小売業にも商機あり? 女性の健康課題を解決する新トレンド「フェムテック」とは

近年、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」が注目を集めている。フェムテックと一口に言っても、女性の健康課題は年代や個人によってさまざまで、一人ひとりの悩みによって必要とされる商品・サービスは大きく異なる。国内の雑誌やメディアでも露出が急激に増え、市場拡大が期待されているフェムテックとは一体何か。関連商品の小売・卸を手掛ける企業、fermata(フェルマータ)(東京都)の担当者に聞いた。

fermataが運営する大阪・心斎橋の店舗「fermata store in Welpa」

女性の社会進出と健康ブームを追い風に市場拡大!

最近、雑誌やテレビなどのメディアで目にする機会が急増している「フェムテック」という言葉は、2016年頃にビジネス用語として誕生した、「female(女性)」と「technology(テクノロジー)」を掛け合わせて作られた造語である。

ドイツ発の月経管理アプリ「Clue」を開発した創業者イダ・ティン氏が、資金調達を行う際、男性比率が高いために、女性の健康課題を解決するプロダクトのニーズを理解しづらかった投資家のため、わかりやすい言葉をつけて、市場があることを可視化したのがはじまりだ。

矢野経済研究所が2021年10 月に発表した、国内のフェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査では、市場規模は前年比103.9%の597億800万円と発表されており、女性のライフステージが進むにつれて直面する悩みに対し、テクノロジーを活用して解決しようとする商材やサービスを指す言葉として一般的に認知されつつある。

フェムテックがカバーする悩みのカテゴリーは、月経や更年期、妊活、不妊、妊娠や産後の悩みに加え、メンタルヘルスからセクシャルウェルネス(性の健康)まで、多岐にわたる。

2016年に日本医療政策機構がまとめた「働く女性の健康増進に関する調査結果」によると、PMS(月経前症候群)を含む婦人科系疾患を抱えながら働く女性の医療費支出や生産性損出は、少なくとも合計で6兆3700億円にものぼるという。国内で高まる健康ブームと相まり、最近では更年期から老年期にかけてのソリューションが盛り上がる気配を見せている。

「やっと最近、PMSによる経済的損失などの話題が大きく取り上げられるようになったが、働く環境などを整備する会社の上層部に女性が少ないのが現状。女性の管理職比率向上と並行し、決裁者である男性に理解してもらわないと日本は変わらないと思った」

そう話すのは、フェムテック関連商品の小売・卸を手掛けるフェルマータで、セールスマネージャーを務める森本将也氏だ。同社初の男性社員だという森本氏自身は、長く美容業界で活躍し、多くの働く女性たちを間近で見てきた経験を生かし、フェムテック市場に参入する企業のコンサルティングを担当する。

fermataセールスマネージャーの森本氏

「国政でも女性の社会進出の施策が発表されているが、目標を真に達成するには女性が抱える健康課題を見つめる必要がある。月経や更年期をサポートするアイテムの活用や、健康課題に対する社会の理解が不可欠になってくる。さらに国がフェムテック事業者に対して補助金を出す流れもあり、今後商材の増加と共に市場はさらなる盛り上がりを見せるだろう」(森本氏)

同社が主催し2019年から開催しているイベント「Femtech Fes!」では、当初の来場者数は80人程度だったが、3回目となる2022年には3日間で約2900人までに増加。さらに2024年2月に開催された4回目は約5000人の来場があった。フェルマータの持つネットワークを活かして、海外のフェムテック起業家を多数誘致し、「世界最大級のフェムテックイベント」として話題になった。

更年期から老年期の女性に寄り添う!

フェムテックという言葉が日本で一般的に認知され始めたころ、まず注目を集めたのは、吸水ショーツだった。これは本体に吸水性があり、洗濯することで繰り返し使用することができるサステナブルな生理アイテムだ。ファストファッションブランドが次々に手ごろな価格で吸水ショーツの取り扱いを始めたのをきっかけに、一気に知名度が高まった。

フェムテック関連商品でまず注目を集めたという吸水ショーツ

一方でフェルマータの店頭では、「安価な吸水ショーツを試したが、自分には合わなかったので高品質なものを求めて来店した」という声も少なくなかったという。「フェムテックに触れる入り口として、リーズナブルな商品の存在はありがたいが、より快適に長く使い続けてもらうためには、売価が上がったとしても高品質な商材を手に取ってもらう必要がある」と森本氏は話す。

吸水ショーツの次に注目を集めたのは、医療用シリコンを使用した月経カップ。同商品は、折りたたんで挿入し、膣内で広げたカップに経血をためて使用する生理用品だ。適切な手入れをすれば数年繰り返し使えるものも。経血が空気に触れないため月経特有の臭いや、カブれなども気になりにくい。正しく装着すれば経血が流れ出てくることはないので、プールや温泉などのレジャーでも活躍するほか、ナプキンに比べ連続装着時間が長いのもメリットだ。

「月経カップ」も近年認知が広がっている注目商品のひとつ

月経カップは月経中に手で膣内にカップを挿入する必要があるため、スムーズに装着するコツや、正しい装着位置、外出先で快適に経血を捨てる方法などの知識が不可欠となる。それらの情報や、圧倒的な使用感の快適さが口コミやメディアで認知されるにつれて、手に取る人が増えているという。

このほかにじわじわと人気を集めているのが、「骨盤底筋訓練器具」という一般医療機器として届出された「ケーゲルベル」だ。産後や更年期を迎えて緩みがちになる骨盤底筋を鍛え、尿漏れ改善をサポートするアイテムだ。これまで雑貨扱いだった商材だったが、一般医療機器として届出することで「尿漏れ(腹圧性失禁症)」にアプローチできると記載できるようになった。

尿漏れ改善をサポートする「ケーゲルベル」

「当初は『なってしまったものをフォローする』という目的で吸水ショーツが売れていたが、健康ブームの高まりとともに、尿漏れを『予防する』という思考に変化しつつある」と森本氏は話す。さらに比較的、経済的に余裕のある更年期〜老年期の女性にシェアが広がることで、より高品質で付け心地の良い商材の需要も高まっている。

「ケーゲルベルは“尿漏れ改善をサポートする”という訴求ができる商品。サイト上でこのように記載した瞬間に売れるようになった。雑貨というカテゴリーだと伝えられることが少ないが、効果を具体的に打ち出すことによって、お客様自身の悩みとリンクしやすくなるため、購入につながるケースが増える」(森本氏)

フェムテック製品は新しい価値観を内包するモノも多いため、広告表現などの規制やルールが整備されきっていない。いかにお客に安全なものをわかりやすく伝えて届けるかが今後の課題だ。また、まだ店頭で手に取りにくいと感じるお客に対して、購入しやすい導線を整えることも必要だと森本氏は説明する。

小売業でも広がるフェムテック関連商品

今まではオンラインでの取り扱いが主だったフェムテック製品だが、一般的な認知度の高まりとともに、足元ではマタニティや家電、医療系の小売店、大手百貨店でも取り扱いが始まっている。「吸水ショーツに続き、月経カップなども近い将来、多くのドラッグストアなどで並ぶようになるだろう」としつつも、「フェムテック製品はただ棚に置いておくだけで売れる商材ではない」と森本氏は話す。

客層の年代が変われば、該当しやすい悩みも変化し、必要な商材も変わるのがフェムテックの難しいところだ。「月経カップひとつをとっても、商品が違えば柔らかさや大きさが全く異なる。お客さまにはどの商品が合うのか、それぞれの悩みを聞きながら接客するのがベストだ」(森本氏)

森本氏は続ける。「高価な高機能化粧品が売れ続けるのは、売場にいるカウンセラーが商品の特性を説明できるだけではなく、お客さまの悩みに寄り添った商品を提案できるから。価格が高くてもその分機能性が担保されているから満足度が高く、リピートされるビジネスモデルが確立されている。フェムテックを求める人の悩みの多くは、美容よりもセンシティブな内容である可能性があり、的確なアドバイスが必要不可欠だ」(森本氏)

百貨店のような手厚い接客を持ってしても、その場でフェムテック関連商品を購入するのを躊躇するお客は少なくないという。いち早くフェムテック製品を取り扱い始めた三越伊勢丹では、店頭に並ぶ商品をECサイトでも購入できるように購買導線を整えた。「百貨店のようにスタッフに人員を割けないドラッグストアでは、きちんと商品の特性を紹介するようなポップが必要。また、たとえば同じドラッグストアでも、都心部と郊外といった店舗の立地によってアプローチの仕方や課題は変わってくる。失敗をしてもそれを糧にブラッシュアップしてほしい」と森本氏は説明する。

製品の特性だけでなく、女性の健康問題から学び、理解する小売店が増えることが、フェムテック市場をさらに大きく飛躍させる今後のカギとなりそうだ。

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