『ブギウギ』小雪演じるトミが遺したもの 山下の横顔に滲むひとつの時代の終わりも

『ブギウギ』(NHK総合)第104話では、スズ子(趣里)が愛子(小野美音)を連れて、トミ(小雪)の葬儀に参列する。成長した愛子の姿を見ることなく、トミは亡くなった。長年、村山興業で働いてきた山下(近藤芳正)にすらトミの病状は伝えられなかった。

坂口(黒田有)と矢崎(三浦誠己)は、トミが愛子とスズ子をずっと気にかけていたことを伝える。病気のことも、社外に漏らすなときつく言われていたようだ。「せめて福来さんにはと説得したんですが、あかんの一点張りで。余計な気を遣わせたくなかったんだと思います」と矢崎は言った。トミの気遣いに、スズ子は愛助(水上恒司)を思い出す。

愛助は自分が一番しんどい時、スズ子や周りに心配をかけないよう大丈夫なふりをしていたとスズ子は回想する。坂口と矢崎が語るトミはチャーミングでもある。トミはこっそりとスズ子のレコードを集めて聴いたり、タナケン(生瀬勝久)とスズ子の映画を観に行ったりして、スズ子の活躍を楽しみにしていた。坂口と矢崎は「全部バレてるっちゅうんやな。ははは……」と笑った。「そんなん聞かされたら余計会いたなるわ……」とスズ子は切なくなった。

そんな中、山下はトミの死を誰よりも深く悲しむ。山下は人当たりのいいやわらかな笑顔が印象的だ。だが、一人、遺影の前にたたずむ山下の横顔には、心にぽっかり穴が開いたかのような喪失感がある。東京へ戻った後、愛子を気遣う山下の声色は普段通り穏やかで優しい。けれど、気持ちが沈んだままであることはその佇まいから十二分に伝わってくる。山下は愛助の遺影に手を合わせながら「何や、気が抜けてしもたな……」と小さく呟いた。「ほんなら、またお願いします」と言うスズ子に、山下は何も答えずその場を立ち去った。

それから数日後、羽鳥(草彅剛)から新曲を渡されたスズ子が歌の練習をしていると山下が尋ねてくる。山下は単刀直入に「マネージャーを辞めさせていただきたいんです」と言った。スズ子にとっては唐突な申し出だった。動揺するスズ子に対し、山下は自分の心の内を正直に言葉で伝えた。

「ワシとスズさんをつなげた2人がのうなって、何や心の糸が切れてしもうたんです」

愛助が亡くなった後「何があっても支える」と言ったはずの山下の申し出に、スズ子は思わず「そんなん勝手すぎるわ」と口にする。スズ子の気持ちもわからなくはない。だが、村山興業で長年働いてきた山下にとって、トミと愛助の存在はとてつもなく大きなものだった。山下の真剣な面持ちに、よく悩んだ末に辞めるという結論を出したことが伝わってくる。

自分を支えるといった山下の言葉は嘘だったのかと訴えるスズ子に、山下は顔をあげ、スズ子の目をまっすぐ見つめて「うそやありまへん。そうやない」と言う。「ワシらの時代は終わったんだす。せやけどスズさんは違う。スズさんは、これからの人と仕事をすべきやと思うんです」という山下の言葉も決して嘘ではないはずだ。

トミだけでなく、信頼できるマネージャーとの別れまでもが訪れた第104話は、かなり緊張して見えるマネージャー候補(三浦獠太)の背中で幕を閉じた。新たな出会いはどんな波乱を引き起こすのだろうか。

(文=片山香帆)

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