【インタビュー】女子サッカーでも奨学金!世界最高峰NWSLに挑むMF黒崎優香に聞いた「アメリカの大学へ進学するメリット」

今夏に開催されるパリ五輪出場をかけて、北朝鮮との最終予選に臨んでいるなでしこジャパン。

育成年代では世界の覇を競う両チームだが、近年、女子サッカーでは欧州の躍進が目立っている。昨夏のワールドカップでスペインが決勝でイングランドを破り初優勝を飾ったことは記憶に新しい。

しかし、男子との違いとして、女子はアメリカにもナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ(NWSL)という世界最高峰のリーグが存在する。

そんな女子サッカー界の現状を知るため、Qolyは今年、NWSLのレーシング・ルイビルFCへ加入した26歳の黒崎優香にインタビューを敢行した。

2016年、藤枝順心高3年次にキャプテンとして9年ぶりの全国制覇を成し遂げたMFは、高校卒業後に渡米。奨学金をもらいながらアメリカの大学で成長してきた。

大学卒業後は欧州でプロキャリアをスタートさせ、ヴァッカー・インスブルック(オーストリア)、アルナ・ビョルナー(ノルウェー)、KuPS(フィンランド)でプレー。

その活躍が評価されて今年、“夢舞台”へのステップアップを実現させた。

今回のインタビューではそうしたキャリアとともに、高校卒業後の進路として今注目を集めているアメリカの大学への進学について、自身が設立した会社で海外留学のサポートもしている黒崎に色々と聞いてみた。

「今からが本当の勝負」

――本日はありがとうございます。まずは、一つの目標であったNWSLへたどり着いた今の率直な気持ちを教えてください。

2016年に高校を卒業して、渡米したんですけど、そこからはNWSLでプレーすることが自分の中で一つの夢でした。

大学4年間を向こうで過ごして、目に見える結果を残せてなかったのですぐにはやっぱりドラフトにも引っかからなかったですし、経験値を積まないとアメリカへ戻ってくるのは難しいと分かっていました。そういう経緯からヨーロッパでチャレンジすることを決めました。

ヨーロッパではオーストリア、ノルウェー、フィンランドでプレーし、昨シーズンはフィンランドのKuPSというクラブでリーグ戦優勝とカップ戦優勝、全然勝てなかったんですけどチャンピオンズリーグにも出場することができて。

フィンランドに居たのは短い期間で満足のいく結果を残せたとも思っていませんが、周りからの評価が良かったということもあり、今回のレーシング・ルイビル移籍につながりました。

自分の中で決して無理だとは思っていなかったんですけど、アメリカでプレーすることは難しいということも分かっていました。

その中で、こういうタイミングや縁とかもあり、オファーをいただけたことはすごくありがたいことですし、今からが本当の勝負かなと思っています。

――近年、女子サッカーは欧州が力をつけている一方で、アメリカでも人気が根強いスポーツです。選手にとってそれぞれどういった魅力がありますか?

サッカーのスタイルとして考えるとアメリカとヨーロッパでは違うと思いますし、一番レベルが高いのはイングランドのスーパーリーグだと思います。

ただ、盛り上がりはアメリカも負けていません。ヨーロッパで違う国を探して移籍する選択肢はもちろんありましたが、自分の場合はやっぱりアメリカの大学へ行っていたというのが大きくて、アメリカでプレーしたいという気持ちが強かったというのがあります。

結局はそれぞれの選手がどこを目指すかによるのかなと思います。

アメリカで地域に根付く「独特のスポーツ文化」

――アメリカで女子サッカーが“観るスポーツ”として定着している理由はどういうところにありますか?

大学スポーツからそうなんですけど、大学の女子サッカーの試合とかでも、3,000人くらい入ったりします。それが高校を卒業した時にアメリカに行くと決めた理由の一つでした。

日本では、たとえば高校サッカー選手権。男子は入りますけど女子の観客は多くないですし、大学のインカレも同様です。以前のなでしこリーグや現在のWEリーグでも何万人みたいなのは、ワールドカップに愁傷した頃はありましたけど、そこからは観客数が増えていない実情があると思います。

自分が初めてアメリカへ行った時、試合を観戦したらスタジアムが満員だったんです。大学の試合なのに。

とにかく驚いて、サッカーのレベルというよりその雰囲気を感じたことで「ここでプレーしたい」という気持ちを強く抱いたのがアメリカでの最初の印象でした。

地域の人たちが大学のスポーツをすごく応援してくれて。サッカーだけではなく、バスケットボール、アメリカンフットボール、何でもそうなんですけど、すごく応援してくれますし、それがそのプロスポーツも同じという感じです。

地域の人たちが応援してくれるような仕組みというか独特のスポーツ文化があります。

高校時代、卒業後の進路について母親と話し合った黒崎。

当時は漠然と日本の大学へ進学してサッカーを続けることを考えていたが、「サッカーで進学はしてほしくないとまでは言われていないですけど、例えば4年間で怪我をしたらどうするのか。やりたいことや学びたいことがあるならサッカーを使って進学することは全然いい。でもそうじゃないなら…」と言われた時に、具体的なイメージが浮かばなかった。

何のために大学へ―、様々なことを考えながら目を向けた先が海外だった。

欧州のスペインやフランス、ドイツも考えたが、卒業してすぐプロ契約を取れると思っていなかった。3部リーグなどでの働きながらプレーするのでは、なでしこリーグと変わらない。そこで、アメリカでプレーしながら返済不要のスカラシップ(奨学金)をもらって大学へ通うことを決意。困難な要素を挙げればキリがなかったが、何とかなると思った自分がいたという。

そんな黒崎は現在、2021年1月に設立した「株式会社ユウカ考務店」で代表取締役を務めている。事業の一つが選手の留学のサポートだ。

サッカーを“手段”にするチームメイトたちに衝撃

――黒崎選手は高卒で渡米し、名門校であるケンタッキー大とオクラホマ大で計4年間を過ごしました。自身の経験をもとに感じる、女子サッカーでアメリカの大学へ進学するメリットは?

入るまですごく大変ですし…もちろん入ってからも大変なんですけど、例えば大学を卒業する4年後には自動的に英語がある程度話せるようになっています。それにより、サッカーでプロにならなくても自分の視野が広がると思います。

日本の大学に進学した同期の子たちと話をすることもありますが、WEリーグやなでしこリーグでプレーしている選手たちも、じゃあ引退した後どうするのかとかをあまり考えていないというか、「多分スポンサーの会社で働くと思う」みたいな感じでした。

自分がアメリカの大学に行っていた時、チームメイトの子たちでプロを目指している子って本当に一握りしかいないんですよね。

自分のやりたいことや学びたいことを見つける人もいればもうすでに見つけている人が、サッカーを“手段”として大学に入学している。その時点で違うというか、常に自分の将来を描いていました。

自分はもちろんプロになりたいと思ってアメリカの大学に行ったんですが、彼女たちの存在は衝撃的でしたし、そういう人たちと生活しているとすごく刺激をもらえました。

もちろん文化の違いや言葉の壁とか、いろいろ大変なことがあると思うんですけど、それ以上に人間的に成長できるというのは海外に出た人にしか多分わからないことです。

それが良い時もあれば悪い時もありますけど、自分の経験を通して伝えていきながら、今後の子たちにも海外を目指す子が増えていけばいいなと思っています。

他の国の子たちはもう本当に高校生年代や大学生年代で英語はほとんど話せる子たちも多いですし、英語でなくても何かしら他の言語を喋れるというのが当たり前です。

日本にいたら日本語しか使わないので、あまり必要ないかもしれないんですけど、海外に行ったから気づけたことや学んだことが本当にたくさんあるので、そういうことを伝えていきたいですね。

「自分が経験したことを伝えられるというのは強み」

――黒崎選手は2021年に設立した自らの会社(株式会社ユウカ考務店)で留学のサポート事業を行っています。アメリカの大学には日本人選手の需要があるという感じなんですか?

自分がアメリカ行って、自分自身すごく良い経験ができたと思っているので、もっと「アメリカの大学にサッカー留学する」という選択肢があることを日本で広めていきたいです。私が行った時よりは情報が入ってきているほうだと思うんですけど、まだまだ全然知れ渡っていないと思います。

自分が経験したことを伝えられるというのは私の一つの強みです。

日本にも今はWEリーグができましたし、なでしこリーグもあります。そうした中で、海外を目指す選手たちにアメリカの大学を知ってもらって、選択肢の一つになればいいなと思っていたので、会社を始めました。

――向こうで必要とされやすいタイプの選手像はありますか?

日本人の選手は海外の選手に比べると個々の技術が高いです。なので、中盤の選手や組み立てができる選手は興味を持ってもらいやすいというか。

ストライカーとかはやはり海外の選手は足が速いです。ただそこでも、ドリブルで自ら切り込んでいける選手だと全然話が違うと思います。

監督の好みとかもあるので一概に言うのは難しいですが、日本人のほうが個々の技術は高いので、それをうまく発揮できる選手は最終的にピッチに立つことができるんだろうなとは感じます。

――最後に、初めてのNWSLで黒崎選手がどんなプレーを見せたいか教えてください!

今までのリーグよりもレベルが1、2段階上がると思うので、まずは試合に出るところからです。スタートラインに立てたということを嬉しいですが、ここからが本当の勝負だとも思っています。

まずは監督やスタッフとコミュニケーションをとって、自分がどういうプレーヤーなのかを知ってもらわないといけないですし、自分も他の選手たちのことを理解しないといけません。

1年目でしっかり試合に絡めるようにしつつ、中盤の選手なのでゲームを組み立てや、チャンスがあればゴールを狙いに行くとか、そういうプレーでチームに貢献できるように頑張っていきます。

なでしこジャパンへの想いも聞いてみたところ、「まずは海外でビッグクラブへ行くことが目標で、サッカー選手として上を目指したい」と語った黒崎。「海外で地道に頑張っていたからこそ『チャンスはあるんだよ』というのを自分は示したい」という彼女の言葉には、海外での経験を積み重ねてきた“強さ”を感じた。

今年加入したレーシング・ルイビルのあるケンタッキー州は、大学最初の2年間を過ごした場所。

「チームからは『お帰りなさい』じゃないですけどそういうふうな受け入れ方をしてもらっています。大学の友達やお世話になった方もケンタッキー州にはいるので、初めて行ったケンタッキーでプロとしてやれるのは本当に嬉しいです」

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大学時代から一つの目標としていた“夢の舞台”にまもなく立つ黒崎優香。高いスキルを持つ26歳の攻撃的MFにぜひ注目してほしい。

2024シーズンのNWSLは、3月16日に開幕する。

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