社会貢献や文化的レベルの高さ、そしてそこから生まれる高級なイメージこそが彼らの武器である。近年これらのハイブランドでは、使用素材の環境負荷の低さやトレーサビリティの高さをアピールする動きが続いている。単に値段に見合った商品を売るだけではなく、環境問題にいち早く取り組み、ダイバーシティの推進をアピールすることが、現在のハイブランドの商売には欠かすことができない。

カルチャー方面への取り組みを顧客に直接アピールすることができる場所を抱えていることは、こういったブランドのイメージ戦略にとってもプラスに働くだろう。単に服やカバンや化粧品を売っているだけではなく、アートや文学、歴史や科学などへも目配せをしている企業であるという点は、ブランド価値のさらなる向上につながるはずだ。

さらに言えば、書店自体が多目的な文化発信基地化し、一種の観光名所・オシャレスポット的に変化していく動きも関連している。洒落た店内では本以外に雑貨や文具なども販売し、カフェが隣接して設置され、広いスペースを活かして各種イベントなども開催する。このトレンドの代表格としては、蔦屋書店があげられるだろう。店内にイベントスペースを備え、喫茶店としての機能も持たせてブランド化した書店は全国的に増加しており、現代における「実店舗を備えた書店」の最適解かのように見える。

つまり、ハイブランドが運営する書店と、ネットでいくらでも本が帰る状況に合わせて書店側が進化していった形が、同じ地点を目指していると言えるだろう。レアであることに意味があるハイブランドの書店はいきなり数を増やすことはないだろうが、大規模書店がカフェ/雑貨屋化・イベント施設化していく流れは当分止まらないはず。「書店とブランド」の関係は、今後も近づいていくのかもしれない。

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