インド人、「だまされて」ウクライナ戦地へ ロシアのため戦うはめに 

イムラン・クレシ、ネイアズ・ファルーキー、BBCニュース

少なくとも12人のインド人があっせん業者にだまされ、ウクライナと戦争中のロシア軍のために戦わされており、うち1人はミサイル攻撃で死亡した――。インドでそんな報道が出ている。

インド紙「ヒンドゥー」は先週末、グジャラート州出身のヘマル・アシュウィンバーイさんが21日にミサイル攻撃で死亡したと伝えた。

ヘマルさんの父親は23日、ヘマルさんと3日前に話をしたとBBCに説明した。ウクライナの国境から同国内に20~22キロメートル入った地点に配属され、携帯電話がつながった時には数日おきに電話をかけてきたという。

他のインド人たちの家族は動揺し、連邦政府に帰国させるよう訴えている。

家族らによると、だまされたのは22~31歳の男性たちで、「ロシアの軍施設のヘルパー」として雇われた。その後、「訓練」を口実に戦場に送り込まれたという。

ロシア国内のインド情報筋は、これまでに数十人のインド人がロシア軍に入隊したと話す。しかしロシア国防省の関係者は、実際には昨年100人近くが採用されたと「ヒンドゥー」に述べた。BBCはデリーのロシア大使館に取材を申し込んだが、まだ返事がない。

インド外務省は、「何人かのインド人がサポート役としてロシア軍に入隊している」と認めている。

同省は声明で、「モスクワのインド大使館に持ち込まれたこうした事案についてはすべて、ロシア当局に強く働きかけている。外務省に持ち込まれた事案については、ニューデリーのロシア大使館に働きかけている。その結果、すでに何人かのインド人が除隊となっている」と説明した。

同省はまた、「すべてのインド国民は十分に注意し、この紛争に近づかない」よう呼びかけている。

何人かの男性たちは動画で、どのようにあっせん業者にだまされて戦場に送られたかを説明しており、家族に衝撃が広がっている。家族はみな貧しく、トゥクトゥク(3輪自動車)運転手や茶の販売、手押し車での物売りなどをしている。

男性らとその家族は、数カ月の軍務につけばロシアのパスポートが手に入るとあっせん業者に約束され、30万ルピー(約55万円)を支払うよう要求されたと主張している。あっせん業者はインドやアラブ首長国連邦(UAE)、ネパール、スリランカから人を集めており、料金は最大120万ルピーに上っているという。

BBCが取材した一部の親族らは、男性たちは高い給料を約束されて誘い込まれたが、何に巻き込まれるのか分かっていなかったと話した。いまもロシアにいる男性たちは、安全のため身元は明らかにされていない。

カルナタカ州で手押し車で茶と卵を売っている父親は、「28歳の息子はドバイの包装会社で働いていた。彼は友人3人と一緒に、あっせん業者の動画を見た。ロシアで仕事があり、9万~10万ルピーの給料を約束するという内容だった。彼らの当時の収入は3万5000~4万ルピー程度だった。みんな借金して、あっせん業者に30万ルピーを支払った。どうか息子を連れ戻すのを助けてほしい」と、電話口で泣き崩れるようにBBCヒンディー語に語った。

テランガナ、グジャラート、カシミール、西ベンガル、ウッタル・プラデシュの各州から集められた人々も、同様にだまされたとされる。モスクワから逃れて帰国したのは1人しかいない。

ウッタル・プラデシュ州出身の男性は、1月末にモスクワの安全な場所で撮影された動画で、「(インド人が運営するユーチューブ・チャンネルの)BabaVlogによってここに連れてこられ、(月に)15万ルピーの給料を約束された。軍に徴兵されるとは聞いていなかった」と話した。BBCはこのチャンネルに連絡したが、返事はなかった。

だまされたと訴える人たちに戦闘経験はない。軍服姿で動画に登場したウッタル・プラデシュ州出身の男性は、ソーシャルメディアで採用されたと説明した。

「モスクワでロシア語で契約書にサインし、よく分からないうちに、戦地に送り込まれる兵士になっていた。私たちはだまされた」。男性はそう言い、自身と他のインド人2人は戦闘で負傷したと主張。傷を負ったとみられる右手で身振りをしながら説明した。

「どうか私たちをここから出してほしい。そうでないと前線に送られる。砲撃があるし、ドローン(無人機)がそこらじゅうに落ちてくる。私たちは戦争経験がゼロだ。あっせん業者のせいで、こんな状況に置かれている」

カシミール州出身の男性は、ロシアとウクライナの国境地帯から電話で、仲間のインド人1人と、ネパールとキューバからの計9人と共に、ウクライナ南東部のマリウポリに足止めされていると話した。この男性は訓練中に足を負傷したという。

「私の指揮官は、右手で撃て、左手で撃て、上に撃て、下に撃て、と言い続けていた」。男性はそう振り返った。

「銃は触ったこともなかった。ものすごく寒くて、左手で銃を持っていた時に自分の足を撃ってしまった」

男性たちの1人のきょうだいは、インド人たちが「ワグネルの民兵部隊にいるのか、ロシア軍にいるのか」分からないとし、こう言った。「彼らはウクライナ国境から40キロほどの地点にいる。3カ月でロシア市民権をもらえると約束されている」。

訓練や戦地への派遣をただ一人免れたのが、グジャラート州アーメダバード出身のシャイフ・モハメド・タヒールさん(24)だ。先週帰国し、「私はここの車のバッテリー工場の労働者だった」と話した。

こうした問題は、ハイデラバード市選出の国会議員アサドゥディン・オワイシさんが取り上げたことで注目を集めた。オワイシさんは1月23日に外務省に文書を送り、男性たちを帰国させるため政府の介入を求めた。

インドの主要野党・国民会議派のマリカルジュン・カルゲ党首は、過去1年間で100人ほどのインド人が「ヘルパーとしてロシア軍に採用された」と主張した。

「衝撃的なことに、その一部はロシアとウクライナの国境で、ロシア軍と共に戦わされている。パスポートや書類が取り上げられ、身動きが取れず帰国できないと話す労働者もいる」

2022年にウクライナで戦争が始まったとき、インド人数人がウクライナ軍に志願したとの報道が一部であった。だが、ロシア側で戦闘任務に就いているインド人がいると報じられたのは、これが初めてだ。

BBCは、ロシアにいるインド人で、かつてウクライナ国境付近で従軍し、現在は軍に所属していない男性に話を聞いた。彼は自らの経験から、ロシア軍は透明性があり、契約内容はオンラインで見られるようになっていたと述べた。ただ、ロシア語を知らない人はあっせん業者にだまされていたと付け加えた。

(英語記事 Ukraine war: Indians ‘duped’ by agents into fighting for Russia

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