藤原大祐、“油断ができない”存在感でスター街道へ 『リビングの松永さん』もハマり役に

岩下慶子原作のドラマ『リビングの松永さん』(カンテレ・フジテレビ系)では、ピュアで健気な女子高生の“ミーコ”こと園田美己(髙橋ひかる)が、怖そうに見えて実は世話焼きな12歳年上のアラサー男・松永純(中島健人)に恋をする。

舞台は、ひとつ屋根の下のシェアハウス。深夜帯のみならず、GP帯でもコアな作品が増える中で、ここまで王道のラブコメ要素を詰め込んだドラマは逆に珍しい。大人でも楽しく観られるのは主役の2人はもちろんのこと、脇を固める登場人物も一人ひとりがキャラ立ちしていて、なおかつそれぞれの役者が実力と個性を兼ね備えているからだろう。

中でも存在感を放っているのが、ミーコや松永と同じシェアハウスに住む医大生の北条凌(藤原大祐)だ。凌は松永とミーコを巡って静かな火花を散らすキャラクター。どちらかといえば、今までかわいい印象の強かった藤原大祐が、これまた王道のラブコメには欠かせない“恋のライバル”役で新境地を開いている。

両親が知り合いに見せた写真がきっかけとなり、2019年より芸能活動を開始した藤原。芸能界入りのきっかけからしてスターになる素質が溢れているが、その1年後に『おじさんはカワイイものがお好き。』(読売テレビ・日本テレビ系)に出演すると瞬く間に頭角を現す。演じたのは、誰もが憧れる渋くてかっこいい“イケオジ”だが、カワイイものに目がない主人公・小路(眞島秀和)の家に居候する甥の真純。

美少年という言葉はこの人のためにあったのではないかと思わずにはいられないその愛らしさが話題に。一方で、ただカワイイだけじゃなく、実は少女漫画家志望で、その夢を人に話す勇気が持てないでいる真純の葛藤を随所に滲ませる藤原の演技には新人とは思えない安定感があった。

『恋する母たち』(TBS系)では、木村佳乃の息子役に。奥平大兼や宮世琉弥とともに思春期ならではの心の揺れを表現し、“ネクストブレイク筆頭株”として注目を浴びた。翌年の2022年には4本のドラマと2本の映画に出演し、多くの人の期待に応える活躍ぶりを見せる。特に『もしも、イケメンだけの高校があったら』(テレビ朝日系)と『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)での怪演には度肝を抜かれた人が多いことだろう。どちらの作品でも藤原は笑顔の裏に長年蓄積された負の感情を隠し持っており、最後の最後でそれを爆発させる役どころを担った。

藤原はキュートで爽やかなイメージと、何かを秘めたミステリアスなイメージとを行き来する。その掴みどころのなさがどの作品でも肝となっており、「〇〇だけど、実は……」というような役を演じることが多い。

『忍者に結婚は難しい』(フジテレビ系)で演じた宇良豹馬はただの忍者オタクかと思いきや、実は現代に生きながらえる伊賀忍者の末裔だったし、『転職の魔王様』(カンテレ・フジテレビ系)で演じた犬飼翔も今どきのくだけた大学生に見えて、人材派遣会社のアルバイトをこなしつつ、自分の進路とも真剣に向き合うしっかり者だった。その人のギャップとなる部分にベールをかぶせながらも、登場時点から「何かあるな」という気配を漂わせられる藤原は“隠し玉”のような存在として重宝されている。だから、観る側としても良い意味で油断ができない。

『リビングの松永さん』で演じている凌も、最初と現時点(第7話)ではまたイメージが異なる。当初はシェアハウスに入居してくるも他の住人とあまり関わりを持とうとはせず、どちらかといえば冷たい印象を覚えた。だが、松永が自身のために歓迎会を開いてくれたのを機に少しずつみんなが集まるリビングにも顔を出すようになった凌。また本人も無自覚だったが、ミーコに一目惚れしており、その恋心も募らせていく。

でも、ミーコは松永に夢中。その横顔を見つめる凌の切ない心情を藤原が表情でたっぷり見せてくれている。自分の気持ちを押し殺し、ミーコの恋をさりげなくサポートしているところも凌の魅力。恋のライバル役といえどもつい応援したくなるのは、言葉数こそ少ないけれど、凌の持つ不器用な優しさが藤原の演技を通して伝わってくるからこそだ。

20歳という節目の年に当たり役を得た藤原。今後、その俳優活動はますます勢いづいていくと思われるが、同時に注目したいのがアーティストとしての活動だ。実は藤原、2022年からTiUとして覆面でのアーティスト活動を開始。昨年10月に正体を明かし、メジャーデビューを果たしている。

藤原自身、特大の“隠し球”を持っていたのだ。俳優と歌手の二足のわらじで活躍する人は数多くいれど、シンガーソングライターとして自ら楽曲も手がける人はそう多くない。筆者の一押しは新曲「Human Melody」。〈だから歌うよ 僕の歌を 意義とか正義とか そんなものじゃなくて〉というアーティスト活動に対する決意とも取れるフレーズから始まるこの楽曲では、藤原が得意とするピアノの心地よいメロディに優しくも力強い歌声が載る。俳優活動の方で分かっていたつもりだが、その表現力の幅広さに改めて驚かされた。2月と3月には、東京のZepp DiverCityと大阪のZepp Osaka Baysideにてワンマンライブを開催するTiU。

俳優としてもアーティストとしてもうなぎのぼりの活躍を見せる藤原をどうしても重ねてしまうのが、所属事務所アミューズの先輩である福山雅治だ。言わずもがな、日本を代表する俳優兼シンガーソングライターである福山は藤原にとっても意識せざるを得ない存在だろう。

その福山は24歳の時、両親の死後、7年ぶりに一緒に暮らし始める6人兄弟を映し出した『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)でブレイクを果たした。全く異なる物語ではあるが、同じく“ひとつ屋根の下”での出来事を描く『リビングの松永さん』に出演中の藤原はどことなく当時の福山と面影が重なる部分がある。そんな“ネクスト福山雅治”とも言える藤原が俳優として、またシンガーソングライター“TiU”として、スターへの階段を駆け上がっていく姿を追いかけていきたい。

(文=苫とり子)

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