【特集:GRとNISMO変化の実存①】ワークスチューンが止まらない!GRカローラとGT-R NISMOの特別と格別

ノーマル車や標準車などというあり方を素直に喜べない、という人も少なくないだろう。そこに、どうしても“多数派のための妥協点”があると考えてしまうからだ。クルマ好きらしいもっと絞り込んだ仕様を望むならば、ワークスチューンは格好の存在だ。(Motor Magazine誌 2024年3月号より再構成)

【プロローグ】もう「奥手」とは言わせない

狭い国土に多くの乗用車メーカーが軒を連ねるという、世界でも他に例を見ない形態を見せる日本の自動車産業界。いずれもグローバルなマーケットに向けた量販モデルを手掛ける故、実用本位のモデルがメインとなるのは避けられない事柄と考えられてきた。

トヨタのマスタードライバーであるモリゾウこと豊田章男氏の想いを反映して開発されたのが、この「モリゾウ RR コンセプト」。レクサスとGRの垣根を超えたプロジェクトの先駆けだ。

しかしそうした中にあって“本体”からスピンオフされ、モータースポーツ活動やその知見を活かしたスポーツモデルなどの開発に特化されたことで、異彩を放つ存在がいる。規模が大きいとは言えないながらもクルマ好きにとっては気になるニュースを発し続けているのが、トヨタ発の「GR」や日産発の「NISMO(ニスモ)」というブランドだ。

その源流に辿り着こうとなると、どちらも長いヒストリーを遡らなければならない。今回スポットライトを当てるのはそれぞれが携えた独自の知見を活かして開発され、親会社のディーラーネットワークを通じて新車として発売されるコンプリートモデルだ。

とくに、2017年に新しいスポーツカーブランドとして発表されたGRシリーズは、当初は「気軽にスポーツドライブを楽しめる」をコンセプトとした「GRスポーツ」を謳っていた。ベースモデルのサスペンションやボディにライトチューニングを施したバリエーションが取り扱いのメインだったのだ。

2024年春からにお販売開始が予定されている日産「アリア ニスモ」。BEV制御に関する深い知見が存分に注ぎ込まれたEVニスモのフラッグシップモデルとなるはずだ。

それが昨今では、コンペティションの場で勝利を収めることを念頭に開発されたモデルや、ル・マン24時間レースを筆頭とするWEC参戦モデルをベースに公道走行も可能とされたハイパーカーの市販化も噂される。さまざまな意味で、怒涛とも言える勢いでそのバリエーションを拡大中である。

ひと昔前にはむしろこの手のモデルに関しては「奥手」と思えていたトヨタ発の製品群だけに、ひとたび決断が下されるとさすがに世界トップのメーカーの力量は物凄いものだと感心させられる。

そうしたGRの派手な動きに触発されたかのように、レーシングコンストラクターとしては日本屈指の存在であるニスモもまた、バリエーションを拡大している。日産スポーツモデルの最高峰であるGT-Rや新型フェアレディZのニスモバージョンに続いて、最新BEVのニスモバージョンとなるアリアニスモの登場が示唆されるなど、昨今その動きは活発だ。

さらに最近ではレクサスの新型LBXに、ハイパフォーマンスを追求したターボ付き3気筒エンジン搭載のコンセプトモデルが姿を現すなど、GRブランドにもさらなる展開の兆しが見て取れる。これまで限られたニッチなマーケットをターゲットとした両ブランドの存在感は、急速に高まっている。

新たなるフラッグシップが呼び覚ます「憧れ」

GRカローラをわかりやすく紹介すれば「エンジンや4WDシステムなどのランニングコンポーネンツを先行したGRヤリスから受け継ぎつつ完成された、カローラシリーズのスポーツフラッグシップ」ということになろう。

2022年12月2日に抽選申し込みの受付が開始された日本でのGRカローラRZ。販売台数は500台で、価格は525万円と設定された。取材車は一部改良のアップデートを実施した仕様。

ただし、いずれもコンパクトなハッチバックボディに強力なエンジンを搭載した4WDモデルゆえ。両車の棲み分けがやや難解と受け取る人も現れるかもしれない。そこをトヨタでは、1970年代にWRCの舞台で活躍したTE25カローラやカローラレビンなどを引き合いに出しながら「ユーザーを虜にするカローラを取り戻すため」という趣旨で紹介する。

そもそもが競技の世界での勝利(のみ)を念頭に生み出されたGRヤリスに対し、こちらは絶対的なスピード性能とともに、シリーズ中のイメージリーダーという役割も大きいと考えられそうだ。

そうは言ってもGRカローラも実際の仕上がりは、単なるスポーティなレベルに留まらず、キャラクターは硬派そのもの。それはまず、生まれた環境を隠そうとしない、そのエクステリアデザインによってたっぷりと表現されている。

シリーズのハッチバックモデル「カローラスポーツ」をベースに前後のフェンダー部分を盛大に拡幅し、それに合わせてトレッドを広げたスタンスやフロントの巨大な開口部、ディフューザー処理が施されたリアエンド部分から顔を覗かせる特徴的な3本出しテールパイプなどで醸し出されるコンペティティブなルックスは、独自の迫力を演出。

フロント2席に用意されるパーフォレーション表皮のスポーツシートには除電機能が内蔵され、車体の帯電量を軽減して優れたスタビリティの確保に貢献・・・などという話題は、いかにもトヨタ車らしいポイントだ。

GRヤリスとは似て非なる仕上がり

リアドアを廃した上で空力特性向上に重きを置いて後ろ下がりの専用ルーフラインを採用するなどしたGRヤリスと比較すると、5ドアボディを踏襲してラゲッジスペースも同容量を確保するなど、カローラの一員として基本的実用性はまったく犠牲にしていない。

スーパー耐久シリーズなどへの継続的なモータースポーツ参戦を通して、進化させていくことが標榜されているGRカローラ。23年8月の一部改良では、50台の限定ボディカラーであるシアンメタリック外板色とブラック×ブルーの専用内装色という仕様も設定。

見た目の硬派さにちょっと身構えながら、短いストローク量のシフトで1速をセレクトしてクラッチをミートさせるとGRカローラはあっけないほどに楽々とスタート。

高いエンジン回転数は必要なく、急ぐのでなければアイドリング状態のままアクセルペダルに触れることなくエンゲージをしてもOK。街乗りシーンでは、1段飛ばしの操作すら可能など、低回転域でのフレキシビリティの高さは呆れるほどだ。

右足を深く踏み込めばそんな低回転域からでもターボブーストがレスポンス良く立ち上がるのを実感。基本ディメンション決定の際に「排気干渉の小ささを考えてあえて3気筒を選択した」という開発陣のコメントを思い出す。

さらに高回転域に至るまで一切の頭打ち感を伴わない点も印象的。ちなみにホットなドライビング中には「大き過ぎる」センターディスプレイが視界内に割り込んでくる点は気になった。一方で、注視していなくてもイエロー→レッドと色彩を変えることで、回転リミットの接近を認識できるタコメーターの表示は、実用的ですこぶる好印象だ。

基本は硬めのセッティングで4WDシステムと相まってオーバー300psのパワーを余裕をもって受け止めながら、振動のカドは丸められて街乗りでも我慢を強いられない乗り味に「カローラのGRモデル」としてのキャラクターが感じられる。やはり、GRヤリスとは似て非なる仕上がりだ。

【トヨタ GRカローラ 主要諸元】全長4690×全幅1895×全高1370mm ホイールベース2780mm トレッド前1600mm/後1600mm 車両重量1720kg 乗車定員4名 エンジン型式VR38DETT V型6気筒ツインターボ 総排気量3799cc 最高出力441kW(600ps)/6800rpm 最大トルク652Nm(66.5kgm)/3600-5600rpm 駆動方式4WD 変速機6速DCT サスペンション形式 前ダブルウイッシュボーン/後マルチリンク タイヤサイズ 前255/40R20 後285/35R20

真剣に向き合うことで生まれる緊張と解放

かくも街乗りユースまでの配慮が行き届いたそんなGRカローラに対し、徹底して「公道も走れるレーシングモデル」という印象が強いのがGT-Rニスモである。

高効率・大容量のGT3ターボチャージャーを採用する専用仕様のエンジン、カーボンセラミックブレーキシステム、カーボン製ルーフやフロントフェンダーなど、徹底したチューニングを実施。最新型は前後の意匠も変更された2024年モデル(28,650,600円)。

現行型デビューは2007年末だが、絶え間なくリファインの手が加えられてきたことで、現在でも日本車きってのトップパフォーマーとして不動の地位を誇るGT-R。その中でも、ニスモならではの知見をふんだんに注ぎ込み、シリーズの頂点に立つ走りのパフォーマンスを標榜するのが、その時々のニスモバージョンだ。

そのキャラクターの持ち主ゆえ、本来のパフォーマンスを解放できる舞台は、サーキット以外に考えられない。正直なところ、今回のテストドライブでもアクセルペダルを深く踏み込めるのは、ほんの一瞬に過ぎないものだった。

それでもハンドルを握っていると、精緻なメカニズムの集合体がもはや熟成の域に達していると実感できて、持てるパフォーマンスのほんの数%しか発揮できない状態で走っていても、思わず頬が緩んでしまうのがこのモデルのドライブフィール。

転舵操作に対して一瞬の遅滞も見せない舵の効きや、これ以上ないという濃密な路面とのコンタクト感に「クルマと真剣に向き合ってドライビングをする快感」を汲み取れるのだ。

誕生当初にはオールラウンダーなスーパースポーツモデルを標榜していたGT-Rが、サーキットでのスピード性能に照準を合わせれば、こうした仕上がりへと昇華される。それを見せつけてくれるのが、GT-Rニスモというモデルなのである。(文:河村康彦/写真:井上雅行)

インパネまわりやシートなど、2022年モデルではインテリアにも大きな変更はなかった。
【日産 GR-R ニスモ 主要諸元】全長4690×全幅1895×全高1370mm ホイールベース2780mm トレッド前1600mm/後1600mm 車両重量1720kg 乗車定員4名 エンジン型式VR38DETT V型6気筒ツインターボ 総排気量3799cc 最高出力441kW(600ps)/6800rpm 最大トルク652Nm(66.5kgm)/3600-5600rpm 駆動方式4WD 変速機6速DCT サスペンション形式 前ダブルウイッシュボーン/後マルチリンク タイヤサイズ 前255/40R20 後285/35R20

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