【対話術】口ベタ上司もマネできる!部下から具体的な話を引き出す“ひと言”【1on1コミュニケーションの専門家が伝授】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「今、組織では対話できるマネジャーが求められている」…そう語るのは、1on1コミュニケーションの専門家・世古詞一氏。同氏は、著書『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)にて、口下手マネジャーでも対話がうまくいく“対話の型”とスキルを余すところなく紹介しています。本書より一部を抜粋し、今回は“しゃべってもらうスキル”の一つ、「相手に質問する」を見ていきましょう。

【しゃべってもらうスキル】相手に質問する

前回までは、相手の話に反応したり、話を返すということを見てきました。今回からさらに深くしゃべってもらうために質問について見ていきたいと思います。ここでは各ボックスの奥にある潜在的な部分まで深堀りしていく「具体化質問」と、ボックス内の横に広げていく「拡大化質問」の2つの質問をご紹介します。

本稿では、具体化質問を見ていきましょう。

「具体的には? 」――縦に掘って具体化する

【図表】具体化質問 イラスト:加納徳博
出所:世古詞一著『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)

人は事実を自分のフィルターを通して認識しています。たとえば、上司から指摘された事実に対して、Aさんは「わざわざ指摘をしてくれる優しい上司だ」という認識を持ち、別のBさんは「わざわざ指摘してくる面倒くさい上司だ」と認識します。そして、その認識を無意識に抱えたままコミュニケーションをしていますので、誤解や間違いが起こるのです。また、自分自身その認識が当たり前だと思って気づいていませんので、認識を変えるのは難しい面があります。それが、自分の行動に制限をもたらしています。

ですから、その思い込みである認識がどのようにつくられたのか、深掘って確認していくことが必要です。それが具体化質問です。具体化質問には、以下の3つがあります。

【具体化質問①】促し

相手が話したいことを、詳しく話してもらいます。相手が話すうち、自然と話が深掘りされて具体化していきます。相手に任せているので、相手に負荷はかかりません。ですから、話し始めなどまだ対話が温まっていないときに活用するといいでしょう。

⇒例:「もうちょっと聞かせてもらってもいいかな?」「というと?」「それでそれで?」

【具体化質問②】深堀り

質問者が意図的に話を深掘って具体的にしていきます。答え手にとって回答がまったく浮かばないような質問をすると、場合によっては問い詰められているような印象を与えることもあります。しかし、深掘りすることを合意できているときには、良い発見がある可能性があります。

⇒例:「具体的に言うと?」「たとえば?」

【具体化質問③】定義

言葉の意味や意図を明確化していきます。自分が心の奥底で感じていることや経験してきた事実をすべて言葉で語ることはできません。言葉は五感で感じる情報量に比べて圧倒的に少ないのです。ですから、少しでも思っていることを正確に、あるいは確信を持って表現できるように後押ししていきます。

⇒例:「あなたにとって、〇〇ってどういうこと?」「本当に?」

具体化質問を使えば、「真の課題」が見えてくる

★具体化質問を使った対話の例

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課長(部下):「最近マネジメントに手を焼いていまして…」

部長(上司):「そうなんだね。もうちょっと聞かせてもらってもいいかな?」←(1. 促し)

課長(部下):「近頃、マネジメントっていうのがよくわからなくなってきたんです」

部長(上司):「そうか。マネジメントってそもそも、課長にとってどんなイメージがあるのかな?」←(3. 定義)

課長(部下):「面倒くさい、ですね」

部長(上司):「なるほど、たしかに面倒なところあるよね。」←(共感)

「具体的にどんなところが面倒に感じるのかな?」←(2. 深堀り)

課長(部下):「調整するためにいろんな人の顔色をうかがうところでしょうか」

部長(上司):「ほほぅ。というと?」←(1. 促し)

課長(部下):「つい、話しやすい人とばかりコミュニケーションを取ってしまって、話ができていない人とは明らかにコミュニケーションを取りづらいのです。それで何かにつけ反発してくるので、その人の状態をいちいち気にしなくてはいけなくて…」

部長(上司):「ほぉ、なるほど。話しにくい人がいて、その人への対応に意識や時間を取られてるということかな」←(整理)

課長(部下):「まぁ、そうですね。今一番気にかかるのはそこですね」

部長(上司):「なるほど。じゃあマネジメントというか、その人への対応の仕方について、いろいろ考えてみようか?」←(真の課題設定)

課長(部下):「はい、お願いします!(明るい表情)」

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このように、答えを出さなくても、話を返して具体化質問を行うだけで、最初の認識(思い込み)から真の課題(事実)が見えてきました。

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最初の認識(思い込み):マネジメントは面倒くさい

真の課題(事実):話しにくい人への対応に意識と時間が割かれている

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ここまで来さえすれば、あとは課題に対して部下の考えを尊重しつつ、お互いの意見を出し合っていけば、自ずと話は解決に向かっていきます。

世古 詞一(せこ・のりかず)

組織人事コンサルタント

1on1コミュニケーションの専門家

1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントの専門家。早稲田大学政治経済学部卒。

Great Place to Work Institute Japan による「働きがいのある会社」2015年、2016 年、2017 年中規模部門第1位の(株)VOYAGE GROUP の創業期より参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め、2008年独立。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学、マインドフルネス、ストレングスファインダー、アクションラーニングなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。

著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』(かんき出版)がある。

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